崩壊の序曲
悠は学院の廊下を駆け抜けた。玲奈と大地も後を追う。先ほどの爆発音が響いた方角へ向かうにつれ、焦げた匂いと共に異様な静寂が広がっていく。
――そして、視界に入ったのは破壊された講堂だった。
「……嘘だろ」大地が呆然と呟く。
かつて学院行事が行われていた壮大な講堂。その壁は砕け、天井の一部が崩落している。瓦礫の間に倒れている生徒たちもいるが、幸いなことに重傷者は少ないようだった。
「これは……事故じゃないよな」玲奈が険しい表情で言う。
「誰かが攻撃したってことか?」悠は剣を握りしめながら周囲を見回した。その時、不意に背後から声が響いた。
「お前たち、何をしている!」
声の主は学院の教員だった。しかし、その表情は焦りと警戒心に満ちていた。
「先生、これは……?」悠が尋ねる。
「お前たちが知る必要はない!」
その瞬間、悠は違和感を覚えた。学院の教師がこんなにも取り乱し、生徒を遠ざけることなど今まで一度もなかった。
「まさか……」悠が何かを言おうとした瞬間、別の場所から悲鳴が響いた。
「きゃあああっ!」
「玲奈! 大地!」悠は即座に声をかけ、悲鳴のした方角へ走る。
学院の中心部――そこでは、黒い霧のようなものが立ち込め、異形の影がゆっくりと形を成していた。
「これって……魔物か?」大地が戦闘態勢に入る。
「いや、違う……これは……」玲奈の声が震える。
黒い霧の中から現れたのは、人の形をしていながら、明らかに異質な存在だった。その瞳には光がなく、口元には不気味な笑みが浮かんでいる。
「これは、ただの魔物じゃない……」悠は息を呑んだ。「何かが……おかしい」
学院崩壊の幕が、今まさに開けようとしていた。