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next『ソウルエンジン』

 事件より一ヶ月が経過した。

 エイジは自身の活動拠点のある王都に戻り、本職である何でも屋の依頼を日々こなしていた。

 本日はその何でも屋も定休日。久しぶりの休日を過ごす彼は町より少し離れた平原に来ており、自分の前で倒れるカイトに手を差し出す。

 レベルアップしたカイトと手合わせをしていたのだが、ラバンに勝った力を持ってしてもカイトはエイジには勝つことが出来なかった。


「強くなってるけど、まだまだだな。完成させた魔法式を読み込み展開する、までは良いけど完成度が低すぎる。ソウルスキルのおかげでカバーは出来てるが、ブーストの支援対象外の魔法は使いもんになら過ぎる。現段階では防御魔法は対象外なんだから、それくらいは完璧に魔法式を構築出来る様になれ」

「はい…………」


 ここ最近は調子が良かった為、正直言えばカイトはエイジにワンチャン勝てるかもなどと考えていたが、火力だけでは補えない実力差を前に少し落ち込む。


「よし。エイジ、次は俺の相手をしろ」


 二人の手合わせを傍観していたテツはそう言って、エイジが了承していないのにアーマーを装着する。


「ちょっと待て!俺ってば今武器持ってねーのよ!そんな相手にアーマー使って手合わせとかふざけてんのか!恥を知れ!」


 そう述べるエイジを無視し、テツは二本のバスターソードをソウルスキル『トランスフォーム』で作り出して装備する。


「本気でやらなければ手合わせの意味がないだろう」

「俺が本気出せないって言ってんの!」


 エイジは一月前に専用武器を失った。

 彼には大きな弱点がある。それは構築する魔法式を魔法陣として空間に展開させる事が出来ない事だ。

 致命的な弱点故にエイジは師匠に戦うのは不可能だと言われていた程だ。

 無理だと言って諦める男ではないエイジは空間に構築できないなら書けばいいと考え、エンチャント技術を極めて戦う道を選びここにいる。

 魔法と付与を基礎から学び、今では付与速度と付与技術に置いては彼の右に出る者はいない。

 けれどもこの力は万能ではない。エイジの付与は自分のデメリットを感じさせないレベルだが、その付与に耐えるだけの器がなかなか存在しない。

 前使っていた武器でさえ、エイジは付与効果をかなり抑えて使っていたくらいだ。

 つまり、エイジが本気を出すにはそれに耐える事の可能な素材で作った器が必要なのだ。

 それだと言うのに、事情を知っているにも関わらずテツは今のエイジを相手に全力で戦うつもりなのだ。


「行くぞ!」

「わっ!?お前、マジふざけんな!」


 テツから先に繰り出された初撃は身軽な体捌きでかわされ当たらない。二振り目三振り目も攻撃を見切られてエイジには届かない。

 そこで先にエイジがヒットを掻っ攫う。

 魔力の乗った一撃は強烈だ。だがしかし、テツには少し仰け反る程度しか効いていない。

 だとしても隙は作れた。エイジは左ストレートを追加で見舞い、回転蹴りで顔面から地面に叩きつける。

 その一撃後、直様距離を置こうとしたエイジをテツは逃す事はせず、バスターソードで容赦なく反撃に出る。

 魔力を纏わせた腕を交差して重撃を受け止め、衝撃を利用して後退したエイジは着地点に魔法付与を施して地雷を作り、更に数歩後ろに下がる。

 あまりに速い付与故にテツはその事実に気づいておらず、退いたエイジを追跡しようとした際に地雷を踏み込んで発動させてしまう。

 効果はエイジの魔力属性である雷が機動者を襲うというシンプルな物だが、不意の一撃にしては強力だ。

 そしてまた厄介な事に、今の雷撃に気を取られたテツはエイジから視線を外してしまった。その間にエイジの立ち位置が変わっており、新たに幾つか地雷を仕込まれた可能性が浮上したのだ。


「面白い」


 テツは二本のバスターソードを構え、地雷など気にもせず走り出す。案の定いくつもエイジが仕掛けた罠が発動する。被ダメを気にせず連鎖する雷撃の中を走り抜け、テツは最短距離でエイジに迫る。


