悪戯は、言うに及ばず。
「…え、夕透くん…?凄い隈だけど大丈夫…?」
「澄夏先輩…おはようございます。ちょっと昨晩寝付けなくて…一睡も出来ないまま夜が明けちゃって。でも別に疲れてるとかそういうんじゃないんで気にしないでください。」
「…なんかあったの…?」
「いや、まじでそういうのじゃないんで。大丈夫ですよ。」
「…私のせい…?」
「…え?」
「…私がいっぱい夕透くんを困らせちゃうから…?」
「え、そんな事ないですって!困っては…いるかもしれないですけど、それで寝不足って訳じゃないんで!」
「…ほんとに…?嘘じゃない…?」
「…いや、ほんとです…え、なんで泣いて…!?」
「…私、昨日の夜後悔したの。私の好意のせいで夕透くんに苦しい思いさせちゃってるなって。ずっと無理やり夕透くんに自分のしたいことしちゃって…ごめんね、ほんと。」
「…大丈夫ですって。澄夏先輩が気に病むことは無いです。これからもよろしくお願いします。」
「おっはよ〜!!みんな揃ってるかな〜…?」
「プーーーーーッ(…なんか視線が…。)」
「プー…(ぎゅーってしたい…でも迷惑になっちゃう…でも他に誰もいないし…いや昨晩もうやらないって誓ったから…うぅぅ…)」
「…プッ…あ、あの…澄夏先輩?体調悪かったりします?」
「いや、そう言う訳じゃないんだけど…。その…。」
「…やっぱり、ぎゅーしたくて…。」
「え、またですか…?」
「…ダメって分かってるの。教室で堂々とハグなんてするべきじゃないしそもそも私と夕透くんはそういう関係でもない。分かってる、分かってるけど…大好きだから…。」
「はぁ…はぁ……ちょ、ちょっと夕透くん…?一旦こっち見ないで欲しい…。」
「え、は、はい。」
「……見てない…?」
「…反対向いてます。」
「…はぁ…はぁ…」
ついに彼に見られるだけでドキドキしてしまうようになった。これはもう重症なのでは…?
「…ゆ、夕透くん…。こっち…来て…?」
「え、えと…何をするつもりで…?」
「い、良いから…。」
「………。」
「…夕透くん、私気付いた気がする…。何で私がこんなに夕透くんに執着しちゃうのか…。」
「…まだ…夕透くんからはぎゅーしてくれてないから…だと思うんだ。」
「…えっと、前にハグはした気がするんですけど…。」
「…ごめん、言葉足らずだった。」
「…夕透くんから…だけ…。」
「…それは…その…。」
「お願い…これでダメだったら…もう…夕透くんには近付かないから…。」
「…澄夏先輩…。」
「だ、ダメっ…名前呼ばないで…。」
「…でも…。」
「今はダメなの…!!…じゃないと、また…。」
「ね、ねぇ、早く…夕透くん…。」
「…澄夏先輩。」
「んぅ、だっ、ダメだってば…。」
「澄夏先輩。」
「…な、何…?」
「…俺が思うに、澄夏先輩は…ぎゅーしすぎです。俺と。だから癖になって辞められなくなるんだと思います。」
「そっ!?そんなこと…ない…もん…。」
「あります。ここ一週間で何回もしてるじゃないですか。ダメですよ、俺らは恋仲でもないので尚更です。」
「…夕透くんは嫌いなの…?私のこと…。」
「そう言うことじゃないです。でもハグはダメです。」
「で、でも…。」
「…極端な話しますけど、俺と楓先輩がハグしてたらどう思います?」
「えっ…し、たの…?」
「…してませんけど、例え話です。」
「…や、やだ。楓には渡さないもん…私の方が先に好きになったんだもん…。」
「…ですよね、嫌…ですよね?」
「それは…自分で言うのもなんですけど、楓先輩達も同じです。」
「…うん。」
「だからその…何と言うか…もうちょっと…。」
「…我慢しましょう。」
「…頑張るけど…我慢できなかったら…。」
「…まぁ、適当な罰でも与えますよ。」
「え、えぇ…わ、分かった…。」
「はい。…じゃあ、僕は練習上がるんで。お疲れ様でした。」
「あ、ちょ、っと待って…!」
「はい?」
「…好きだからね…?ちゃんと…忘れないで…。」