4. シーン15
─── シーン15・??? 1回目 ───
ここは、いったい……
城下町のはずだけど、こんな綺麗な夕闇の空、背景であったっけ。
───! まさか。知らないってことは。
確か前世でのプレイで……
<<よっし、シナリオコンプ率98%。あともう少しだけどちょっと休憩っ。さすがに疲れたわ>>
残り2%の放置。
その未確認イベが起こってしまったんじゃ。
この期に及んで、そのツケが来るとは。
まあ、どうせ正解したって斬られるんだけどさ。
とりあえず殿下を捜さないと。
う~ん、でもスチルだけが頼りだから。
町っていったってどの辺なのかわから───
───うん?
あの並んだ屋台に、ランタンの灯り……
ああっ、わかった!
これ、ライバル悪役令嬢のバッカラが言ってた「夜祭り」。
殿下がお忍びで行くかもって出たから必死でフラグ探したんだけど、どぉ~しても立たなかったやつっ。
ランタンのオレンジ色が照り返す石畳を蹴って、あちこち探し回る。
きっとここに殿下がいるはず。
でもこの人混み……
くっ、いやだけど、背の高いオルフォスを探すほうが早いかも───
「───! きゃっ」
何かにつまづいて、盛大にこけた。
いたた……ああ、膝をすりむいて、血が出てる。
もおぉ、斬られる以外で何を痛い目見てるのよ、このバカ私っ。
「……おい。大丈夫か」
何か上の方から、聞いたことがあるようなひっく~い声がする。
おそるおそる顔を上げると……
ほぇええええええ───っ! お、オルフォスっ!
めちゃくそ怖い顔で見下ろしてるぅ。
元々怖い顔が、ランタンの灯りを下から当てられて誰得な恐怖マシマシのアオリ画になってるゥゥ。
ぃいいや、そりゃさっきこいつ見つけたほうが早そうなんて思ったけど!
まさか単独でご対面になるとはっ。
これは確実に死ん───あれ。
オルフォスがしゃがみこみ、胸から白いポケットチーフを抜き取って、私の膝に巻き付けた。
「えっ……あ、あの」
「ケガをそのままにできんだろう。応急処置だ。 家に帰ったら捨てておけ」
ぇえええええええっ。
どっ、どういうこと。この私絶対殺すマンが、180度真逆の人間になってるんですけどっ。
「ちょっ……」
私の躊躇など関係なく。
とてもやさしい手つきで、くるくると。
綺麗な指先が、ときおり私の膝まわりをかすめる。
顔が、近───うっ、ぃやだやだヤダっ。
ちょっとときめいちゃって。私チョロすぎじゃないっ!
でも、そうだ。
このオルフォスって、スチルでは常に王子殿下の横にいるだけなんだけど。
顔はめちゃくちゃイイからファンが結構ついちゃって。公式でもきちんとプロフ作って対応してたよなあ。
あ~あ。運営もさあ、最初からこんな風に普通の側近にしてくれてたらよかったのに。そしたら私も、こんなに苦しまずに済ん───いやいや。それじゃこのゲームの意味が無いし。
ふふ……ほんとは私、こいつに斬られるためにずーっとゲームをやってたのかもしれない。なんってね。
オルフォスは手際よく巻き終えると立ち上がり、私に手を差し伸べた。
「殿下を捜しているのだろう。連れて行ってやる」
すっごく、やさしいお顔。
ランタンの灯りが頬を照らして、いつもの氷の騎士が、あったかい表情に。
何で、こんな……
───っ! 待って。
確かこのシーンに来るまでも、幾つかクリアっぽく動いていくパターンがあったけど。
後のシーンになるにつれ殿下の台詞が、どんどん私との距離が縮まったものになって。〝前シーンクリア〟を反映した内容になってた。
つまりこのオルフォスの超軟化した態度と、私の知識からして。
FINALシーン、学園の卒業舞踏会の、直前イベなのは間違いないっ。
まさしくの下準備。
3回死んだあの忌まわしきシーンを、今度こそクリアできる……?
うふ、うひ、うふひふふふふひ……
「何をニヤニヤとしている」
「えっ、あっ、すいませんっ」
いかんいかん、ついつい感極まってしまった。
まだこのシーンがどう転ぶかわからない。痛みに歯ぁくいしばる用意はしておかないと。
そっとオルフォスの手を取り立ち上がった、その時だった。
「オルフォス。何をやっている」
王子殿下、満を持して登場。
両手にべっこうみたいな色の飴細工を持っている。なんかカワイイ。
オルフォスは一礼し、私のほうへと促した。
「アンジェラリーナ嬢が殿下をお探しでしたので、連れて参りました」
イベントが始ってる?
わからないんだけど、とりあえずニッコニコのきゅるるんで挨拶をした。
「殿下ぁ。お会いできてよかったですぅ」
ん……あれれ?
黙って私を見ている殿下。っていうかこれ、睨んでない?
肩をわなわなと震わ、引きつった唇を開いた。
「見ていたぞアンジェ。貴様がスカートをたくし上げ、足をはだけ、いやらしく〝オル〟を誘惑していたのをっ」
はへ?
「殿下、恐れながら。彼女は転んでけがを」
「〝オル〟は黙っててっ」
石畳に飴を叩きつける殿下。
ぇええええ? 何その、ヒステリックな感じ。
いったいぜんたい、どういう───
殿下は腰の細剣をスラリと抜いた。
私は混乱した。混乱しまくってのけぞった。
しかし殿下は、容赦なく振りかぶった。
「不埒者ぉっ!」
「のヴぉぉぉぉ───っ!」
ランタンの光に、赤黒く映る私の血しぶき。
ウソ……でしょ。
まさかの、〝そっち〟展開、とは。
でも、それはそれで、好物……で……す…………