「脳筋過ぎるだろ!」


 振り下ろされた二本のバスターソードを素手で受け止めた所へテツは重たい蹴りを入れ、怯んだエイジに魔力を乗せた大技を放つ。


「烈翔斬」


 キメラをも吹き飛ばした一撃はエイジの魔力の守りを貫通し、胴体を切りつけた。

 確かに今の一撃は綺麗に通った。攻撃を受けたエイジは傷を負い、その証拠に血飛沫をカイトとテツは見た。

 だと言うのに、エイジは痛みを気にすることなく一歩を強く踏み込んだ。


「ぶっ飛べ!」


 次の瞬間に放たれた一撃は今までとは別格で、その重たい一撃はアーマーを装備したテツを数メートル先まで殴り飛ばす。

 アーマーには攻撃を受けた部分を中心に亀裂が入り、その機能は大幅に低下して行く。


「ウッソー……」


 テツのソウルスキルの力は形状変化能力。だが、その最たるものは形状変化の際に質量をある程度まで無視して増減させる事が出来るところだ。

 その力を使い、テツは今壊れたアーマーを頭の中にインプットしてある設計図をベースに再構築、再び全快状態に戻ったのだ。


「今一瞬だが、身体能力上昇、魔力量上昇、魔力出力上昇を使ったな。付与を仕込んでる様には見えなかったが、何をした?」

「バーカ。誰がネタバラシするかっての」

「それもそうか」


 バスターソードに魔力が集まり、付与されていた魔法が効果を見せる。その効果は攻撃範囲の拡張。衝撃を鋭い刃と変えて遠距離攻撃を可能にするものだ。

 斬撃は地面を斬り裂きながら真っ直ぐエイジに向かう。その際にエイジの設置した地雷の魔法式も破壊しながら進む。

 真っ直ぐな攻撃故にエイジはあっさりと攻撃を避けたのだが、そこへ先回りしたテツがバスターソードを振り下ろす。

 反応が間に合った事でエイジは魔力を纏わせた腕を盾にして防御へ入る。が、振り下ろされたはずのバスターソードはエイジには当たらなかった。

 何故なら、テツは防がれる事を見越してギリギリの土壇場で形状変化を行い、バスターソードからブースター付きアーム強化パーツに切り替えたのだ。

 上からの攻撃に対しての防御姿勢、その為にガラ空きになった腹部への痛烈な一撃をエイジは防ぐ術を失う。


「勝った、とか思ってないよね?」


 次の瞬間にエイジはソウルスキルのエクスチェンジで自分とテツの配置換えを行い、背後よりテツを軽く蹴って一歩程立ち位置をズラす。

 その一歩は地面に付与された魔法を起動させる為の引き金となり、発動した魔法が地面を割って落とし穴を作り、反応が遅れたテツは半身が崩れた土石に埋もれてしまう。

 脱出しようとした時、エイジがその場にしゃがんでテツのアーマーに触れた。


「はい、俺の勝ち」


 テツのアーマーに過剰な付与を施しそこに魔力を流した次の瞬間、アーマーはその付与に耐える事が出来ずに砕け散ってしまった。


「悔しいが完敗だ。エクスチェンジは警戒していたつもりだったが、気がつけば効果処理済みというのは対処に困るものだな」


 壊れたアーマーは再構築出来るが、それより先にエイジの攻撃が命中すると判断から降参した。

 その後にアーマーを再構築して土石を弾き飛ばして穴から這い上がる。


「まさか勝っちゃうなんて……」


 テツには勝てないと思っていたカイトはかなり驚いている。何故なら、ステータスではかなりの差があったのだから。それを埋める戦術と立ち回り、まだまだ学ぶ事の多さを思い知る戦いだった。


「俺もまだまだ未熟だな。エイジ、一つ」


 そこまで言ってテツは言葉を止めた。正しくは遮られてしまった。

 エイジに一歩近づいた刹那、何者かによる氷魔法での襲撃を受け、テツは後ろに大きく退がる。

 地面が一瞬で凍ってしまうと、氷柱が次々に発生してテツを狙う。更には地面からだけでなく空中に展開した魔法陣からも雨の様に降り注ぎ始めた。


「ここは僕の出番だ、任せて!クリムゾンノヴァ!」

「カイト、待ってくれ!」


 大空目掛け放つその魔法は魔法陣付近で大爆発を巻き起こし、空中の氷柱を全て吹き飛ばしてしまった。

 次に使うはクリムゾンジャベリン。その分散された高威力の炎弾は地面から発生する氷柱を次々に砕き、近くで感知した魔法の発動者にも向けられた。

 

