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エピソード2 『魔力活性個体と人為的悪意』

 一日目の夜。

 僕は自分自身の体力不足を痛感した。

 色々と指摘されて気がついたけど、僕には足りないものが多過ぎる。それも生まれのせいなんかじゃなくて、僕がどれだけ馬鹿みたいに視野が狭かったかって話で、もう少し考え方が違っていれば今よりはマシな自分だったかもしれない。

 先ずは体力だ。それ無しでは語れない。


 二日目の夜。

 全身筋肉痛で辛すぎるうえ、オーバーワークは良くないと本気で怒られた。明日は筋トレが無し。

 今の所はエイジの持ってきた魔道具の効果もあって魔物との遭遇も少なくて基礎能力の高上に打ち込めているけど、状態異常筋肉痛の僕ではどう足掻いても勝てる気がしない。


 三日目の夜。

 今日は筋トレ無しで魔法のトレーニングだった。

 僕には基礎知識が足りないと言って魔法の授業をしてくれたんだけど、話す内容がサッパリ分からない。

 魔法の勉強は貴族だった頃にみっちりとやっているから、これに関しては僕が不出来だとかでは無く、エイジが異常なのだと思う。

 誰もが要らないだろうと切り捨てたであろう部分までを拾い上げる。これが今のエイジを作り上げる基盤を成しているのだろうと思う。

 でも今は早く強くなりたいからと重要な要点だけを聞こうとしたら雷で痺れさせられた。

 後は武器の扱いを習ったけど、コレは筋トレとは何が違うのかな?


 四日目の夜。

 え、まだ帰らないの?

 当たり前の疑問を口にした所、サバイバルが楽しいのはこれからじゃんと、備蓄の少なくなったリュックを持ったエイジに言われた。

 僕の記憶違いだろうか?キャンプって聞いていた筈なのにいつの間にかサバイバルになってる気がする。

 因みに、食料は明日の朝食で無くなるもよう。


 五日目の夜。

 食料が自給自足になりサバイバル本格始動。

 今日の分はエイジが川で捕まえた魚だったから良かったけど、魔物と遭遇した際、エイジがこの魔物は美味しく無いんだよな〜とか言っていた。

 魔物肉が食卓に並ぶ日は近そうだ。


 六日目の夜。

 今日は夕方からエイジが居なくて僕一人だ。何やら必要な物を買いに行くと言っていた。たぶん食材だ。絶対に食材だ。食材であって欲しい。

 今日僕は初めて魔物肉を食べたけど、僕はあれをもう二度と食べたくはない。お世辞にも美味しいと言えるものではない。

 というか、この場所は危険だから戻るなら僕も戻りたかった。一人でこの森は怖すぎる。

 早く帰ってきて……。


 七日目の夜。

 今日は過去一辛い一日だった。

 エイジが魔物避けが無くなったとか言い出した。昨日買い出しに言ってたじゃんと文句を言うも、エイジはにこやかに難易度が上がって楽しくなるだろ?とか意味の分からない事を言う。

