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悪戯は、夢見るままで。

「…やっぱり、あの凛音ちゃんだよね。」

「!?…お、覚えてるんですか…?」

「さっきも聞いたなそれ…。そりゃ、上手かったもん凛音ちゃん。」

「…あ、ありがとうございます…!」

「…ごめんね、泣かせちゃって。別に気付かないフリしてた訳じゃないんだけど…なんか言い出せなくて。」

「…いいんです。多分私も話しかけられたら緊張しちゃってたと思いますから…。」

「…俺、そろそろ戻るから。凛音ちゃんは?」

「あ、私も戻ります。」

「そっか、じゃあ一緒に戻ろうか。」


「先輩って彼女いるんですか!」

「それは内緒だね…。てかいなかったらどうするつもりなのさ。」

「そりゃ付き合いたいに決まってるじゃないですか!」

「あ〜はいはい、俺のタイプは年上だよ。あとまずは君が瀧宮に入ってからの話だなそれは…。」

「絶対入りますから!あと名前で呼んでください!三舩心那(みふねここな)です私の名前!」

「あ〜うん…俺記憶力ザコいからな…。」


「…すっごいモテてるね、夕透くん。」

「だねぇ…。って、澄夏…?」

「…えっ?あ、なんか言った…?」

「…すみすみ、夕透くんのこと見てたでしょ。」

「いやっ、そんなこと…。楓だって見てたんじゃないの。」

「見てません〜〜〜!!!」

「絶対嘘じゃんそれ…かえかえもすみすみもあの子にゾッコンだねぇ。」

「…う、うるさいっ。」

「あちょっと、どこ行くの?」


「…はぁ…。」

もう嫌だ。何が悲しくて彼がモテている姿を見続けなければいけないのか。いや、別に彼を見ている必要はないのだが…そんなの知らない。だって私は彼が好きなのだから。

「…デレデレしちゃって…ばか。」

彼も彼だ。あんなに近くで迫られて距離を取りもせず普通に話し続けていたではないか。やっぱり彼は女の子慣れしている。…嫌だ。視界の半分が滲んで(ぼや)ける。瞼から滲みが離れて、初めて自分が泣いていると自覚した。指で掻き消しても止まらない。もう泣かないと決めたはずなのに。

「…ぐすっ。」

彼への恋心が何故か否定された気になって顔を伏せる。屋上前の扉なんか誰も来ないだろう。昼休憩の間は1人で項垂(うなだ)れていよう。

「…ばか、夕透くんのばか。」

私はこんなに一途に彼のことを思い続けているのに…あまり彼は私に興味を示してくれない。そりゃ、私の勝手な片想いなのだから当然ではあるのだが…私があんなに勇気を振り絞ってした告白が、あの子の軽薄な『好き』で掻き消されてしまうような気がして。

…碧の言った事は何一つ間違っていない。初めて彼を見た日からずっと彼を目で追っている。いや、追わずにはいられない。真剣な顔も、優しく笑う顔も、焦って少し慌てた顔も…あの時、自分だけに見せた泣き顔も。

嬉しかったのだ。私に全てを委ねてくれて。私に全てを見せてくれて。

そんな少しの自慢がなくなってしまった気がして。

「………。」

止まらない悲しみを袖で拭う。多分今の私はひどい顔をしているだろう。…こんな顔じゃ、彼には会えない。

あと昼休みは30分ほどある。食欲もないし幸い誰も来ないような場所だ。仮眠でも取ろう。目元の腫れが少しでも引けば良いが…。

壁にもたれかかって目を閉じる。目の縁に溜まっていた涙が零れ落ち頬を伝う。

熱くなった目元に意識を向けながら、ゆっくりと夢に落ちていった。


「どこ行ったんだほんとに…。」

澄夏先輩が休憩終わりになっても帰ってこない。もうすでに20分経っているが、部室にも楽器庫にもいない。電話しても反応がなく、とても困っている。職員室にもいないし残るは三階だけだ。


…夢でなら彼と結ばれるのだろうか。だったら、夢なんて覚めないほうがいい。覚めなくていい。

十年でも、百年でも。彼といられるなら、このままがいい。ずっと私の側にいてほしい。ずっと…。


…い、……さい、せ……ください……。


「先輩!起きて下さい!」

「…はぇ…あ、え、夕…透、くん?」

「こんなとこで何してるんですか、お昼寝なら部室でも良かったでしょうに…。って、あれ、先輩…?」

「…あ、だっ、だめ、見ないで…!」

「先輩?何で顔隠すんですか、ちゃんと俺の顔見て下さい。ほら、手どけて…。」

「だめ、今はだめなの、ちょ、夕透くん…っ。」

どさっ

「…は、あぅ、ゆ、夕透くん、手離してよ、じゃないと…っ…。」

「…あの、先輩。」

「な、なに…?」

「…何で泣いてたんですか…?」

お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、夏目漱石の『夢十夜』のオマージュをちょびっと入れてます。

好きなんですよ…タイトルも構成も終わり方も洗練されていて…初読から十年ほど経ちますが、ずっとお気に入りな一冊です。

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