悪戯は、巡り会う。
久しぶりに土曜日の部活がない。故に本屋にでも行って何か見繕おうかと思っていたのだが…。
「………。」
電車がもの凄い満員である。どうやら今日都市部でイベントがあるらしい。そういうものには疎いので知って納得した。いや、この際満員なのは割り切るより他ないので諦めが付くが…。
「………。」
自分に前に立っている女の子…恐らく中学生ぐらい、そんな子が自分の胸に顔を埋めている。満員電車で物理的距離が近いとはいえ…少し不自然な接触だと感じる。力なく自分の袖を掴んだ右手がブルブルと震えている。乗り物酔いの類か何かか…聞こうとしたがこんなに切羽詰まっていそうな女の子に声を出させるのは酷だろう…そう思い何も口にしないまま、一駅、二駅と電車は走る。
…五駅目を過ぎた。都市部も抜け、車内は空いてきた。
「……。」
…なのに彼女は断固として離れようとしない。流石に周りに人が居なくなると自分が浮いてしまうので…声を掛けることにした。
「…え、えっと…大丈夫…かな、?」
「…!(びくんっ)」
「あ、ごめん、怖がらせるつもりはなくて…」
「……。」
「その…体調悪かったりする…?」
「…(ぶるぶる)」
「そっか、えっと…離れるのは…無理そう…?」
「………(ぎゅっ)」
どうやら離れる気はないらしい。とても困る。
「……でも俺、あと二駅で降りるんだけど…。」
「……わっ、わたしも…」
「え?なんて言った…?」
「…わ、私も…そこで…」
「それは…たまたま?」
「…(こくんっ)」
「…そっか…でも、そろそろ離れてくれないと…」
「…!(ぶんぶん)」
「…いや、乗り過ごしちゃうじゃん…このまま電車降りるのは無理だよ。」
「…。」
「…じゃあ、お顔見せてくれたらまだ離れなくていいから。どうする?」
「……!?」
「…じゃあ、抱き着くのは辞めるってことでいいかな…?」
「…!(ぶんぶん)」
「…じゃあ…お顔、上げて…?」
「…(ぶるぶる)…」
流石にお顔を見せるのは恥ずかしい様だ。それはそうか。初対面の人にいきなり顔を近くで見られるなんて…いや、今俺は抱き着かれてるんだった 。
「……(ごそっ)」
「……あ、え、?」
「……///」
「…っと、遠野さん…?」
「…(ぶるぶる)」
「…なんかありました…?」
「…(ぎゅーーーっ)」
…何も情報が増えない、増えるのは抱き締める強さだけ。
「ちょ、遠野さん、もう降りなきゃ…!」
「……ごめんなさい、騙すような真似して…。」
「あぁいや…別にそれは良いんですけど…理由が気になって。良かったら教えて欲しいなって。」
「…私…電車で痴漢された事があるんです。」