【プロローグ】
はじまりは私の記憶喪失からだった。
どうも釈然としないが、突然に美女が現われてこう告げた。
「いつまでそうしているつもりなの?妹さんを探さないと!」
私には妹がいて、この孤島に共に来た。
島全部くらいが各々の風変わりな建物で形成されているような気がしてならない。
ここは「夢島」と呼ばれ、その文明を「幻想街」と言うらしい。
用事をつかわされて訪れたはずだが、突然、会話中に妹がいなくなった。
隣を歩いているはずなのに、少し歩幅が会わなくなって視界からふと消えた。
悲鳴があがった。
振り向くと妹はいなくなっていて・・・
周りは濃い霧に覆われていて、この場を動いていいいのかどうかも分からない。
助けを呼ぼうにも、人気がない。
妹のミュイは異形の人影に連れて行かれた。
そして美女に「あなたはこの街に三十年も住んでいたのよ?」
と言われ、どうもそのような記憶がないことに気づいた。
確か私の年齢は二十五歳である。
いつの間にか五年が経っているのか?
それともおおざっぱに言われただけなんだろうか??
見覚えのない島に到着して、初めて踏み込む筈の街に三十年住んでいた?
「あの~・・・ひと間違いでは?」
「何を言っているの!?早く妹さんを探さないと!お手伝いをするわ!」
「あの~・・・なんでいなくなったのが妹だと知っているんですか?」
「・・・あなた、さっき妹がいなくなったとぼやいていたわよ?」
「あなたに?」
「それは分からないけれど。悲鳴が聞こえて、あなたは呆然としていた」
「ここに来たのは初めてだと思うのですが、人違いをされているのでは・・・?」
「私はこの街に来てまだ日が浅いけど、あなたは三十年住んでいたの。忘れたの?」
「妹がどこに連れ去られたのか、心当たりはありませんか?」
「うーん・・・そうね、探してもこの霧じゃあねぇ。犯人の顔を見なかったの?」
「はい。見えなかったんです」
そんな会話を美女としている間に、日が差してきて霧が輝きはじめた。
美女は「妹さんがどこにいるのか皆目見当もつかない」と言っていた。
「お名前をお聞きしても?」
「ええ。わたくし、マリアと言います。気軽に呼んでね」と言われる。
「・・・マリア、私の妹は誰にさらわれたんでしょうか?」
「そうねぇ。きっとオバケよ!」
「オバケ・・・?」
「幽霊やオオカミ男なんかが可能性としてあるわ」
なにを言っているんだろう?
たしかに人影は異形を思わせる尻尾があったけど・・・
オオカミ男・・・?
「神隠し、ってことですか?」
「うーん・・・その言葉は分かりにくいわ。街の保安官のもとに案内してあげる」
「あ、はい。あの、マリア・・・あなたのその格好はなに?」
「あら?なにかおかしいの?」
まだ街にマリアしか見当たらない。
このバニーガールの格好をした不思議な美女しか、頼れる存在がない。
とありあえずマリアが言うには、ここは魔法に満ちている、ということだった。
幸先が不安。
妹はさらわれる瞬間、「私を探して」と声をあげた。
・・・一体、どういうことだろう?
妹は何かあったら「私を探さないで」と言うんだと何故か思う。
妹は犯人と面識があったのだろうか??
何かに巻き込まれている・・・その確信が、妙な冷静を私に与えていた。
そして犯人とおぼしき異形な影のうちひとつが、ハンカチを落としていた。
マリアは「犯人はオバケ」だと言っていた。
つまり「幽霊」である、と・・・
私のイメージでは、幽霊やオバケやオオカミ男はハンカチを持っていない。
とりあえず、ハンカチの端にある刺繍イニシャルの「C、N」を頼りに、街を歩いた。