第十話 魔法と術
遅くなってすみません!
実はGWの宿題全然やってなくて……。
今回あまり進んでいないかも?
セリアと友人になって、もう一週間が経つ。あれから毎日会って、たくさんの話をした。そのおかげでルーシェルは、千年の間に起きたことも大体わかるようになっている。
ルーシェルは丸くなって寝ているように見えるノギスに声をかけた。
「ねぇノギス。そろそろセリアのこと名前で呼んであげたら?」
一週間以上経つのに、まだノギスはセリアのことを『お前』とか『あいつ』としか呼ばないのだ。なぜそれほどまでに、頑なにセリアの名を呼ぶことを拒むのだろうか。
「嫌だ」
即座に目を瞑ったまま断るノギス。彼の言葉に、ルーシェルは無意識のうちにため息をついていた。
(……『お前』って言うと、セリアがいっつも怯えた顔すること気付いてるのかな?)
もし気付いているのならノギスはひどいと思う。なぜセリアがあんな顔をするのかはわからない。だが、いつまでもセリアのあの顔を見るのは耐えられなかった。つまりこれは、ルーシェルのわがままだ。セリアの怯えた顔なんて見たくないから、ノギスに彼女の名を呼ぶように言ったのだ。
もうすぐで、セリアの来る時間だった。それまでにノギスを説得したい。
セリアもノギスが『セリア』と呼んでくれたら、ノギスのことを名前で呼ぶと言っていた。ノギスも『白猫君』と呼ばれるのを嫌がっていたから、セリアの名を呼ぶのは彼にとってもいいことだと思うのだが。
「だから、何で嫌なのさ。理由を言ってくれなきゃ」
彼は理由を言ってくれないのだ。もう一度ため息をついてルーシェルは言った。
「それはね、ルーちゃん!」
「わっ! セ、セリア、君はいつもいきなり出てくるね?」
いきなり洞窟に入ってきたセリアは、キラキラと面白そうに目を輝かせている。何か面白いことでもあったのだろうか。
そんなセリアの頭を、ノギスは飛び上がってしっぽで叩く。相変わらずすごい跳躍力だ。セリアの頭はルーシェルの肩ほどまでしかないとはいえ、猫からしたら高い位置にあるのに。
ノギスはセリアを睨みつけた。
「余計なことは言うな!」
「ふふっ? どうしようかな~?」
片目を瞑って、セリアは首をかしげ人差し指を頬に当てる。ノギスを挑発しているように見えるその仕草に、ルーシェルは苦笑した。セリアのことだから、ように、ではなく挑発しているのだろう。
「セリア、ノギスをからかうのはやめなよ」
ノギスをからかうのが楽しいのはわかるが。
そう考えてしまうと、むぅっとセリアは頬を膨らませる。
「ルーちゃんだって、白猫君をからかうのが楽しいのはわかる、って考えてるじゃない」
「ルーシェル!」
「わわっ、ノギスごめん許して!」
シャー、とまた威嚇するような鳴き声をしたノギスに、あわてて謝る。彼は人間の言葉を話せるが、猫のように鳴くこともあるのだ。
ノギスが言うには、ルーシェルたちが「ミャー」「ニャー」と聞こえる鳴き声は、きちんと意味をもったものらしい。とても怒った時、慌てた時に、ノギスは猫語を使ってしまうのだ。彼は今、とても怒っているのかもしれない。
ルーシェルが心配になった時、セリアが笑って言う。
「大丈夫。白猫君は怒ってないから」
「良かった……セリアが言うならそうなんだね」
その言葉に安心したが、ノギスのしっぽがパタパタ動いているのを見てまた不安になる。セリアの言葉を信じないわけではないが、どう見たって今のノギスは怒って見えるのだ。
「白猫君、ルーちゃんをからかうのは駄目。本気にしちゃうから」
「……それはわかっている」
「え、え?」
ルーシェルはノギスにからかわれていたのだろうか。
セリアは目を瞬くルーシェルを見て、「うんうん」と何度も深くうなずいた。
「ルーちゃんはからかわれても気付かないよね」
「それが面白いんだ」
ノギスをからかうのが面白い、とルーシェルも考えてしまったから何も言えないが……。
彼女たちの会話にだんだんと腹が立ってきた。
(ふ~んだっ。しばらくはセリアともノギスとも口利いてあげない!)
