表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/15

第7話:変わってしまった幼馴染


ガイルの一件から数日が過ぎた。

アリアの生活は、劇的というほどではないが、確実に変化していた。


「あ、アリアちゃん! これ、食堂の余り物だけど貰ってきたよ!」


「……おう、サンキュ」


夕食後の学生寮。

アリアの部屋に、ミナが大量のパンを抱えてやってきた。


この学校――『王立魔導戦術学院』は、全寮制だ。


学費、寮費、食費に至るまで、全ての費用は国が負担している。


「やっぱり、ここのパンは硬いねぇ」


ミナが苦笑いしながら、石のように硬い黒パンをかじる。

だが、文句を言いながらもその表情は明るい。


「文句言うな。タダで飯が食えるだけマシだろ」


アリアもパンを水で流し込む。

この国には、こうした学校が各地にある。


表向きは「魔導師育成」だが、その実態は「貧民救済」兼「兵士養成所」だ。


貧しくて食い扶持のない子供たちは、8歳になると親元を離れ、こうした寮に入り、軍人としての教育を受ける。


卒業後の進路は、概ね軍の下級兵士か、辺境の警備兵。

つまり、国の「捨て駒」を育てるシステムなのだ。


「……ねえ、アリアちゃん」


ふと、ミナがパンを置いた。

その視線が、アリアのベッドの脇に置かれた剣に向けられる。


「ガイルくんたち……まだ戻ってこないね」


「あいつらか? レインの野郎が『地下で再教育中』とか言ってたな。ま、自業自得だ。気にすんな」


「……うん」


ミナは俯いた。

その表情には、アリアには理解し難い、複雑な色が浮かんでいた。


「……ミナ。お前、あいつらに情でもあるのか?」


アリアが呆れて問うと、ミナは慌てて首を振った。


「ち、違うよ! あんなことされて……許せるわけない!」


ミナの手が震える。

借金を盾に、奴隷のように扱われた日々。その傷はまだ癒えていない。

だが、彼女はポツリと漏らした。


「でも……昔は、違ったの」


「あ?」


「私とガイルくん、同じ領地の出身で……幼馴染なんだ」


ミナの話によれば、二人は8歳の時、一緒にこの学校に入学したらしい。


アリアのような「途中編入」は稀で、ほとんどの生徒は幼い頃からここで集団生活を送る。


「ガイルくんは領主様の息子で……昔からガキ大将だったけど、面倒見はよかったの。私みたいな平民の子がいじめられてると、いつも庇ってくれて……。私の家の借金だって、最初はガイルくんがお父様に頼んで、融通してくれたものだったの」


「……へえ」


「でも、学年が上がって……クラス分けが始まった頃から、変わっちゃった。Aクラス(エリート)に入れなくて、焦ってたのかな……。

どんどん乱暴になって……私にあんなことを……」


ミナの声が沈む。

8歳から15歳までの7年間。


閉鎖的な寮生活と、過酷な競争社会が、少年の心を歪めたのか。


「……ふざけんな」


アリアが低く吐き捨てた。

ミナが驚いて顔を上げる。


「え……?」


「8歳の頃からあんなことされてたのかって聞いてんだよ。もしそうなら、あいつの指、もう5、6本折っとくべきだったな」


「あ、ううん! 違うよ! あんな……酷いことをされ始めたのは、ここ最近のことだよ!

それまでは、ただの威張りん坊だっただけだから……!」


ミナが必死に否定する。


アリアは「チッ」と舌打ちをして、枕に頭を預けた。


「……人は変わるもんだ。環境か、プライドか知らねえが……一度腐った果実は、もう元には戻らねえよ」


アリアの言葉は冷たかったが、そこには確かな真理があった。

ガイルは、何かに追い詰められていたのかもしれない。


「領主の息子」というプライドと、「魔力至上主義」の壁。


「……Aクラス、か」


アリアが天井を見上げて呟く。

この学校のヒエラルキーの頂点。

国中から集められた、魔力の高いエリート集団。


「そういえば聞いたか、ミナ。Aクラスには、とんでもない奴がいるらしいな」


「え? うん……噂だけど」


ミナが声を潜める。


「国王陛下の息子さん……『セオドア殿下』がいるって」


「王子様が、こんな貧乏人の兵舎にか?」


「『生徒の模範』になるためだって。凄まじい魔力を持ってて……Aクラスの先生ですら、彼には頭が上がらないらしいよ」


セオドア。


王の血を引く、正真正銘の怪物。


ガイルがAクラスに入れず、焦り、腐っていった原因の一つは、間違いなくその「圧倒的な格差」にあるのだろう。


「へえ……。面白そうじゃねえか」


アリアは口の端を吊り上げた。

彼女の体質は、魔力を見ると疼くのだ。


まるで、極上の獲物を見つけた獣のように。


「王子の魔法ってのは、どんな味がするんだろうな」


「え? 味?」


「なんでもねえよ」


アリアは目を閉じた。


遠くない未来、その「頂点」とぶつかる予感がしていた。


(もともと私は、てっぺん取りに来てんだ。学校の頂点なんてのは、通過点にすぎねぇよ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