05 モラハラ夫は、モラハラ夫にお腹の張りを教えてみた。
つわりの長さは、個人差があります。長くて辛いときは医師に相談してね。
張りが頻繁にあるときや強さがいつもと違うときも、病院に連絡してください。
妊娠12週目で、ようやくつわりがおさまってきた。
だからといっても、急に体がしんどくなるときもある。
それから15週になると、つわりがなくなった。
食える! 普通に食える!
炊飯器の匂いで吐かない!
嬉しくて、ついケーキを2個も食っちまった。妊婦検診の前日に・・。
案の定、主治医に怒られたよ。
「尿から糖が出てますけど、昨日の夜に何か甘いものを食べましたか?」
「あの、ケーキを2個・・とシュークリームも食べたかも・・」
「前にも言いましたけど、検診の前の日に甘いものを食べるのは、避けて下さいね。それと、少し運動していきましょうか。でも、お腹がはったら、中止してくださいね」
ギロって睨まれたときは怖かったけど、基本的に優しい先生で良かった。
それから、喉がすごく痛かったから、それも報告して薬をもらおうとした。
「昨日から、喉がすごく痛いんです。もしかしたら、風邪をひいたかもしれないので、薬をもらえますか?」
「喉がかなり赤くなってますね。うがい薬を処方しとくので、頑張ってうがいで治してください」
え?それだけ?
俺が不満そうな顔をしてたのを見ていた先生が、続けた。
「お腹の胎児に影響があるので、薬は極力出せませんね。それに、喉が赤い程度なら、うがい薬と気合いで治りますよ」
そういや、千春も風邪をひいたとき薬を飲んでなかったな・・。
妊婦は気合いでなおすのか・・。
産婦人科の病院を出ると、俺はバス乗り場まで歩く。
ふふふ、デキル母は医者に言われたことを即行動に移すのさ。
俺はバス停から、バスに乗り込むと足がつってしまった。
いってええ。つった場所はふくらはぎ。
堪えられん。
でもバスの座席はあいてない。
優先座席はあるが、まだお腹も出てない俺は、誰も代わってくれそうにない。
しかし、座席に座っていた男性が俺を見て、「どうぞ、座って下さい」って席を譲ってくれたんだ。
足が痛かった俺は、礼を言って素直に譲ってもらった席に座った。
でも何で譲ってくれたんだろうって不思議に思っていたら、男性が俺の鞄に付いてた、マタニティーマークを見て代わってくれたようなんだ。
この妊娠初期って外見からは全くわからん。だから、これをつけとくと妊婦って分かってもらえる。
だが、真だったとき、このマークの存在も知らなかったし、知ってたとしても、代わらなかっただろうな。
お腹大きくないのに、しんどくないだろって思っていたんだよな。
なって分かる妊娠初期の辛さ。
たま○クラブの付録で付いてたけど、鞄に付けてて良かったぜ。
マークのお陰で、座れたしな。
足のつりも収まった。
他の男性でも労ってくれるのに、相変わらず俺の旦那は、「食事は?」「お風呂は?」って全く妊婦を労ることを知らない。
しかも、姑も同じ女なのに、嫌味なことしか言ってこないんだ。
腹が立つのは、それが俺も千春に対して同じだったってことだ。
24週目に入ると、妊婦検診が2週に1回って頻繁に行かなくちゃならない。これは、面倒だった。
お腹が大きくなってきて、何をするにも大変なんだ。
何が大変って足の爪を切ろうとすると、お腹が邪魔で切れない。
靴下だって片手で工夫しないとダメなんだ。
それと、便秘が酷くてもいきむな、と言われてるけど、それじゃあ、出ないんだけどどうしろと?
それと、足が度々つるようになった。
足の指はなんとか我慢できる。だが、ふくらはぎや太ももがつったときは、参った・・。
もう、寝ててもなるんだ。
そうしてると、27週になった。
さらに大きくなったお腹を赤ちゃんが蹴る、殴る?