 それに、買い出しに行ってエイジが買ってきたのはバケツと二種のポーションだった。

 一つはスタミナポーションで、もう一つは疲労に効果のあるポーション。両方中々に値の張る上質なものを買ってきており、効果は一般品とは桁違いだ。

 そのせいで……僕は、今日一日中無限に森の中を走らされる事になった。

 その間エイジは拳で岩盤を削り、今日から寝泊まりする拠点を自力で作っていた。

 僕のトレーニングメニューが終わる頃には拠点は完成していて、中には温泉まで作られていた。

 拠点の明かりと温泉を温めるのは僕の魔法で行う訳だけど、適した威力の魔法式がどれなのかをエイジは教えてくれないので七度しくじった。

 蒸発させたお湯は僕が汲みに行かされ、更なる筋トレを強いられた気分だった。

 これは初めから仕組まれてたな……。


 十日目の夜。

 ここ三日は特に変わった事はなく、基本は反復作業という形だ。

 基礎体力を六時から十二時まで、昼休憩を挟んで十三時から十六時まで。そこからは魔法の修行を四時間程行う。

 今日が他と違うとすれば、本格的に主食が魔物肉に代わった事だろうか。

 地獄のトレーニングを終えてソレが提供された瞬間、僕は言葉を失って涙が流れ落ちた。

 空腹だったから嫌々食べたけど、今回のはビックリするくらいに美味しくておかわりまでしてしまった。

 余談だけど、僕は今電気風呂にハマっています。


 十五日目。

 この日は珍しくエイジが朝から一緒だ。

 今まで気になってはいたけど、僕の修行中にエイジはいったい何をしているのだろうか。

 それが気になって本人に聞いてみる。


「言ってなかったっけ?ギルドからの依頼で生態調査してんだよ。この森は危険だからね、どの辺りがどの種の縄張りだとかを事細かく調べてんのよ」

「じゃあさ、近くにバサラ個体とか居なかったか教えてよ!リベンジがしたいんだよ!」

「バサラ個体か。確かにいたけど、かなり厄介な魔物のバサラ個体だけだった。それでもやるか?」


 十五日前、あの日から僕は変わった。

 その証明として僕はあの日倒せなかったバサラ個体を倒して前に進みたい。だから、エイジの問いに対しての答えは一つしかない。


「勿論!」

「よし。俺の調査も昨日で終わった事だし、バサラ個体を倒して昼には街に帰ろうか!」





 生活していたエリアより更に深く森へ潜った先、そこには大きな滝があるのだけど、その辺りの木々には大きな爪痕が沢山刻まれている。彼曰く、魔物が縄張りを証明するマーキングらしい。

 爪痕の大きさから、エイジの見つけたバサラ個体はかなり大きいサイズの魔物なのだと分かるけど、今更臆する事なんて無い。僕は気合いを入れ直す為に両頬を引っ叩く。


「見つけた。アイツだよ」


 木に隠れて魔物の居る方を指差されて僕もそちらに視線を送る。うん、やっぱり大きい。

 今回戦う魔物であるキングリズリーの平均全長は二メートルくらいだって聞くけど、あれは平均より間違いなく大きい。

 鋭い爪の長さは十五から二十で鎧すら切り裂くと言われる程の怪力。防御魔法か防御力強化の魔法が無ければまともにやり合えない。

 現状の僕はその両方が使えないけど、エイジが許可したという事は僕にも勝ち筋がある筈だ。

 僕はエイジからもらった中でも一番自分にあった魔法式の描かれた三枚の紙を取り出し、覚悟を決めて木の影からとびだした。


「先手必勝!クリムゾンノヴァ!!」


 左手に持つ紙。その中でも一番火力のある魔法を選んで先制攻撃を仕掛ける。

 複数枚ある魔法式の内一つだけに魔力を通して発動、これは僕が一番練習させられた基礎。付与された魔法効果を瞬時に選択して正しいタイミングで使う。これが本当に難しくて、今の僕には三枚での選び分けが限界なんだけどね。


