表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/15

第10話:王子の遊戯

第3演習場。

ここは本来、生徒同士の模擬戦争に行われる演習場だ。

しかしセオドアが転入して以来、彼が平和な学園を乱す『不穏分子』と断じた相手を、こうして見せしめに処する場としても利用している。


そのために、本来は教職員が観戦するために設けられたスタンドも、この時は一般生徒開放される──。



戦術指導。


それは授業とは名ばかりの、セオドアにより行われる見せしめだ。


彼は生徒の『模範』を別の意味に解釈した。

即ち、絶対的強者による支配であると。



──噂を聞きつけた他学年の生徒や教職員たちが、どちらが勝つか(あるいはアリアが何秒で黒焦げになるか)を賭けて盛り上がっている。


対峙する両者の距離は、およそ15メートル。


セオドアは杖すら構えていない。

両手をだらりと下げ、王族特有の優雅さで佇んでいる。

だが、その周囲には陽炎のような高密度の魔力が渦巻き、不可視の要塞を築いていた。


「近づけば死ぬ」という絶対的な拒絶のオーラ。

対するアリアは、刃引きされた無骨な鉄剣を右手にぶら下げ、重心を深く沈めていた。


まるで獲物に飛びかかる寸前の肉食獣プレデター


防具はゼロ。頼れるのは己の肉体と、磨き上げた殺意のみ。


静寂が、痛いほどに肌を刺す。


数千人の観衆が息をするのも忘れ、その一瞬を待っていた。





『――始め!』


レイン教授の冷徹な開始合図が、第3演習場に響き渡った。

その瞬間、観客席の熱気が最高潮に達する。


「行くぞッ!」


ドンッ!!


アリアが地面を蹴った。

爆発的な加速。魔力強化ブーストもなしに、ただの筋力だけで生み出されたその初速は、Aクラスの魔導師たちの動体視力を軽々と超えていた。


「おおっ!?」


「速えぇッ!」


観客たちがどよめく。

アリアは一直線にセオドアへ肉薄し、鉄剣を横薙ぎに振るった。


「――シッ!」


風切り音が遅れて聞こえるほどの鋭い斬撃。

まともに喰らえば首が飛ぶ。

だが、セオドアは眉一つ動かさなかった。


ガギィィィンッ!!


硬質な金属音が響き、アリアの剣が空中で止まった。

セオドアの目の前に展開された、透明な『自動防御障壁オート・シールド』だ。


「……ふん」


セオドアはポケットに手を入れたまま、退屈そうに鼻を鳴らした。


「悪くない速度だ。猿にしてはな」


「へっ、褒めても何も出ねえぞ!」


アリアは止まった剣を強引に引き戻し、今度は逆袈裟に斬り上げる。

さらに切っ先を返して刺突、回し蹴り。

目にも止まらぬ連続攻撃を叩き込む。


ガン!


ガンッ!


ガガガガッ!


激しい打撃音が演習場に響く。

アリアの猛攻は、素人が見れば圧倒しているように見えるだろう。


しかし――


(……届かない)


ミナは観客席で、青ざめた顔でタオルを握りしめていた。


アリアの剣は、セオドアの体毛一本すら傷つけられていない。


セオドアは一歩も動かず、ただ障壁に弾かれるアリアの動きを目で追っているだけだ。


それはまるで、じゃれついてくる仔犬をあしらう飼い主のようだった。


「らぁぁぁッ!!」


アリアが跳躍し、全体重を乗せた兜割りを放つ。


ズドォォォンッ!!


障壁と剣が激突し、衝撃波が周囲の土煙を吹き飛ばす。

だが、それでも障壁にはヒビ一つ入らない。


「……終わりか?」


セオドアが冷ややかに問うた。


「はぁ、はぁ……硬えな、クソ王子」


アリアが着地し、少し息を乱しながら距離を取る。

セオドアは失望したように首を振った。


「物理攻撃のみ。魔力干渉なし。戦術的な工夫もなし。……期待外れだ。これなら、動く案山子ゴーレムの方がまだマシな動きをする」


セオドアにとって、この時間は退屈な作業でしかなかった。


アリアの攻撃は確かに速いが、王族に伝わる絶対防御の前では無意味。


彼が指一本動かせば、いつでも終わらせられる。


「……ちぇっ。手厳しいねえ」


アリアは剣を構え直すが、その表情からは余裕が消えつつあった。


(……マジで硬え。今のフルスイングでも傷なしかよ)


「もういい。貴様の程度は知れた」


セオドアが、ゆっくりとポケットから手を出した。

その優雅な動作に、観客席の空気が凍りつく。


「攻守交代だ」


セオドアが掌をアリアに向けた。

詠唱はない。構えもない。

ただ、そこにあるのは圧倒的な「死」の予感だけ。


「――踊れ」


セオドアの指先が、指揮者のように虚空を弾いた。

それが、一方的な蹂躙の始まりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