第四章:創設者達
翌朝、
「行ってまいります」
ニナが持たせてくれたお弁当を片手に、
正子は軽快な足取りで王宮へ向かった。
「おはようございます。お約束の時間どおりですね。では、こちらへ」
エリアスは正子を、王宮の地下深くにある秘密の書庫へ案内した。
「ここは、王家と魔導師団長のみが入れる場所です。創世に関する禁断の記録が保管されています」
分厚い扉が開かれると、埃っぽい書庫が現れた。古い羊皮紙や石板が、びっしりと並んでいる。
「これは、、、!」
正子の目が輝いた。資料の山。それは彼女にとって、宝の山だった。
エリアスは一冊の古い日記を取り出した。
「これを読んでください。創設者の一人が残した記録です。」
正子は日記を開いた。そこには、流麗な日本語で記されていた。
『西暦2025年、私たちは突然この世界に転移した。50人の日本人が、見知らぬ大地に放り出された。最初は混乱したが、やがて私たちは決意した。ここで新しい社会を作ると。』
『だが、問題があった。50人の中には、様々な思想を持つ者がいた。対立が始まった。誰がリーダーになるのか。どんな社会を作るのか。そして、ある者が提案した。「過去を捨てよう。日本での記憶、言語、すべてを捨てて、新しく始めよう」と。』
『だが、それは不可能だった。私たちは日本語でしか考えられない。 だから、妥協案が生まれた。日常会話は日本語のまま。だか、力の源である魔法は、英語で詠唱する。それによって、魔法を扱えるものは教育を受けた者だけになる。つまり、支配層だけが魔法を独占できる。』
『この決定に、私は反対した。だが、多数決て決まってしまった。私はこの記録を残す。いつか、この世界の矛盾に気づく者が現れることを願ってーー』
正子は日記を閉じた。全身が震えていた。
「これは、、、計画的な階級社会の構築、、」
「その通りです」
エアリスが重々しく言った。
「創設者たちは、魔法を支配の道具にした。言語の壁を作ることで、一般民衆が魔法を習得するのを困難なものにした。そして、その構造は今も続いている」
正子の拳が震えた。
「許せません。こんな不公平なシステムは!」
「ですが、神楽坂殿。このシステムを変えることは、この国の根幹を揺るがします。貴族階級は特権を失うことを恐れるでしょう。反発は必至です」
「それでも、変えなければなりません」
正子の目が燃えていた。
「非効率で不公平なシステムは、長期的には国家を衰退させます。今こそ、改革の時です」
エリアスは正子の目を見つめ、静かに笑った。
「あなたは、、本当に変わった方ですね。では、ご協力いたしましょう。私も長年このシステムに疑問を持っていました。」
「ありがとう御座います!」
正子は深く頭を下げた。
それから3ヶ月間、正子とエアリスは徹底的な調査と分析を行った。
正子は第一神殿だけでなく、国内に点在する他の古代遺跡も訪れた。そして、驚くべき発見をした。
「エアリス様、見てください!この魔力フローチャート!」
正子が広げた図には、アストライア全土の魔力の流れが記されていた。
「魔力は、5つの神殿から供給されています。しかし、その配分が完全に偏っています。首都圏に70%、貴族領に20%、一般地域にはわずか10%です」
「それは、、意図的な配分ですか?」
「間違いありません。これは、創設者たちが設計した時点での配分です。つまり、最初から格差を作り込んでいた」
正子はさらに資料を広げた。
「そして、この詠唱システム。複雑に見えますが、実は非常に単純な構造です。ただし、英語という言語の壁が学習を困難にしている。もし、日常言語で詠唱できるようにすれば、、」
「誰でも魔法を使えるようになる、、、」
エアリスは息を呑んだ。
正子は頷いた。
「はい。そして、魔力の配分を均等にすれば、地域格差もなくなります。これこそが、真に公平なシステムです」
「しかし、それを実現するには、中枢システムを書き換えなければならない。それは、、」
「危険ですね。わかっています」
正子は真剣な顔で言った。
「ですが、私には勝算があります。市役所で予算システムの改修を何度も経験しました。重要なのは、段階的な移行と、十分なテストです」
正子はノートを開いた。
「まず、小規模な実証実験を行います。一つの村で、新しい魔法システムを試験導入する。問題がなければ、徐々に範囲を広げていく。そして最終的に、全国展開する」
「計画的ですね、、、」
「当然です。計画なき改革は、混乱を生むだけです」
正子の目には、強い決意が宿っていた。
エアリスは深く息を吸い、決心した表情で言った。
「わかりました。陛下に提案しましょう。この改革を」
2人は目を見合わせ、深く頷いた。




