導かれる先
「さて、君の名前は?」
悠は目の前の男を見上げた。黒いローブに身を包み、威厳のある雰囲気をまとっている。長い白髪と鋭い眼差しは、ただの一般人ではないことを物語っていた。
「……悠、です」
「悠くん、ね。初めて魔法を使った割には、なかなかの適応力だ。でも、魔力の消耗が激しすぎるね」
悠は浅く息をつきながら頷いた。たった数回水を操っただけで、もう立っているのもやっとだった。
男は隣の精霊にも目を向ける。
「君は……水の精霊かな?」
精霊は一瞬だけ反応したが、すぐに「うん」と頷く。
「なるほど。水の魔法なら、もう少し効率よく使えるはずだけどね」
男は悠に向き直ると、穏やかな口調で続けた。
「悠くん、君に提案がある。『アストレア学院』に来る気はないかい?」
「アストレア学院……?」
悠は聞き慣れない名前に戸惑った。
「知らないのか? アストレア学院は、魔法を学ぶ者たちにとって最高峰の学び舎だよ。魔法使いだけでなく、一般社会にも広く知られている名門校だ」
「そんなに有名なんですか?」
「もちろん。世界中の企業や政府機関も、アストレア学院の卒業生には一目置いている。そこでは、魔法の力を鍛えるだけでなく、魔法が社会でどう活かされるのかも学べる」
悠は思わず息をのんだ。
(そんなすごい学校に、俺が……?)
「君のように魔法の才能を持つ者が集い、魔法を制御し、世界の在り方を知る場所でもある。どうだい? 君も学んでみる気はないか?」
悠はしばらく考えた。
(正直、今日の出来事だけでも十分すぎるほど現実離れしてる……でも、このままじゃ何も分からないままだ)
悠はゆっくりと顔を上げた。
「……行きます」
男は満足そうに頷いた。
「いい返事だ。私はライゼン・ヴァルト。この学院の校長を務めている」
悠は驚いた。この人物が、あの有名なアストレア学院の校長だというのか。
「君を迎える準備を整えたら、正式に入学手続きを進めよう。楽しみにしているよ」
こうして、悠は魔法の世界へと足を踏み入れることとなった。
—続く—