「油断するな!まだ終わってない!」

「分かってる!」


 バサラ個体とは魔力が異常活性した個体。

 その活性化した魔力に合わせて肉体は変異、大きな魔法耐性の会得、個体に合った異能を使う。

 実際には魔法なんだけど、バサラ個体の魔法には魔法式が存在しない。最大の不意打ちなんだ。


「来た!」


 燃え上がる炎を掻き消したのは鋭い斬撃。

 ギリギリでその一撃をかわすと、背後の木々が堪えれずに倒れ行く。コレ、間違いなく即死案件だ。


「でも見えてない訳じゃない。速攻で終わらせる!」


 今度は一番威力の小さい魔法だ。それを連発しながら僕は魔物へ一気に駆けて行く。

 クリムゾンノヴァで耐えたんだ、この魔法で倒せるなんて思ってないけど、まさかダメージすら与えられ無いとは。でも足止めは出来てる、問題ない。


 右手に魔力を集中。

 バサラは高い魔法耐性を持つ。だけどそれは属性魔法に対してのもの。

 この一撃は僕のソウルスキルだから使える究極の抜け道。衝撃強化の魔法をブースト強化、今までとは違ってコレには制限を設けない。

 魔法は走り出しと同時に展開。懐に潜り込むまでの間たっぷり何十にもブーストの掛かった一撃。

 威力未知数だから被害が出ない様に上空目掛けてアッパーで打ち込む。


「メテオインパクト!!」


 命中した刹那に強烈な衝撃が辺りに走る。

 ずっしりとした重みは打ち込んだ僕にもかかり、僕の踏み込む地面に亀裂が走る。

 それに押し切られない様に気張り、上げた拳を一気に振り抜いてキングリズリーバサラを上空へと打ち上げた。

 少しの間を置き、上空へと吹き飛んだキングリズリーバサラは近くの滝壺へと落下した。


 間違いない。これは間違い無く僕の勝ちだ。

 嬉しさのあまり叫び出しそうになったその時。


「ウギャギャギャギャアアアアアァァァ!!!」


 奇声を発しながら僕の前に飛んで現れた謎の魔物。

 見た事ない。なんだコイツは。大きさはキングリズリーよりも小さいけど、洒落にならない筋肉の四本腕。攻撃力はコイツに軍配が上がりそうだ。

 ライフコングと言う魔物に似ているけど、四本腕のライフコング何て聞いたこともない。

 メタルボアと同じような牙も生やしているし、コイツは本当に何なんだ。ただ言える事は、今の僕ではどう足掻いても勝てない。


「エイジ、入れ替えちゃダメだ!!」


 僕の静止も聞かず、エイジは僕と魔物の配置を入れ替えて攻撃をスカさせ、僕とエイジの場所を入れ替えて背後から魔物に回し蹴りを決める。

 だけど、


「かってぇ!」


 その攻撃は全く効果が無い。

 そして、隙だらけになったエイジに振り返った魔物が魔力を集約させた拳を向ける。

 再びエイジはソウルスキルを使って配置換えを行うが、それを予想していたみたいに魔物は入れ替わり先のエイジを狙う。


「マジかよ!?」


 あの攻撃が当たるのは本当にヤバい。


「エイジ!!僕を使って!!」


 僕を見て狙いに気が付いてくれた。その証拠にエイジは僕との配置換えをソウルスキルで行う。

 僕とコイツの配置換えが避けの最善策なのは間違い無いと思う。でもそれじゃあダメだ。

 コイツの反応速度や適応能力は異常だから、コッチも攻めに転じないと勝ち目が無い。

 やるなら初見の技で確実に削る事。

 僕もだけど、ここからならコイツも僕の攻撃を避ける事は出来ない。

 相手の一撃を上回る一撃で反撃する。


「六倍くらいかな?行くよ、メテオインパクト!!」


 魔力を帯びた拳と拳がぶつかり合い、走る衝撃が地面を割り突風を起こす。


「嘘、だろ!?」


 ブーストが足りなかった?!

 確かにさっきよりはチャージ時間が短かった。だからと言って軽い一撃じゃあ無い。なのに、押し切れない!それどころか、押される!?


