第十七話 術の創造者
本日二度目の投稿です。
頑張ったわりに、あまり進んでいない……?
最初の方は前回の、セリアでなくルーシェル視点からのものです。
洞窟に入ってきたセリアは、なぜか暗い顔をしていた。それでもルーシェルが呼ぶと、彼女は笑顔になった。
「遅くなってごめんね、ちょっと用事があって。……でも、お邪魔だったかな?」
慌てて否定しながら、セリアの様子を観察する。いつもと変わらないように見えるのに、この笑顔は何だか無理をして作っているように見えた。
(何か悪いことでもあったのかな?)
クロードと話していたセリアの顔に、ふと影がさす。それに気付いたのか、ノギスがルーシェルの肩に乗りセリアの顔を覗き込んだ。
「セリア?」
ルーシェルも心配になって尋ねると、彼女は何でもないと言って微笑んだ。その笑顔も無理に作っているようだ。
「昨日はいつもより遅く寝たから眠いのかも」
嘘ではないのだろう。だが、本当のことでもない。友人になってまだ一ヶ月も経たないが、それはわかった。
(……セリアが話さないってことは、僕に話さなくてもいいことなんだよね)
そう納得したが、自分には関係ない、と言われたようで悲しくなる。
(……話してくれるまで待とう)
話してくれるかわからないけど。
悲しそうなセリアを見て、そう考える。ルーシェルに関係のない話かもしれない。だが自分に話すことで少しでも、彼女が楽になれたらいい。
だから待とう、と思った。
「ルーちゃん。今日は私、夜までここにいるわ」
「本当に!?」
セリアはいつも、外が暗くなったらすぐ帰っている。だから夜までセリアがここにいると思うと嬉しくなった。
なぜいきなり彼女が夜までいようと思ったのかはわからないが、何も尋ねないことにした。
「なら俺も夜までいることにしよう」
続いたクロードの言葉に、思わず顔をしかめてしまう。嫌いではないのだが、せっかくのセリアと過ごす時間を邪魔されるようで、できれば彼には帰ってほしかった。
「まだ魔女と人間を差別する癖が、直っていないからな」
昨日来た時に比べれば、随分ましになっただろう。まだ満足していないのか。
(あの変態にどれだけ憧れてるの?)
セリアも、あの変態に敬意を感じると言っていた。どこが、と信じられなかったが、セリアがそう言うのなら少しはクロードの言っていた『立派な』人間なのだろうか。
(名前は……フェルマン?)
そんな感じだった気がする。
「ねえクロード、あの変態の名前ってフェルマンだっけ?」
「馬鹿か。フィルマンさまだ、フィルマンさま」
馬鹿と言われむっとする。だが今のはルーシェルが悪かったから、ぐっと怒りたいのを我慢した。
(フィルマン、ね)
これからは心の中で『変態』ではなく、ちゃんと名前で呼ぼう。口では変態と言うが。
「セリア、君だったらあの変態を名前で呼ぶとしたら、どう呼ぶ?」
「フィルさん、かな? だけど私は、ルーちゃんが変態と呼ぶ限り変態さんって呼ぶわ」
ごめん、と心の中でフィルマンに謝罪する。永遠に君は名前を呼ばれないだろう。
「……まあ、あの変態のことは置いといて」
「なっ!」
「クロードのことも置いといて。セリア、少し寝たらどうかな? 眠いんでしょ? 夜までいるのなら、まだ時間はあるし」
セリアの目がとろんとしてきている。まだ十歳くらいの少女なのだから、夜更かししたら眠くなるのが当たり前だ。セリアと話していると、年下だということをつい忘れてしまう。
「ううん、できるだけ……じ…んをむ…………ないから」
できるだけ、の後を、セリアは小声でつぶやいた。
「え?」
「とりあえず、私は今、ルーちゃんと話していたいの。いいでしょう?」
聞き返すと、そうはぐらかされてしまった。セリアと話したいのはルーシェルも同じだから、しぶしぶうなずく。
「あ、だけど椅子は二つしかないから、一つ足りないわ……。寝台に二人で座る?」
「そうだね」
クロードのせいで、椅子が足りない。少しだけ彼を睨み、ルーシェルは寝台に腰を下ろした。セリアもそこに座ると、
「……ねえルーちゃん。クロ君のこと、どう思ってるの?」
この場にクロードがいるのに、堂々と訊いてくる。ルーシェルは思わず咳き込んでしまった。
「どう思ってるって……僕は別に……ただ」
「ただ?」
「……ちょっと、ここにいられるのは迷惑かなって」