「え!? ル、ルーちゃん謝るから! だから許して! 白猫君、謝らないとルーちゃんが口利いてくれなくなっちゃうよ!」
セリアの扱い方がわかってきた気がする。もちろん、二人と口を利かないというのは本気だが。それでもこれで、もしノギスが謝るのなら、許そうとは思っている。
「悪かった」
「まあ、ノギスがそう簡単に謝るわけな――って『悪かった』!?」
こんな簡単にノギスが謝るはずがない。すんなりと彼が謝ったことに、ルーシェルは驚く。今までノギスと喧嘩して、向こうから謝ってきたことがあっただろうか。いや、ない。
いつもルーシェルが折れて、彼に謝っていたのだ。これはおそらく、またルーシェルのことをからかっているのだろう。
「白猫君は、ルーちゃんのことをからかってないわ。……何で白猫君が素直に謝ったか、理由は言えないけど。怖いくらい、心で『言うな』としか言っていない」
わずかにうんざりしたような顔で、セリアは言う。
ノギスが素直に謝った。信じられなくて、この千年の間に何か心の変化でもあったのだろうか、と考える。そういえば、言葉遣いも心なしか変わった気もした。
「……う~ん、まあいいか。ノギスは話す必要のないことは話さないしね」
彼が話さないと言うことは、ルーシェルが知らなくていいことだ。
「話す必要……あ」
ノギスが口を小さく開け、固まった。しばらく経っても動かないので、セリアと二人でノギスの顔の前で手を振る。それではっとしたのか、今度は急に洞窟の外へ飛び出していった。
「ノギス? どこ行くの……って聞こえてないよな、あれは」
何か思い出したようだった。それは話す必要のあることだったのだろう。なぜ洞窟の外へ飛び出すのかは、わからないが。
その疑問に、ノギスの心を読んだのかセリアが答える。
「えっと、壺かな? 小さい壺を男の人に渡されて、土の中に埋めたのを思い出してた。男の人は、ルーちゃんがいっつも『変態』って心で呼んでいる人だと思う」
「あの変態に渡された壺!?」
そんな大事なことを、なぜ彼は今まで忘れていたのだ。
「埋めた後、術をかけられたらしいわ。どういう術かまではわからないけど、記憶を操るものじゃないかな?」
「術……」
ルーシェルを封印したのも、その『術』というものだった。魔法とは似て非なるもの。
術は、魔法でできないことも、普通にできる。あの変態は、魔法は術をもとにして作られたものだと言っていた。だがその性質は全く違うとも。
『魔法』は人を傷つけるもの。
『術』は人を守るもの。
例えば魔法の『炎』。威力を抑えることができなければ、山一つを燃やしてしまうほど。
術の『炎』。その小さな炎は、辺りを明るくしたり、生き物に希望を与えることができるらしい。
ルーシェルが普段使うのは、『調合』の魔法や『創造』の魔法だった。だがそれは、人を傷つけるためのもの。それを知った時、ルーシェルは思わず涙が出てきてしまった。その後すぐ、歯が浮くようなことを言われ、涙は引っ込んだのだが。
あの変態に教えてもらった、『蘇生』という魔法。本来なら、そんな魔法は存在しないはずなのだ。『蘇生』などという、人を救う魔法は。あの変態の言ったことが正しいのなら、だが、彼には嘘をつく必要がない。
「……ルーちゃんって、魔法が使えなくなったんだよね? それってその変態さんが使えなくしたんじゃないかな。ルーちゃんがそう願ったから」
「確かに昔はそう考えてた。……でも、僕はあの変態にそんなこと一言も言ってないよ?」
というより、セリアにまであの男は『変態さん』と呼ばれてしまうのか。何だか、あの男が哀れに思えてくる。変態なのは、事実ではあるのだが。
「だって、ルーちゃんは魔法が人を傷つけるもの、って知った時泣いちゃったんでしょ? だから、わかったんじゃないかな。人を傷つける魔法なんて、ルーちゃんが望んでいないこと」
「……まあ、あの変態、優しかったしね」
確か女の子は皆好き、とかなんとか言っていたが。魔女の自分に対しても、優しく接してくれた。封印する時だって、ちゃんとルーシェルの承諾をとってからしたのだ。彼の話を聞いていると、何だか封印されてもいいような気がしてきて不思議だった。
そう考えると、セリアがにやにやと笑う。
「おやおや? ルーちゃんは変態さんに恋しちゃったのかな? かな?」
「な! そ、そんな。僕はただ、あの変態が優しかったって言っただけだよ! あんな人間を好きになるなんて、絶対に有り得ない!」
「……そんなきっぱり言われちゃって。変態さんもかわいそうね」
どこがだ。
そもそも、ルーシェルは褒められるのが苦手なのだ。それなのに、あんなことを延々と言われ……。顔から火が出そうなほど熱くなった。だがそれとは反対に、鳥肌も立った。
とにかく、あいつは嫌いだ。
「まあ、ルーちゃんをからかうのはやめておいて」
「からかってたの!?」
「気にしない気にしない。話は変わるけど、白猫君遅いね? 壺を埋めた場所を忘れちゃったのかな」
セリアのことを少し睨む。
(でも……ノギス遅いな)
もしセリアの言う通り、壺を埋めた場所を忘れてしまったのだろうか? ノギスがそんな大事なことを忘れるとは思えないが、千年前のことだったら覚えていなくとも当たり前だ。
「……誰か来る」
その時、セリアの目が細くなって外を見つめる。
「誰かって?」
「わからない。誰かが何かを考えて、こっちに向かっていることはわかるんだけど……」
何かを考えて、とは? セリアが心を読めないなんて、一体誰が来るのだろう。そもそも、ルーシェルの封印が解けたことを知っている者など――
(あ、ノエル?)
一人いた。最悪の人物が。
このままではセリアが危ない。
どこかに隠れさせようとルーシェルが立ち上がった時、人間がこの洞窟に入ってきた。
その人間の姿を見て、ルーシェルは目を見張った。
「……お前がルーシェルという魔女か?」
――そこには、あの変態がいた。




