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魔術師アルマの始まりの日

やっぱり、TSが好き

 その日、とある国のとある町にて学校の卒業式が執り行われていた。

 そこはメルクリウス魔術学校、その国唯一の国営の魔術師養成学校であり全国屈指の名門校でもある。

 入学も困難であれば卒業も困難を極め、入学して卒業までたどり着ける生徒は全体の半分にも満たないと言われるほどであった。


 「卒業生代表、アルマ・メディチ」

 「はい」


 教諭が生徒の名を読み上げると一人の少女が立ち上がり、壇上へと登った。

 彼女の名はアルマ。

 メルクリウス魔術学校の首席であり、精巧に作られた人形の如く整った可愛らしい顔立ちと入学以来主席を一度も譲らなかった魔術の才能を兼ね備え、学園の内外問わず『姫』と呼ばれている。


 「今日から君たちは国から認められた魔術師だ。その名誉に恥じない活躍を期待している」


 式を執り終えると、教諭は最後にそう残して卒業生に解散を言い渡した。

 魔術師の中にも身分があり、非公認魔術師と国営の魔術学校を卒業した国家公認魔術師とで区分される。

 国家公認魔術師は魔術師の中の二割にも満たないほどの狭き門であり、あらゆる魔術師たちの羨望の的である。

 アルマたち卒業生の左胸には国家公認魔術師たる勲章が日光を受けて七色に光り輝いていた。


 解散して教室を出たアルマを一人の女性が出迎えにやってきた。

 女性は真っ白な法衣を纏っており、その左胸には国家公認魔術師とは違う勲章が輝いている。


 「卒業おめでとうアルマくん。主席として壇上に立つ姿が実に様になっていたよ」


 女性はなれなれしい口ぶりでアルマに絡む。

 彼女の名はマリー・メディチ、錬金術師である。

 マリーはアルマの保護者にして魔術と錬金術の師匠でもあった。

 

 マリーの姿を見た他の生徒たちは血相を変えて距離を置いた。

 彼女にはとある不名誉な称号があったためである。


 「欠落の錬金術師だ。目を付けられたら大変だぞ」

 

 『欠落の錬金術師』それがマリーに付けられた称号である。

 彼女は非人道的な題材の研究や実験を繰り返しており、それが独り歩きして周囲の人物を畏怖させているのである。

 しかしそんなことはマリーにとってはどうでもいいことであった。


 「茶化さないでくださいよマスター。ボク恥ずかしかったんですから……」


 アルマは視線を斜め下に移すともじもじしながらそう答えた。

 アルマは恥ずかしがりな性格である。

 というのも彼女は心と身体がどこかずれたような感覚を抱えており、自分の女の子らしい面にコンプレックスを抱えていたためであった。


 「これで私にも国家公認魔術師の肩書を持った助手が付いたわけだ」

 「そんなに嬉しいですか?」

 「当然だとも。教え子から国家公認魔術師が出たとなれば喜びもするさ」


 マリーはアルマの卒業を祝福する。

 彼女は自分の教え子が国家公認魔術師になって鼻高々であった。

 

 「今日はお祝いだ。何が食べたい?」

 「うーん。そうですねぇ……」


 アルマは少しばかり嬉しくなった。

 マリーは錬金術師としては人格が破綻していると評されるほどの狂人だがアルマに対してはその限りではなく、まるで母親のような愛情をもって接していた。

 アルマはそんなマリーに対して彼女の称号など関係なく心を開いている。


 「アルマくん。私はねぇ……」

 「歩けなくなるまでお酒飲んじゃダメって言ったじゃないですかぁ」

 「いいじゃないかぁ。今日はお祝いなんだから……」


 その日の夜、マリーは酒場で管を巻いていた。

 主役であるはずのアルマは酒が飲めないため、完全に置いてけぼりにされていた。


 「ほら、帰りますよ」


 アルマはマリーを連れて酒場を後にした。


 「まったく、ボクのマスターは手がかかりますね……」


 自宅まで運び込み、マリーをベッドに寝かせたアルマはため息をついた。

 マリーの私生活はずぼらの極みである。

 アルマが声を掛けなければ食事もとらないしベッドにも入らない、一人で食事をさせると気づけば酒に浸っている。

 

 マリーを寝かしつけたアルマはとあるものが目についた。

 それはマリーのデスクの上に置かれた一冊の書物であった。

 重厚に装丁されたその書物にはタイトルが記されていない。

 アルマはその書物の内容に興味をそそられた。

 好奇心のままに書物を手に取り、ページをめくってその内容に目を通した。


 「日記……?」


 その書物にはマリーの日記が綴られていた。

 日付はまばらであり、毎日つけているわけではなさそうであった。

 記されている中で最も古い日時はアルマと出会うよりも前であった。


 「ボクと出会ったときのことも書いてあるのかな」


 アルマは日記を読み漁った。

 マリーが自分と出会ったとき、彼女が何を思っていたのかを知りたかったのである。


 『息絶えかけている少年を拾った。そのまま実験の道具にしようかと思ったが彼にはどうやら魔術の素養があるようだ。そのまま捨ておくには惜しいがどうやらワケアリのようだし、どうしたものか』


 『瀕死だった少年は私の実験によって女の子として息を吹き返した。これなら顔を知る者はいないだろう。名前も知らないこの子にアルマの名を与えよう』


 その内容にアルマは衝撃を受けた。

 マリーの日記の内容に偽りがなければ彼女は元々男だったということになる。

 だがそれはアルマは自分の中に抱えていた違和感の答えとしては納得のいくものであった。


 (ボクは何者……?)


 アルマは自分の正体が気になって仕方がなかった。 

 だがそれに関する記述は日記の中のどこにもない。

 どうやらマリーにとっては記録するに値しないことと判断されたようであった。


 自分がなぜ女の子になったのか、自分は何者なのか。

 アルマは自分の力でその答えを見つけ出すことにしたのであった。

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