第一章:転移、そして違和感
「はぁ、、、また残業か」
神楽坂正子は溜め息をつきながら、デスクに積み上げられた決裁書類の山を見つめていた。
35歳、地方の市役所職員、経理課に勤めて13年。数字の羅列と規則性の迷路を渡り歩くことにかけては、課内随一の実力者だ。
「神楽坂さん、この支出、予算科目が違うんじゃなぃすか?」
後輩職員の問いかけに、正子は眼鏡をおしあげた。
「ええ!、項、目、節の区分を間違えています、これでは決算時に混乱が生じます。差し戻してください。」
「でも、、承認が、、」
「規則は規則です!例外を認めれば、秩序は崩壊します!」
声は静かながら、空気は静かに冷たくながれる。
融通が利かない、堅物、だから独身。
陰でそう言われれていることは知っている。
だが、正子にとってルールや秩序を守ることこそが正義なのだった。
その日も夜遅くまで書類の山と格闘していた正子。
「、、、帰ってお風呂入ってドラマみたいな」
淡々と書類と対面してる時
ふと、目眩に襲われた。視界が白く染まり、
デスクの感触が消える。
「え、、、?」
目を開けると、そこは知らない石畳の路地だった。
「ここは、、、?どこ?書類は?」
周囲を見回す。いしづくの建物がたちに並び、まるで中世ヨーロッパの街並みのようだ。
人々は鎧や、長いローブや、まるでファンタジー映画のセットのような光景。
「?、、、HELLO、Excuse me」
とっさに通りかかった老人に声をかけていた。
老人は優しく微笑んだ。
「おや?どうしたのですか?お困りですか?
、、見慣れない服装ですね。旅の方ですか?」
正子は目を見開いた。咄嗟とはいえ言葉が通じるとは、
「通じた、日本語?」
「ほっほっほ、何を当たり前のことを」
老人は不思議そうに笑みを浮かべた。
正子は頭が混乱する。
この状況にも、言葉が日本語で通じることにも。
脳内で自分の記憶を巡らす
「あの、、、ここは地球ですか?日本国ですか?」
「チキュウ?ニホンコク?聞いたことのない地名ですね。ここはアストライア王国の首都、エルディアですよ」
老人は不思議そうに話した。
異世界移転?正子の脳裏に、昼休みに同僚が読んでいたライトノベルの表紙がよぎった。
「そんな、、、バカな」
だが、目のまえの現実は否定しようがない。正子は深呼吸して、状況を整理し始めた。
公務員として培った冷静さが、パニックを抑え込む。
「わかりました。まずは情報収集です。この状況に。あの、この街について教えていただけますか?出来れば図書館のような施設があれば、、、」
老人は微笑みながら親切に街の中央広場にある王立図書館への道を丁寧に教えてくれた。正子は礼を述べて歩き出す。
その時だった。
「Fireball!!!」
突然、路地の奥から英語で叫び声が響いた。次の瞬間、火の玉が宙を舞い石壁に激突して消えた。
「な、何!?」
驚く正子の前に、若い男性が現れた。
「すみません!お怪我はありませんか?魔法の訓練中で、、、」
男は日本語で謝罪した。
正子の違和感センサーが激しく反応する。
「今、あなた、英語で何かしら叫びました?」
「英語?よく分かりませんが、ええ、Fireballの詠唱です。基礎の魔法ですよ、それよりお怪我は?」
「なぜ?詠唱は英語なんですか?あなたは今、日本語を話しているのに」
男は首を傾げた。
「英語?日本語?」
焦る正子を不思議な目で見ながら
「魔法とはそういうものです。太古の昔から決まっているんですよ」
正子は苦虫を噛み潰したようの顔をしながら
「それおかしい!!英語はあるんですか?」
正子の声が大きくなった。
「英語?」
男は勢いに圧倒されていた。
「言語体系が統一されてないなんて、あまりにも非効率的です!会話と魔法で言語が違う合理的な理由は何ですか!?」
「いや、そう言われましても、、、昔からそうだから、としか、、、」
男は困惑した表情で立ち去った。
正子の中で、何かが音を立てて崩れた。
自分の今の状況より
数字と規則を愛する彼女にとって、この世界の矛盾は許しがたかった。
王立図書館は荘厳な石造りの建物だった。正子は入館手続きを済ませ、歴史書のコーナーへと直行した。
本を開く。文字はアルファベットだか、不思議なことに読める。いや、正確的には「読めるように脳が変換している」感覚だ。
「これも異世界転移の仕様、、ということでしょうか、、、」
正子は苛立ちを押し殺して、片っ端から本を読み始めた。
アストライア王国の歴史、魔法の成り立ち、言語にかんする記述。
数時間後、正子は一冊の古い文献に目を留めた。
『創世記』と、書かれたその本には
こう記されていた。
「世界は『旅人たち』によって創られた。彼らは遠い世界から来訪し、この地に新たな秩序をもたらした。魔法の言葉は、彼らの叡智の結晶である」
正子の目が鋭くなる。
「『旅人たち』、、、異世界から来た人間?」
さらに読み進めると、断片的ながら重要な情報が浮かび上がってきた。
・魔法の詠唱言語は「創設者たちの言葉」とされている。
・しかし、その起源について詳しく記した文献は存在しない。
・公用語ご確率したのは、創世から300年後。
・それ以前の言語記録は、ほとんど残されていない。
「情報の欠落、、、これは、、意図的な隠蔽の可能性が高い?」
正子の分析能力が火を噴いた。市役所で膨大な予算書類の矛盾を見抜いてきた彼女の目に、この世界の「粉飾」が見え始めた。
「まず、確認すべきは古代遺跡。記録が残っているはず、、、」
正子は図書館の司書に尋ねた。
「申し訳ありません、古代遺跡について調べたいのですが、詳しい資料等はありますか?」
司書は少し驚いた顔をした。
「古代遺跡ですか?確かにいくつか存在しますが、立ち入り禁止の場所が多いのです。王家の許可がなければ、、、」
「わかりました。では、王宮への面会申請の手続きのやり方を教えてください」
「え、ええっ!?」
司書は目を丸くした。だが、正子の目は本気だった。
異世界アストライアの言語矛盾。この不合理なシステムの真相を、正子は必ず暴き出す。
「非効率なシステムは、即刻改善を求めます」
彼女の戦いが、今、始まった。
私たち姉弟で小説を書いています、畠山ゆなと申します。
機械音痴な姉と二人三脚で共作している作品です。
通勤時間や寝る前のひとときに、少しでも心が軽くなったり、ワクワクしていただけたら嬉しいです。
この作品を楽しんでいただき、応援していただけたら嬉しいです。 レビューや感想をいただけると、姉弟ともに大変励みになります。




