影の足跡
悠はアカレとともに、日常の訓練を続けていたが、最近学園内に感じる微かな違和感を無視できなくなっていた。外見は変わらず平穏に見える学園だが、悠の耳には何度も不安を呼び起こすような噂が届くようになった。
特に、学園の施設の一部が突然閉鎖され、立ち入り禁止の警告が出されたことが気になった。その施設は、魔法の研究や実験が行われる場所で、普段から特に厳重に管理されているところだった。しかし、閉鎖された理由については一切触れられていない。
「どうして急にあの施設が閉鎖されたんだろう?」
悠はリリィと一緒に校内を歩きながら、ふと問いかけた。リリィはしばらく黙っていた後、思案顔で答えた。
「うーん、わからないけど、なんだかおかしいよね。あの場所、何か秘密があるんじゃないかな?」
その後も、学園内では些細な異変が次々と起きていた。夕方になると、一部の廊下に薄い霧のようなものが立ち込めているのを見かけることが増え、夜の静けさの中で妙な音が聞こえることもあった。だが、それが何なのか、誰も明確に答えることはできなかった。
また、普段元気なはずの生徒たちが、何かに怯えたように姿を消すこともあった。授業が終わった後の学園内は、どこか張り詰めた空気が漂い、気を抜くことができなかった。
「悠、大丈夫?」
玲奈が少し心配そうに声をかける。悠は小さく頷くが、その目はどこか遠くを見つめていた。
「うん…でも、最近、学園がどこかおかしい気がするんだ」
悠はアカレのほうを見て、さらに小声で続けた。「何かが起きようとしている、そんな気がしてならない」
アカレが肩の上で小さくうなずき、悠に向かって語りかける。
「僕も感じるよ。空気が重くなってる。けど、まだそれが何なのかは分からない。でも、気をつけたほうがいいよ」
その時、学園内に突如として、微かな鈴の音が響いた。悠とリリィはその音に振り向いたが、周囲には誰もいなかった。鈴の音は一瞬だけ、そしてまた静けさが戻った。
「今の…何だったんだ?」
「鈴の音?」
「でも、誰もいなかったよね…」
その後も学園内には、ますます奇妙な出来事が増えていった。無人のはずの教室から突然、無理に引き裂かれたような叫び声が聞こえることがあり、その声を聞いた者たちはすぐに顔を青くして逃げ出すという事態が続いた。最初は噂に過ぎなかったが、次第にその噂が現実のものとなり、学園内の生徒たちの間では不安の声が広がっていった。
学園の生徒たちは次第に緊張し、笑顔も消え、無言で廊下を歩く者が増えていた。
「何か…本当に変だよね、最近」
悠がリリィに言うと、リリィは眉をひそめながら言った。
「うん、私も感じてる。誰かが見えないところで何かを動かしているような気がする」
それが何かを直感で感じ取ったのか、リリィの表情は厳しく、悠もその変化に少し警戒心を抱くようになった。
その日の午後、校長のライゼン・ヴァルトが急に全体会議を開くという知らせが届いた。いつもは穏やかな校長がこのような緊急の会議を開くことは珍しく、生徒たちもその知らせに動揺していた。
「どうして急に会議?」
大地が顔をしかめながら言った。「何か大きなことが起きたのか?」
その会議の場で、何か重大な発表があるのかもしれない…。
悠の胸には不安と期待が入り混じり、今後の展開に対する覚悟を決めるようにして歩を進めた。