ルーシェルの返答を聞いて、セリアはきょとんとする。そして次の瞬間には思い切り吹き出した。
「ぷっ! あはははは!」
「な、何で笑うのさ!」
顔を赤くさせてそう訊くと、セリアは「ルーちゃんだもんね」と何やらよくわからないことを言い、納得していた。
「……迷惑、か?」
そう尋ねてきたクロードに、少しためらった後うなずく。
「え、あ、う……ん。まあ、君のことは嫌いじゃないんだけど。やっぱり最初の印象が悪かったからね」
あの時の瞳。あの瞳は、ルーシェルを殺そうとしていた村人と、同じものだ。
クロードのことは嫌いではない。だが、あの瞳を思い出すと好きにもなれないとも思う。
「まあ、最初に比べれば良くなったんじゃないかな。ただ、魔女と人間を差別しないようになりたいのなら、他の魔女を当たってほしい」
「……俺もそう思い、まだ封印していない魔女に会ってみた。だが、俺の姿を見るなり襲ってきた」
「それは当然だよ」
よくわからない、という顔をするクロードに苛立ちを感じる。
人間が、魔女にどう接してきたのか。
それを考えれば、襲われる前に襲うというのは当然のこと。ルーシェルのような魔女は滅多にいないのだ。その魔女だって、人間に散々なことをやられただろう。
「クロードは、殺されそうになったことがある? ただ他の人間と違うってだけで」
「……ある」
てっきりないと思っていたのに、返ってきた答えにぽかんとする。
魔法は人を傷つけるもので、術は人を守るものなのだ。それなのになぜ、術を使える者が殺されそうになるのだろうか。
「たとえ術が、人を守るためのものでも。それを知らない人間にとっては魔法と同じだ。ステルダという町の近くの人間は、術の存在を知っているが……」
ステルダ。懐かしい単語が出てきて、まだあったのかと驚いた。ステルダは、カリマが昔住んでいたと言っていた町だ。その町のことをよく話してくれて、いつか自分も行ってみたいと思っていた。
(だけど……カリマが死んじゃった後、怖くてしばらく洞窟の外に出られなかったんだよね)
そのせいで、すっかり忘れていた。魔法が使えたとしても、髪や瞳の色を変えるのはできなかったから、どうせ無理な話だったが。
ルーシェルがカリマに話してもらったことを思い出していると、隣で話を聞いていたセリアが首をかしげた。
「何でステルダは、術の存在を知っているの?」
そういえばそうだ。セリアに言われて、そのことに疑問を持つ。もしかしたら、カリマが持ってきた本と何か関係があるのだろうか。
「術がステルダに住んでいた者が作ったものだからだ。……魔法を作ったのもステルダの者だがな」
忌々しそうにそう言ってから、またやってしまったとクロードは落ち込む。差別したくないのに、どうしても昔からの価値観を変えられないのだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
ルーシェルは立ち上がり、クロードに詰め寄る。
「クロード!」
いきなりルーシェルが大声を出したのに驚いたのか、うつむいていたクロードはびくっと一瞬震えた。
「な、何だ?」
「『カリマ』っていう人知ってる!?」
ルーシェルの剣幕にたじろぎながらも、答えてくれる。
「ああ、カリマさまは術の創造者だ。だが、カリマさまのことを知る者は少ない。なぜお前がカリマさまを知っている?」
「だって……だって、僕を育ててくれたのはカリマだもん!」
まさか自分の育ての親が、術の創造者だとは思っても見なかった。もしかしたらクロードが、カリマのことを何か知っているかもしれないと思って訊いてみたが……。
ルーシェルの答えを聞いて、クロードは目を丸くした。
「カリマさまが!? ……ふむ、やはり魔女は危険な存在ではないのかもしれないな」
差別しないと言っておいて、危険な存在だとまだ思っていたのか。
だがそのことよりも、カリマのことについてもっと訊きたかった。
「……クロード、カリマのこともっと教えて!」
カリマは、ステルダの町のこと以外、あまり話してくれなかったのだ。
「ああ、いいぞ。俺もカリマさまのことを、詳しく訊きたいからな」
(やったー!)
思わず心の中で叫んでしまう。何て子供っぽいのだ、と自分で自分をおかしく思いながら。
その後、クロードと話していたルーシェルは気付かなかった。
クロードとばかり話す自分を、セリアが寂しそうに見つめていたことに。




