アルマの初仕事
魔術師稼業を開業した翌日、アルマの元に早速仕事の依頼がやってきた。
依頼人は建物の工事を請け負う職人たちの監督であった。
「アルマちゃん。建設中の建物が事故で崩れちまってさ、なんとか石材だけでも復元してくれねえかな?」
監督はアルマに依頼の内容を簡潔に伝えた。
建物の材料となる石材が破損してしまったため、それを復元してほしいというものである。
「お任せください」
アルマは依頼を快諾し、新調したてでピカピカの衣装に身を包んで勢いよく家を飛び出した。
魔術師としての初仕事ということもあって気合が入っていた。
監督に案内され、アルマが現場に到着するとそこには路上に大々的に山積みにされた石材があった。
石材は何かと衝突して崩れたらしく、粉々になっている。
「これを直せばいいんですか?」
「ああ、頼むよ」
仕事内容を再確認したアルマは石材の前に立つと両手をかざした。
彼女の手元に緑色の光を放つ魔法陣が形成され、アルマの魔術が起動する。
地上に現れた魔法陣に囲まれた石材はひとりでに動き出し、破損した欠片と欠片が複合して本来あった長方形へと戻りだした。
職人たちはアルマの魔術によって石材が復元されていく様子を固唾をのんで見守った。
そして開始から数分の時を経て山積みにされた石材の破片はすべて復元され、使用前の姿に戻された状態で積み上げられた。
「これで大丈夫です」
「ありがとうアルマちゃん。これでまた作り直せる。お前らも礼を言え」
「あざっした!!」
作業の完了をアルマが報告すると監督はお礼を伝え、彼に続いて部下の職人たちが一斉に頭を下げた。
「報酬金を受け取ってくれ」
「ありがとうございます。何かあったらまた相談してくださいね」
アルマは監督から報酬を受け取ると社交辞令を送った。
それからの先の予定は特になく時間を持て余していたため、アルマは思い付きで職人たちの仕事風景を見学することにした。
アルマは現場から少し離れたところに腰を下ろし、職人たちが復元された石材を運搬して積み上げていく様子を眺めていた。
職人の男たちは体を張って働き、声を張り上げて仲間たちとの連携を取る。
魔術学校ではまず見られなかった男たちの力強い姿にアルマはつい視線を釘付けにされた。
(ボクも男の子だったらああいうことができたのかな)
アルマの中にふとそんな発想が過った。
彼女は記憶が欠落する以前の性別は男である。
もし自分が女の子になっていなければ目の前で働いている職人たちのような力強い行動ができたのだろうかと空想を膨らませた。
「よーし、いったん休憩!」
監督が大声で合図を送ると職人たちは作業を切り上げて休息に入った。
監督は作業の様子を眺めていたアルマの方へと歩み寄った。
「うちの野郎どもはどうよ。いい仕事するだろう」
「とても力持ちでカッコいいと思います」
「褒めてくれるねぇ。お前ら、アルマちゃんがお前らのことカッコいいってよ!」
「イェーイ!」
監督が大声で伝聞すると職人たちは歓喜の雄叫びを上げた。
美少女のアルマに褒められたことで彼らの士気は大いに高揚している。
「うちの野郎どもから気に入ったのがいれば貰ってもいいぞ」
「いえ⁉︎ボクはそんなつもりで言ったんじゃ!」
アルマは赤くなった顔を帽子で隠しながら弁明した。
本来自分にも持ち合わせられていたであろう男性的な力強さには心惹かれはするがそこに恋愛的興味はなかった。
「し、失礼しますぅ!」
恥ずかしくなったアルマは慌てて逃げるようにその場を後にした。
アルマの褒め言葉を受けたその日の職人たちは普段にもまして仕事に励んだのであった。