復元された剣
アルマはシャロンの依頼に応じ、風化した板の復元に乗り出した。
移動させると崩れてしまいそうなため、客間から動かさずにその場で作業を開始する。
風化した板を床の上にそっと置いて安定させるとアルマはそのそばで片膝をつき、修復の魔術を発動させた。
彼女の様子をシャロンはソファの上にちょこんと座りながらじっと覗き込む。
茶色く風化した岩のような板から少しずつ錆が剥がれていく。
錆は少しずつ色を変えて元あった形へと再構築され、板が本来の色と姿へと始めた。
錆の除去と再構築を繰り返すこと数十分、風化した板はついに本来の姿を取り戻した。
「これは……剣?」
アルマは己が復元したものの正体に驚かされた。
さっきまで風化した板だったそれは巨大な剣だったのである。
しかしそれは一般的なものよりもはるかに大きく、柄だけでもアルマの片腕ほどの長さがある。
全長に至ってはアルマの背丈よりもわずかに大きいほどであった。
「まさか我が家の蔵の中にこんなものが眠っていたとはな」
シャロンは剣の柄を両手で取るとそれを持ち上げて構えて見せた。
自身よりも巨大な剣を軽々と扱う彼女の姿にアルマはさらに驚かされる。
「お、重くないんですか」
「心配は無用だ。私は生まれつき人より力が強いのでな」
シャロンは特技を明かした。
彼女は並外れた力を持っており、現に大剣を軽々と持ち上げている。
痩せ我慢をしているような様子もないため、その言葉に偽りはなかった。
「ちょうど新しい剣が欲しかったのだ。恩に着る」
シャロンは剣を足元に置き直すとアルマにお礼を述べた。
剣は床に置かれると重厚な音を立て、相当な重量があることが伺えた。
だがそれはともかくとしてアルマはシャロンの言葉が気にかかった。
「剣がお好きなんですか」
「ああ、我が家は代々剣の鍛造をしていてな」
アルマが尋ねるとシャロンは意気揚々と答えた。
彼女の生まれ家系であるスカーレット家は剣の鍛造を生業としており、剣に関して趣旨の深い一族であった。
「だが私の力に耐えられる剣がこれまで見つからなくてな。でもこれならきっと……」
シャロンはそれとなく自身の抱えていた悩みをアルマに打ち明け、それが解決できそうだという旨を伝えた。
シャロンは剣を振るうことも好んでいたが今のスカーレット家の技術では彼女の力に耐えられる剣を作ることができず、その都度刃を折ってきたのである。
「無茶な依頼に答えてくれて感謝する。謝礼は後日改めてさせてもらいたい」
「どういたしまして。また依頼したくなったらいつでもどうぞ」
シャロンは突然の依頼を引き受けてくれたアルマに深々と頭を下げた。
アルマは当然のことをしたまでと返事をする。
「では失礼する」
シャロンは復元された剣を斜め掛けで背中にマウントするとその場を後にしていった。
玄関から見えた外の景色はすっかり陽が落ちている。
今日の仕事はここまでであった。
「なんだかすごい人だったなぁ」
アルマはシャロンのことを思い出しながら踵を返して今日の仕事を終えたのであった。