「雷華抜刀、一重裂き!!」


 生死を分ける競り合い、その均衡を破り、勝利を手繰り寄せる一手を先んじて繰り出したのはエイジだ。

 注意を僕が引いてエイジの攻撃時間を稼ぐ。鋭い刃が魔物の背中を切り裂く。

 力が緩んだこの瞬間を待っていた。絶対に逃しはしない。


「メテオインパクトォォォォ!!!」


 衝撃強化を追加で発動し、この一瞬に置ける最大火力を用いて謎の魔物を全力で殴り飛ばす。


「一旦下がれ!」

「うん!」


 今の攻撃では終わらない。そう理解するエイジは僕に指示を出して魔力回復ポーションを投げ渡す。

 エイジは起き上がって直ぐの魔物に即座の追撃を仕掛けるが、魔物は四本腕で地面に強撃を浴びせ、砕け飛び散る土石が行方を阻む。


「雷華、乱れ裂き!」


 一瞬の連続攻撃で邪魔する全てを捌き、エイジの攻撃が及ぶ間合いまで距離を詰めきる。

 魔法式の描かれた刀身に魔力が宿り、バチバチと雷が弾ける。


「一重裂き!!」


 首目掛けて振るわれたその刃を前に、魔物は魔力を纏わせた腕を盾が割りにして防御を行う。

 そして、魔物はその攻撃を完全に防ぎきり、二本の腕でエイジを地面に叩き付けた。


「ぐは!?」


 魔物は倒れたエイジの足を掴んで更に四回程地面に叩き付けた。


「調子に乗ってんなよ!」


 追加で地面に投げつけようとしたけど、その前にエイジが一重裂きで自分を掴んでいた腕を切り裂き、脱力した瞬間に腕から逃れる。

 着地と同時に大きく一歩を踏み出し、ガラ空きになった胴体に刃を通す。


「雷華抜刀、華翔斬舞!!」


 その一振りは今まで見たエイジの技とは比にならない威力。刃を走らせた軌道を稲妻が追い、地から天へと雷が登り行く。

 魔物の強度を凌駕した一閃は初めてザックリと肉と骨を裂いている。


「一気に決めるぞ!!」

「分かってる!!」


 僕はエイジに合わせて走り出す。

 魔物の振るう拳をかわしてエイジが追加で一撃、蹌踉めくその隙に衝撃強化で一撃。

 威力は弱くなってもエイジのおかけで確実にダメージに繋がっている。今必要なのは圧倒的な手数だ。

 僕は両腕に衝撃強化の魔法を施す。


 そして、ブースト、ブースト、ブーストブーストブーストブーストブーストブーストブーストブーストブーストブーストブーストブースト。

 強化を施した側から連続でひたすらに打ち込む。


「雷華、八重裂き!」


 僕の攻撃を堪えて反撃に出た魔物へと同時に八連斬がお見舞いされ、魔物は痛みで攻撃の手を止める。

 そこを逃す事なく僕は更なる攻撃を浴びせる。


「クリムゾンノヴァ!」


 このまま押し切ると思ったけど、今の攻撃はあまり効いていない様だ。打たれた側から火炎より飛び出して、インターバルの関係上次の行動に移れない僕を魔物が一撃で薙ぎ払う。


「ぐっ!?」


 今の一撃は今まで一番軽く、腕に向かって反射で放った火魔法が相手の攻撃を更に弱める事で何とか致命傷にはならなかった。

 ダメージは受けたけど、コレは相手が確実に弱っているという吉報に他ならない。勝てる!


「華龍!!」


 龍の形を成した雷が魔物を襲い、爆発的な高電圧は地面すらも焦がす。

 更に華龍を放とうとするエイジを標的に絞った魔物は走り出す。その後を力を溜める僕も追う。


 殴り、かわし、切り裂く。

 その攻防戦を繰り返し、その果てにたどり着いた最大最高の勝機。


「フルチャージ!コレが最後の攻撃!」

「いや待て!!罠だ!!」


 最大まで引き伸ばしたメテオインパクト。

 コレを決めれば勝てる。なのに、何でこんなにも背筋が凍りつくのだろう。


「嘘でしょ!?」


 この瞬間は完全に虚をついて生まれた隙。だから反応何て出来る筈が無いのに。

 いや違う。コイツはこの土壇場で標的を僕に絞って、今この瞬間を意図的に生み出して僕を誘い込んだのか。僕は読み違えてしまった。

 今の立ち位置は僕、魔物、エイジが近距離で直列に並ぶ形になっており、このタイミングではエイジの入れ替えが意味を無さない。エイジのソウルスキルで配置換えを行ったとして、入れ替えられた者は向いていた方向を向いたままで方向転換は行えないからだ。

 つまり、このタイミングで入れ替えを使えば僕の攻撃がエイジに当たってしまうのだ。

 まさか、この様な方法でソウルスキルを攻略してくるとは全くの予想外である。


 このままだとカウンターを貰って僕は……死ぬ。

 大事な最後の最後で僕は何てミスを……。


「まだだ……」


 まだ終わってない。

 僕は死ぬ。だとしても、この最後の一撃は必ず決めて見せる。絶対にタイミングを間違えない。

 僕はもう、死を前にしても涙を流さない。運命を受け入れて最善手を打ちエイジに繋ぐ。

 エイジなら必ず勝ってくれるから。

 そう、エイジなら必ず……。

 エイジなら…………本当にそうか?

