3. シーン04
─── シーン04・学園図書室 2回目 ───
はい、また復活。
死亡回数、現時点で全9回。シーン移動は5回。
さっきと同じ図書室で再開。
ここまでで気づいたことを、脳内にメモっておく。
まず、斬られる痛みと恐怖が、数を追うごとに和らいでいること。
百回斬られれば英雄? ちょっと自分で何を言ってるのかわかんないんだけど。
とにかく、微妙ながら救済措置はあるみたい。
あと、死んでから飛ばされるシーンは順不同。
中庭とか下校時間の校門とか、時系列関係なし。
この図書室みたいに、連続して同じところをやり直すこともあるんだけど……実は斬られる痛みより、怒りのほうが勝ってくる。
パスタ作ってさあ食べよ、って思ったら急に目の前でゴミ箱入れられて、もっかい同じもの作れって。はあ? ってなるでしょ。まさにそれ。
薄明りの中、本棚の谷間に立っている。静謐と、ほんのりのカビ臭さ。
雰囲気づくりにはいいけどさ、暗くて……本を探すのにまったく向いてないよね。
二つ向こうの本棚で、殿下は本を読んでいらっしゃる。
そこへ私はさりげなく近づき、隣で本を取ろうとして落とす。
本の角が頭に当たって(ていうか当てて)「いたたた……ドジだなあ私」ってやるのが正解なんだけど。
それやって、さっき斬られたから。
本が並んでるのに斬る? 頭おかしいんじゃないのあいつ。
「……ふぅ。落ち着け、私。まだまだ、くじけちゃいない。必ず、勝利をもぎ取るっ」
意を決して、殿下のいる本棚へ。
適当な本を一冊胸に抱き、知的な感じを装うインテリジェント作戦、開始。
殿下……本を読んでいらっしゃる。
ああん、ぴしっとした背筋に、長いおみ足の片膝だけくっと曲げた色気ブースト過ぎな立ち姿。
細い指先がページに触れるのを見るたび、もうっ。
意を決し……ゲームの解説で出てた本のタイトルを投げかけてみる。
どんな話か突っ込まれたら終わり。乗るか反るか。
「それ……『千夜奇譚』ですよね。わたしもそれ、大好きなんです」
「へえ。こんな古典物語に授業以外で興味を持つ子、初めてだよ」
……ふぉおおおおおおおっ!?
動いた、動いたぞシーンがっ。初勝利、もぎ取ったりぃっ!
「君は確か……アンジェラリーナだっけ。〝先日の廊下〟では済まなかったね。あれから大丈夫だった?」
「え、あ、はいっ。お気遣い嬉しいですっ」
なななんと。シーン01もクリアされた前提で進んでる。
これは……ついに、この悶絶地獄ループから抜け出す光がっ。
「……っと。そろそろ行かないと。またね、アンジェ」
ほぁああ……いい声ぇ。しかも愛称呼びぃぃ。
去り行く背中に光がさして、オーラがハンパない……
推しのボイス余韻から、私はあらためて初クリアの達成感をかみしめた。
「ぃよっしゃあああああ───っ……ぁえ?」
ゆらり、影が目の前に立ちはだかる。
オルフォス! なんで。クリアじゃないの?
「え、ちょ、あの」
剣光一閃。
「無礼者ぉっ!」
「ぎょぴゃぁぁぁぁ───っ!?」
胸に抱えた本ごと、真っ二つ。
切り裂かれ、血濡れたページが、図書室を舞う。
やっぱり、痛いじゃないのよぉぉぉっ。
ていうか。
図書室では、お静かに…………