「だから待って!」


 突如として地面から現れた大きな氷壁がクリムゾンジャベリンを防ぐ。溶けたり砕けたりした側から氷壁は再生して、魔法発動者に攻撃が届かない。

 逆に氷の魔法使いの攻撃は続く。砕けた氷壁の破片は別の魔法で操作され、カイトの元へ降り注ぐ。

 カイトは炎の渦で自分を覆い隠してその攻撃を防ぐが、防御魔法が苦手なカイトにはそう長く維持できる物ではなく、何発かは炎の渦を貫通してカイトに届く。

 防戦では無理だと判断した後、カイトは即座に火魔法を放って再びの爆撃を行う。

 攻撃が止まったそのタイミングを逃す事のなくテツが氷壁へと距離を詰め、ブースターで強化した右ストレートの一撃で氷壁を粉砕。再発動の糸間を与えづカイトが標的に速度重視の魔法を打ち込む。

 テツもそれに続き、アームからブレードに切り替えて烈翔斬を放つ。


「だから、待てって言ってるだろ!!」


 式を用いない魔法。それは魔力を属性変換させて放出する単純なもので、式を用いたものに比べて威力も落ちるし精密な操作も受け付けない。

 だが、魔法使いの前に落雷と共に現れたエイジは、式を用いないそんな魔法を高出力でぶっ放し、二人の攻撃を相殺してみせた。


 庇われた魔法使いは淡い青髪をした少女で、エイジは彼女に向き直ってデコピンを見舞う。


「はう!」


 少女は額を押さえ、涙目でしゃがみ込む。


「何でいきなり攻撃したんだ?俺が庇わなきゃ軽い怪我じゃ済まなかったぞ」

「だって、あの機械の人はエイジさんを襲ってましたし、怪我だってさせています!到底許せる事ではありません!」

「別に襲われてた訳じゃ……ん?いや、同意してないから襲われたで間違いないのか?まあいいや。アイツはテツって言ってな、俺の幼馴染だよ」

「幼馴染……?あの機械とですか?」

「失礼な奴だな。俺はちゃんと人間だ」


 ソウルスキルでアーマーを解除して発言の証拠を提示して人間である事を証明する。

 

「エイジ、コイツは誰だ?」

「私はフィルディアと言います。コイツ呼ばわりは辞めていただけますか?」

「お前には聞いてない」

「さっきの言葉、あなたにそっくりそのままお返しいたします。か!な!り!失礼な人ですね」


 ファーストコンタクトは最悪。この二人は間違い無く犬猿の仲になりそうだと判断したエイジが手を叩き、話を無理やり遮り会話を自分のターンに変える。


「フィルは先日俺の経営する何でも屋に入社して、今は助手を任せてる。弱体化した今の俺だけだと解決が困難な依頼もあるだろうから、彼女ならその穴を埋めてくれると判断して雇われてもらった。だから、そうだな、分かりやすく言えば相棒だな」


 相棒、その言葉を聞いてフィルディアは頬を赤らめてくねくねと分かりやすく喜んでいる。


「人手に困っていたのか?そうなら言えば俺やカイトが手を貸していたぞ」

「二人は本職に力を入れなよ。フィルもハンターだけど、俺と同じくランクを上げるつもりは無いからな」


 エイジもハンターではあるが、そのランクは下から数えて二番目に位置するEランクだ。

 ハンターの資格が必要になる依頼がある場合を想定して一応席を置いているだけで、ギルドからの直接依頼が来ない限りは率先して活動はしていない。だから彼のランクは一年以上変動していない。

