01 モラハラ夫、妊娠する
俺は病院のベッドで寝かされていた。
なんで?
起き上がると体が異様に重く感じる。
だるい・・。
看護師が近づいてきた。
「岡田真弓さん、もう、起き上がって大丈夫ですか?」
おいおい、この看護師、俺の名前間違ってるぞ。
『岡田』って名字は合っているが、俺の名前は『真』で、まゆみではない。
しかし、その看護師はしつこく名前を真弓と呼び続け、俺の手を取って脈を測りながら、さらにおかしいことを言う。
「岡田さん、つわりがひどくて脱水をおこし、会社で倒れたんですよ。覚えていらっしゃいますか?」
「え?」
つわり? って何を言っているんだ?
男の俺がつわりっておかしいだろう?
看護師が異常すぎて怖くなった。
俺は岡田真、32歳。れっきとした男で妻子もいる。
妻の千春は30歳。3歳の息子の青翔と3人で暮らしていた。しかも、現在妻は第2子を妊娠中。妻に見送られていつものように会社に出掛け、『トチウール不動産』原尾支店に出勤して、ドアを開けて・・。
その後どうしたっけ?
そこで倒れたのか、記憶がそこからプツリと途切れていた。
この病院は何病院か知らないが、やたらと妊婦がいるのは気になった。
だからと言って、男の俺がつわるとか・・、とにかく目の前の看護師がヤバすぎし、あまりにもバカらしい。
「もう大丈夫で・・」
帰ろうと思って立ち上がった瞬間、猛烈な吐き気に襲われた。
看護師が手品のように素早く、ビニール袋を被せた桶を差し出す。
「うえええーー」
吐き出すが、何もでない。
看護師が背中をさすり、「妊娠初期は色々と分からないことも多いし、とにかく、近くに頼れる人がいたらどんどん頼ってくださいね」と言われ、俺、ますますパニクる。
俺が妊娠初期って、何言っているの?
しかし、桶を持つ自分の手に驚いた。
細くて綺麗。
俺の手はもっとごつごつしてたはず。
頭がふらふらしていたが、鏡を見て確認しないとと、トイレに行きたいと看護師に頼むと、案の定、連れて行かれたのは、女子トイレ。
俺、女子トイレに入ってるけどいいのか?犯罪者になるんじゃないのか?
気まずいが、吐き気としゃべれない。
そこで鏡を見て愕然!!
女だ! しかもちょっとタイプだ!
染めてない黒髪ストレートの清楚系。大人しい感じがいいな・・。って今は俺か?
鏡を見て固まっていると、看護師にトイレを促された。
頭を整理するために、一度個室に籠った。
「ふらふら、しているので終わったら、そこのボタンを押して看護師を呼んでくださいね」
「分かりました」
俺は返事して、自分の声をようやく認識した。
さっきまで気がつかなかったけど、女の声だ。
野太い声じゃない。
よし、整理しよう。
俺はなぜか今、女。27歳らしい。
そして、妊娠初期でつわり。
そして、夫は?
あれ? そしたら妻の千春は? 青翔は?
親子3人で仲良く暮らしていたのに。
近所に住むお袋も、第2子を楽しみにしていたんだ。
何てこった・・。
これから、どうしよう・・。