兄弟たちの尻拭いは、長女の私がしましょう(不本意)
なんでもあり。
「姉様、僕やりたいことができたんだ」
末の弟がそう言い出して、嫌な予感がした。
「……いやよ、聞きたくない」
「僕ね」
「だめ!私は聞かないわよ!」
弟の口の中にサンドイッチを詰め込んで、何も言わせないようにする。
「ふぐっ、む、む、む、……ほふほーへきひょくひんになひたいんら」
「口の中にものが入っている時は喋らないの」
「んぁっ、僕宝石職人になりたいんだ」
「聞かないって言ったじゃない!」
反射的にわあっと喚くように言っていたが、弟はサンドイッチからはみ出たきゅうりまで食べて何事もなかったように続けた。
「宝石を買うんじゃなくて、作る方になりたいんだ」
「うちに宝石を買うお金なんてたいしてないわよ……」
「でもこないだ母様が買ってたでしょ?」
「王都に行くのに宝石が一つもないのは困るからね。夜会にも出るのだし」
「僕ね、あの時すごく感動したんだ。あんなふうに母様の顔が輝く宝石を、僕も作ってみたい」
「………………」
そんな純粋に夢を語られたら、私だって困るではないか……。
「もう、なんで我が家の男たちはこうなの…。血なの?なんなの?」
はあああ…と大きく息をついて、テーブルに肘を置いて頭を抱える。
私の様子を見ても、弟はケロッとしながら私のカップに紅茶を注いだ。
「それにほら、僕こういう裏方の方が性に合ってるし」
「それは使用人の仕事だからやってはダメだといつも言ってるでしょ…?」
「僕に次期当主は向いてないよ」
「あなたしか男がこの家に残っていないんだから、しょうがないじゃないっ!」
「兄様たちも自由だからねえ〜〜」
「あなたまで同じ道を辿ろうとしないでよぉ…」
我が家は田舎も田舎の末端貴族だ。
兄弟は私を含めて、5人。
長男、次男、長女の私、三男、そして今目の前にいる希望の四男という順番で、順当にいけば長男の兄さんが家を継ぐはずだったのに……。
「俺、家でじっとしてられない。冒険者になるわ」と家を出て、じゃあ次は次男よねと後継者教育を始めたのに。
「オレ、船旅に憧れるんだよね。だから、遠洋漁業の漁師になる!もう船に乗せてもらう手筈になってるから!」と颯爽と消え、それなら私のすぐ下の三男がとなったはずなのに。
「え?ボクは鍛冶屋になるって決めてるから。弟子入りさせてもらうからバイバイ」とあっという間に田舎を出て行ってしまった。
もう四男しか残っていないと言うのに…!!
この子は、この子はああ〜〜〜っ!
全力で兄さんたちとは違う道を歩ませるべく、これまで頑張ってきたのに……。
私の努力は水の泡かぁ……。
「そもそも、僕向いてないんだよ」
「そんなことないわよ!兄さんたちと違って穏やかで貴族らしさもあって、どこに出しても恥ずかしくない所作や教養は身についてきているじゃない!」
「姉様の教えが上手いからね」
「あなたがいなくなったら、我が家はどうしたらいいのよぉ〜〜〜」
「そもそも外国ばっかりをフラついている父様がいる時点で説得力ないよ」
「あの珍しいもの好き親父め……」
父は社交シーズン以外は外国を飛び回り、自国にないものを仕入れてはこの国で広めるのを生き甲斐にしている人で、ほとんど家にいることはない。
だが、父の選んでくるものは貴族ウケがよく、時には王族まで喜ばれてしまうため、商売として成り立っているし我が家の大事な収入源だからこそ、強くは言えない。
だから、この家はほとんど母様と手伝いとして私が守ってきたようなものだけど……。
やっぱり、皆父の子なのだろうか。
この家の男どもは、ロマンで飯を食う人種なのだろうか。
「それに、この家の誰よりも適任な人物がいるじゃない?」
「え?あなた以外の男はみんないなくなっちゃったのに?」
「姉様だよ」
「私!?」
素っ頓狂な声に弟は全く気にすることなく、コクリと頷いた。
ああ…、末の弟だけは可愛いと思っていたのに。
「そうだよ。だって、後継者教育だって姉様が教えてくれているじゃない」
「昔長男が受けている時に一緒に聞いてたからね。教えてくれる父様がいないんだから、誰かが代わりにやるしかないじゃないの」
「それだよ。そこまで責任感のある人は、この家では姉様と母様くらいだよ」
「…………胸を張って言うことじゃないわよ」
「僕らには向いてないのも、本当は知ってるでしょ?」
「…………」
向き不向きじゃないのよと反論したいところだが、今までの兄弟たちを見てきた身からすると、それは否定し難かった。
言い淀んでしまった時点で肯定しているようなもので、もう答えは出ているのかもしれない。
適材適所というやつかぁ……。
「はあぁ…、私が継ぐのかぁ…」
「というか僕、あの日来ていた宝石屋に弟子入りの許可もらったから、明日には家を出るよ」
「なんで!この家の男たちはこうと決まったらもう話が進んでいて、気づいたら準備万端なのよ!ああ、もうっ!」
私はなりふり構っていられずに、席を立った。
「母様!どこにいますか〜?私も夜会に連れて行ってください!婿探しに行かないといけなくなったので!」
淑女らしからぬ足音をどかどかさせながら、私は腹を括ったのだった。
足音くらい鳴らさないと、気持ちが消化できないじゃないのよっ、もう!!
了
お読みくださりありがとうございました!!
285日目。
追記:誤字報告ありがとうございました!修正いたしました!(2026.10.15)




