【街の保安官】
黒い制服に制帽、日々に鍛えられた細身に見える男、ジョー。
ジョーは「幻想街」の保安官で、自分もこの街にいつの間にかいたと言う。
魔法で記憶を抜かれたのかもしれない、と。
「一部?」
「分からない・・・どこまでを全部と呼ぶのか、記憶の場合、自分には分からない」
それもそうだな。
もしかして、頭の横から光がすっと抜けていくような幻が見えたけど・・・
まさか、な。
魔法??
聞いたことはあるけど、信じがたい。
「この街では、常識を逸した存在がいるんだ」
「例えば?」
「オバケ・・・・・・ああ、すまない。街のなまりかもしれない。謎のことだ」
「この街にはどれくらいの人数が住んでいるですか?」
「分からない・・・すまない」
保安官なのに?
数がけっこういるのか・・・?
あやまられたからなんだか聞きにくい・・・
「親しいひととか、いますか?」
「かつていたような気がする。この街に来る前に・・・」
とりあえず儀礼としてあやまったほうがいいんだろうか?
「私は・・・三十年もここに住んでいたんですか?」
「ああ、そうだよ。私は三十五年くらいここにいる」
「失礼ですが、年齢をおうかがいしても?」
「四十四歳だ」
えっ・・・?三十五歳くらいに見える。
なんだ、このひと・・・ちょっと怖いな。
保安官の制服着てるだけのひとだったらイヤだなぁ。
さっきのマリアもバニーガールだったし。
マリアについてはなんの用事があってその格好で出歩いていたのか聞きそびれた・・・
とりあず犯人とおぼしき人影が落としたであろうハンカチを見せた。
「C.N ・・・?クロイド・二ローかな?」
「それは、何か関係が・・・?」
「うーん・・・あいつは変わり者で、なぜか街の行き来ができると言われている」
「は!?」
「おそらくは、なんだ・・・いくら聞いても知らんふりをされていた」
「なぜ過去形?」
「ある日突然、満月の夜にオオカミ男に変身したんだ!」
「・・・なんで?」
「おそらく魔法かのろいをかけられたんだ。ここらは新薬の開発に使われていたから」
「新薬・・・?まさか悪い葉っぱ?」
「違うんだ。人類の進化に関わるものだったらしいが、それで魔法が芽生えた」
何を言っているんだろう?
「魔法使いに妹は連れて行かれた、ってことですか?」
「相手はおそらくオオカミ男だ」
「現われる日とか居場所とか、分かりますか?」
「皆目見当もつかない。まぁ、オオカミ男と言えば満月の夜かな」
テキトーだなぁ。
街に三十五年いて、保安官してるんじゃないのか。
「あの~・・・とりあえず、事実確認とかって・・・」
「ああ、ここには警察署はない。探したいなら自分で探してくれ。皆に声をかけておくから。キーワードは『クロイド・二ロー』だ」
そのクロイド・二ローなる者の家に案内されて、用事があると言われて去られる。
薄暗いその家の棚にランプを見つけて、火を灯す。
あたりを見渡しても、雑多に物が散らかっている。
そのランプの下にあったメモを見る。
「りんご、ぶどう、チーズ、飛行機・・・もしかして買い物リストなのか・・・?」
だとしたら飛行機ってなんだ?
金持ちには見えないぞ、この家の様子・・・
おもちゃとかか?
とりあえず家の中からメモの記したものを探してみた。
三角に切り分けられた穴の開いたチーズには特に意味はなさそう。
りんご、ぶどう・・・
ああ、おもちゃの飛行機がある。
その横に・・・丸いチーズ。
ふとランプをかざしてみると、違和感がしたのでチーズをひっくり返してみた。
そこにはくり抜かれたあとと、中にメモ帳が入っている。
そのメモには、「私はクロイド・二ロー」と書いてあった。
街の中の無人家に、謎を解くキーワードを残しておいた、と。
自分は新薬の魔法によりオオカミ男になってしまった、とも書いてある。
この託した謎が解ける時、幻想街は開放されるだろう、と。
次に探すべきは白魔女の家。
「幻想街には、巻き込まれた者しかいない・・・?なんだ、この記憶??」