 違う、そうじゃない……。

 エイジはこんな時、必ずあの行動に出る。


「待って!ダメだぁぁ!!!」

「後は任せたぞ」


 望まぬ僕の意思を無視して、僕は瞬時に魔物の背後に居たエイジと立ち位置を入れ替えられた。

 その果てに、魔物の放つ全身全霊の一撃をエイジがその身に受け、砲弾のような威力と速度で吹き飛び、幾つかの木々や岩を砕き抉りしてようやく減速して地面にゴロゴロと転がり倒れた。


 入れ替えられた僕はエイジに一撃を入れたばかりの魔物の方へと振り返り、


「消えろおおおおおおおぉぉぉーーーーー!!!」


 八つ当たりの一撃。

 火魔法も上乗せして上半身を消し飛ばす。

 力無く崩れた下半身も過分火力の魔法で消し炭に。


「ああああああああああああああぁぁぁぁ!!!」


 散った灰を踏みつけにして、僕はただひたすらに真っ直ぐ真っ直ぐひたすら真っ直ぐに走る。

 エイジに駆け寄ると、そこに倒れたエイジは血塗れで武器も砕け散っている。

 骨折はしていない。魔力で守りきったみたいだ。

 だとしてもあの威力、あの衝撃、堪えれられる筈が無い。僕のせいだ。僕がエイジを……。


「僕がエイジを殺した……」

「勝手に殺すな」

「エイジ!?え、生きてるの!?」

「生きてるよ」

「良かった!本当に良かった!」


 生きていた。あの威力でエイジは生きていた、本当に驚きだ。

 でもかなりの怪我で暫くは動けないだろう。エイジの持っていたポーションも全部割れてしまっていて使うことが出来ない。


「どうしよう……」

「俺の事はいい。今はお前に頼みたい事がある」

「待ってよ!治療が先だよ!」

「時間が無いかもしれないんだ、話を聞け!」


 無理に声を荒げたせいでエイジを痛みが襲う。

 それでも堪えながら話しだすその姿を見て僕もエイジの意思を尊重する事を選ぶ。


「アイツは、あの魔物はキメラ。人工的に作り出された魔物だ」

「冗談だよね……そんな事出来る訳ない」

「事実だ。複数の魔物の特徴を持った魔物、前に師匠と一緒に戦った事がある。間違いない」

「僕は何をしたらいい?」

「急いでギルドへ行け!この事を知らせるんだ!あの一体で終わりだなんて思えない。アレが野放しになるとかなりの被害が出る。頼んだぞ!」

「分かった!必ず戻って来るから!」


 成すべき事を成す為、僕は全速力で街を目指す。


 …………………………………。

 …………………………………。

 …………………………………。


「居んのは分かってる、出て来いよ」


 カイトがこの場から離れてから少し経過した頃、よろめきながらも立ち上がったエイジが誰かに言う。

 その言葉を聞き、木の後ろに隠れていたローブ姿の人物が姿を見せた。

 その人物は大きな鎌を異空から取り出し、カラカラと引き摺りながらエイジとの距離を詰めくる。


「気配を消していたのに気付くとは、前の君では有り得なかった事だ。実に素晴らしい」


 武器は無い丸腰の状態だが、そんな事は気にする材料にあらず。彼の感情の昂りがラバンの時と同じく、いや、その時以上に溢れ出す魔力と雷で伝わる。

 それを見てフードを下ろした緑髪の男性はニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。


「本当に素晴らしい!だけど、まだ足りない。その程度では君の牙はまだ私へは届きえないよ」

「やってみないと、」


 言葉が言い終わる前にローブ姿の男性は一瞬でエイジの首に鎌を掛け、エイジは即座に逃れる為に配置換えを行う。

 だと言うのに、男性の持つ鎌は瞬時に入れ替わり先のエイジの首に掛かる。


「君のソウルスキルでは同じ組み合わせでの転移を連続では使えない、一対一では意味が無いスキルだ。分かっていれば対応は容易。君の負けだ」


 力量差があり過ぎた。

 まだ足りない現実に、力無い自分に、世の理不尽を前にエイジは膝をつく。


「死神、俺は必ずお前を殺す……」

「そう。出来ればいいね」


 死神が笑った。刹那、赤い飛沫が辺りに散る。


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