第十六話 残り一週間
二日あいてしまいました……。
なので早めに投稿です。ですが、今日中にもう一度投稿できるかはわかりません。
最初は十五話の最後より前の話です。
弦月をしばらく見てから家に帰ると、なぜか父がまだいた。母は帰ったのか、家には父だけだった。
扉を開けたセリアを、睨みつけるように見てくる。その瞳の鋭さに、思わず身を震わせてしまう。
「お前、何か隠していないか」
「……何も、隠していません」
一瞬間が空いたのが悪かった。その間で、セリアが何かを隠していることを察したのだろう、呆れたようにため息をつく。
「巫女の力を失い、この地にはもう四ヶ月以上雨が降っていない。後一週間で五ヶ月経つ。その意味がわかるか?」
わかっている。それは、幼少の頃から言い聞かされてきたことだ。
うなずいたセリアを見て、父は顔を少しだけ和らげた。
「頼むぞ――セリア」
ずるい、と思った。こんな時だけ。
――最期だけ、セリアの名を呼ぶなんて。
* * *
「あ、セリア!」
自分の名を嬉しそうに呼ぶルーシェル。その声は無邪気で、昨夜初めて父に名を呼ばれたことより、彼女に呼ばれたことに喜びを感じる。
(……駄目よ、暗い顔したら)
ルーシェルに、心を読む力がなくて良かった。もし読まれてしまったら、彼女に止められてしまう。
セリアはいつもと変わらないよう心がけて、ルーシェルに笑顔を向ける。
「遅くなってごめんね、ちょっと用事があって。……でも、お邪魔だったかな?」
チラリ、と見たのは、ルーシェルの向かいに座っているクロードだ。セリアがそうからかうと、ルーシェルは慌て、クロードは真面目な顔で否定した。
「じゃ、邪魔じゃないよ! むしろセリアが来てくれてすっごい嬉しいよ!」
「邪魔ではない。……お前は昨日もいたが、こいつの知り合いか?」
彼の反応を面白くないと思いながら、ルーシェルのことを『こいつ』と言われたことにむっとする。不機嫌そうな顔を隠そうともせずに、セリアは答えた。
「お前じゃなくてセリア。私とルーちゃんは友人よ、クロ君。それが何か?」
クロ君と呼ばれ、クロードは若干顔を引きつらせる。
「……魔女と人間が友人なのか? それが他の人間にばれたら……っと、差別してはいけないのだった。このことは誰にも言わないから安心しろ」
もしアスメリ村の者にばらされたら、と少し不安だったセリアは胸をなでおろして礼を言う。
「ありがとう。ところで、クロ君は何をしにここへ来たの?」
以前の自分だったら、訊かずとも答えがわかったはずだ。心を読めないとは不便だ。
そう考え、本来ならそれが普通なのに気付き、なぜか少し笑ってしまう。
「俺はフィルマンさまがどのような方だったのか、こいつに訊きにきたのだ。フィルマンさまに少しでも近づきたくてな」
セリアが笑ったことに気付かなかったのか、クロードは質問に答えた。
フィルマンとは、ルーシェルが変態と言っていた者のことだ。ルーシェルの心を読んだ限り、あまり変態とは思えなかったが。ルーシェルが変態と呼んでいるから、セリアも変態と言っているだけで、魔女に対しても普通に接していたことに、敬意を感じるくらいなのだ。
「あの変態さんに近づきたいの?」
「……このような少女にまで、フィルマンさまは変態と呼ばれているのか」
「そんなに落ち込まないで? 私自身は、その変態さんに敬意を感じてるから」
ズーンと、後ろで音が鳴りそうなほど落ち込んだクロードを慰める。彼は自分と同じ気持ちの者がいたと思ったからか、ぱあっと顔を明るくした。
だが。
「――呼び名は変えないけどね」
「…………」
笑顔で続けた言葉に、また落ち込む。
(昨日も思ったけど、クロ君をからかうのは面白そう)
恋愛方面には疎そうだが、それ以外のことではからかいがいがありそうだ。
(……後一週間、か)
後一週間で自分は――
「セリア?」
心配そうな声に、はっとルーシェルを見る。肩にはノギスが乗っていて、少し心配そうにしていた。
「何でもないわ。心配しなくて大丈夫」
「でも、何だか今日は来た時から、暗い顔してたでしょ?」
気付かれていたのか。
内心の焦りを微塵も見せず、セリアは「何のこと?」と首をかしげた。
「あ……でも、昨日はいつもより遅く寝たから眠いのかも」
一応本当のことだ。嘘には事実も混ぜないと、すぐに嘘だとばれてしまう。
「そっか」
まだ心配そうな顔をしながらも、ルーシェルは納得して微笑む。それを見て、ズキリと胸が痛んだ。
(ルーちゃんに隠し事……。でも仕方ないよね)
仕方ない、と考えてしまってまた彼女の言った言葉を思い出す。諦めてはいけない。だが、こんな時に諦めないことなどできるのだろうか。
自分には無理だ。
だから精一杯。
残り一週間を過ごそうと思った。