 因みにカイトはDランクでテツはBランク、フィルディアがエイジと同じEランクだ。

 ハンターは一定の期間で依頼を受けないと資格剥奪される規約があり、Fランクは一月で剥奪されてしまうのでエイジとフィルディアは一段階だけランクを上げている。


「それにしても、よく俺のいる場所が分かったな。フィルとの待ち合わせまで後一時間はあるし、待ち合わせ場所は町の中だったろ?」

「え?あ、えーっと……たまたまですよ。そ、そんな事よりも、エイジさんの傷を早く治さないとです!回復魔法を使いますから動かないでくださいね」

「おう、ありがとうな」


 傷口に手をかざし、魔法式を構築して陣を展開。効果を発動すると緑の暖かい光がエイジの絆口を癒し、あっという間に傷口は塞がってしまった。

 彼女は回復魔法の強化スキルを持っており、他に比べても回復魔法はかなり優秀である。

 だからこそ、触れた回復の魔力を通してエイジの身体に少し違和感を覚えたのだ。


「エイジさん……」

「回復はここまででいいよ。テツ、夕方以降に俺の家に来てくんない?大事な用がある」


 その違和感の正体、その確信に迫る事はエイジが強引に話題を変えた事で聞くタイミングが途絶える。

 もしかすると、意図的に途絶えさせられたのかもしれないと一瞬考えたけれど、そんな訳が無いと断定したフィルディアは違和感は勘違いだと思う事にした。


「…………いいだろう」




 時が少し流れ夕刻、約束の時間。

 王都の西門から入って少し進んだ場所、そこにある『リーフキューション』と言う名前の書かれた大きな建物、それがエイジの営む何でも屋リーフキューションだ。

 建物は二階建になっており、一階がリーフキューションの事務所、二階が自宅となっている。その自宅の方に客人としてテツは来ている。

 招かれたテツは提供された珈琲に舌鼓を打ちながら別室で資料を纏めるエイジを待つ。豆が良いのか、作るエイジの腕前が良いのか、提供された珈琲は中々の味わいで待ち時間も苦にはならない。

 ゆっくり味わいカップが空になった頃、丁度良いそのタイミングで別室より書類の山を抱えたエイジが山を倒さない様にゆっくりと歩いて来た。

 書類は二百枚程度をクリップで止めた物が十程度積まれている。それを見た時からテツは嫌な予感が止まらなくなる。


「まさかとは思うが、コレを読めと言うつもりか?」

「何言ってんだよ?当たり前だろう」

「用を思い出した。今日は帰る」

「はーい逃がさないよ」


 ソファーより立ち上がり逃げようとするテツの肩をエイジが押さえつけて逃さない。雷魔法の応用による身体強化故に到達した速度、常人には逃げられない。

 諦めたテツは大人しくテーブルに二山に分けて積まれた書類の一束を手にしてページを捲る。

 この書類はここ一年でグリムとサウザーが関わっていた可能性のある事件の詳細が書かれているものだ。

 追加の珈琲と軽く摘める菓子をテーブルに並べ、二人は長い長い書類作業に取り組み始めるのだった。


 三時間程が経過した。

 テツが次に手にした書類、それは自分達も巻き込まれたあの事件のものであった。

 それを手にした時、テツはある事を思い出す。


「……エイジ、ジョーカーを使ったんだろ?」


 その問いに一瞬エイジの動きが止まる。それから少し経過した後、手にしていた書類をテーブルに置いてから問いの答えを吐く。


「…………ああ」

「やはりか。お前は真っ直ぐすぎるからな、いつかは使うだろうとは思っていた」

「あっはは……」

「アイツを雇ったのもそれが理由か?」

「半分は正解かな。俺はジョーカーを使った代償としていつか皆んなと一緒には居られなくなる。そうなった後にも、このリーフキューションを残して置きたくてな。此処は、俺と師匠が生きた場所だから」

「……もう半分は?」

「うーん……内緒だ」

「そうか。腹が減ったな、一度休憩にしよう。珈琲の礼に夕食は俺が作るとしよう」


 テツはテーブルに積まれた書類を片隅に寄せ、ソファーから立ち上がりキッチンへと向かっていった。

 その姿を見て少し寂しさを覚えたのは、きっとエイジ自身が別れの近さを肌で感じているからだろう。


「俺はいつまで……」


 そこまで呟き、その先の言葉を飲み込む。


 俺は一体いつまで「人間として生きていられるんだろう」という、心の底からの弱音を。

カイトが主人公のブーストアウェイクニングはこれにて完結となります。

次回はソウルエンジンにて、金剛鉄を主軸にした物語を書いていきたいと思っていますので、ソウルエンジンが完成した暁にはそちらも読んでいただければ幸いです。

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