動くって感じじゃなく蹴るんだ。
この勝手に動くのを、胎動っていうそうだが、夜中でも蹴ったりして、俺は目が覚めるはめになる。
あんまり動くんで、お腹を見ていると、お腹がグニグニと勝手に動くんだ。
これは、感動ってよりエイリアンを思い出しちまった。
生命の神秘を不謹慎な!って怒られそうだけど、本当に自分とは別の生命体が自分の中にいて、腹の中からグリグリ押して、皮が伸びるのを見たら驚くぜ。
だが、これで、気持ち悪いって感じはないんだ。
ここに俺の子供がいるんだって、感慨深くて、思わず「よしよし」ってさすってた。
俺の母性が目覚めたんだろうか?
女性が男より早く母になれるのは、自分のお腹で育ててるからかな?
俺は・・青翔が産まれても、お父さんにはなってなかったな。
妊娠後期に入った・・。
32週の妊婦検診でようやく性別が判明した。
俺の子供は男の子だった。
もっと早く分かるはずだったが、位置的に分かりにくい方向を向いてて分からんかったらしい。(先生談)
お腹が大きくなって動きにくいし、胃が押されてあまり食えない。
それよりももっと厄介なのが、しょっちゅう小便に行きたくなるんだ。
膀胱を圧迫するからって聞いたが、トイレが近くにないとめっちゃ心配になるよ。
先日陽一と買い物に行った時、「またトイレかよ!」って言われたけど、マジでトイレが近くなるんだ。
なのに、本当に陽一はわかってねえ。
だが、俺も千春と一緒に車で出掛けてて、高速に乗った時、すぐに次のパーキングで止めて欲しいって言われて、憤慨してたな。
「何度トイレに行くんだよっ」って・・・。
本当に悪かったと、今は反省している。
それと、俺の腹は『張り』が多くて怖いんだ。
お腹が張ってくると安静にしたほうがいいから、じっとソファーで寝てると、陽一が「つわりはなくなったのに、何寝てるんだ」って言いやがる。
男の時は分かんなかった、この『張り』っていう感覚。
俺は千春が「お腹が張ってきた」って言っても、便秘で腹が張ったようなもんだろうって軽ーく聞き流してた。
全く違った。
お腹全体がガチガチに硬くなってきて、それこそ岩?って感じになるんだ。
その間、筋肉に電気刺激とか、低周波治療器の強さ振り切り、最大ってのをされてる痛みが腹全体に広がるんだ。
辛いのなんのって。
ぎゅーってくるのが、トラウマになりそうに怖い。
これがちょっと無理をすると、「あああ、来たぁぁ」って、襲ってくる。
なのに、陽一が「腹が張ったくらいで、横になるな!」ってさ。
こいつの根性、どうも我慢なんねえから、わかってもらうためにやってみた。
陽一は、基本一度寝るとなかなか起きない。なので、それを利用させてもらった。
爆睡してるやつの腹に、家中の低周波治療器をつけて、その上からガムテープで固定。
それで、いきなり最大限の強さで作動!!
「うおおお! な、なんだ? いてててて」
体を捩って痛がっている姿をみて、ちょっとだけ溜飲が下がる。
「さっき、腹が張ったくらいって言ってたから、どんなのか教えてあげてるのよ。妊婦のお腹が張るって感じ、わかった?」
俺が見下しながら、スイッチを見せびらかしていると、涙目で「止めてくれ」ってさ。
「ねえ、痛いのがわかった?」
止めずに、も一回涼しい顔して尋ねてみた。
陽一がうんうんと必死で頷いてるので、電源を切ってやる。
「おまえ、こんなことして、いいと思ってるのか?」
陽一が、再び大きな声をあげてきた。
なんだ、わかってねえのか。
だから、スイッチオン!
「ぐおおおお」
「張りくらいって言ってた感覚、覚えた? これが妊婦の張りに近いかも、でも、本当はもう少し痛いけど、これ以上のレベルがないからこれで、許してあげるねー」
妊婦の張りは、一回じゃ終わらないことも教えてやらないとな・・。
そうだ、よい子のみんなは真似しちゃダメだよ。