悪戯は、想いを通わす。
気付けば、先輩の事を目で追っていた。
それが興味なのか、憧れなのか、はたまた…好意なのか。
そんなことを考える間もなく、中学生になった。
先輩がホルンを辞めて、音楽の道から遠ざかったのはとても残念だった。
でも、練習を隣で見てくれる時間が増え…結果的には、良かったのかもしれない。
…そんな日々が続く内に、この気持ちが好意だと気付いた。
先輩から目が離れないのも、スマホの壁紙を内緒で先輩の写真にしているのも、先輩が女の子と話していると胸がざわつくのも…1人寂しい時、先輩の事を思い抱き枕を抱きしめて、頬を濡らしながら寝られない夜があったのも。
全部、全部…先輩のことが好きだからだ。
何度も、何度も告白しようと考えた。でも…今の先輩との心地いい関係が無くなってしまうかもしれない恐怖に勝つことができず、結局言えなかった。
卒業式の日、先輩と話す機会があった。言いたかった。伝えたかった。でも…これからの先輩の高校生活に、私という余計な心配要素を入れたくない。でも、でも…この気持ちを…。
「…うし、じゃあそろそろ帰るわ。ありがとなこんな時間まで。吹奏頑張れよ。」
「…あっ……せ、先輩……。(ぎゅっ)」
「…千歳?どうした袖なんか掴んで…?」
「……///……んぱい……き、です…。」
「…んぇ?何て?」
「……卒業おめでとうございます、先輩。」
「…おう。」
家に帰ってから、何度も泣いた。
先輩のことでは、もう泣かないと決めていたのに。
きちんと伝えて、気持ちよくこの片思いを終えるはずだったのに。
「…先輩…っ……好き…好き…好き…っ!!!」
あの時喉から出切らなかった言葉が、心の底から溢れ出してくる。
好きだ。そう言って仕舞えば済む話だったのに。
振られたとしても…受け止めるつもりだったのに。
時間なんて有り余るほどあったのに。
…本気で、好きだったのに。
何度も思い出して、何度も枕を濡らした。
先輩の事を思い出すたび、身体の中から熱が出て、収まらなかった。
「…先輩…。」
…もう2ヶ月が経とうとしている。こんなにぐずぐずと未練を引きずっていてはいけない。
そうして、私は初恋を心の中に、奥深くにしまい、二度と思い出さないよう誓った。
…はずだったのに。
まさか友達の行くオープンスクールが、先輩の高校だなんて。
…しかも…私のことは、嫌いじゃなかっただなんて。
そんなこと言われたらもう…。
「…ばかぁ…っ…。」
先輩はずるい。こんなに後輩が自分のことで思い煩っているのに。
そんなことに気付く素振りもなく、しかもあんな勘違いさせるような一言まで。
「……先輩………。」
あの時言えなかった言葉が、今なら…今の私なら、言える気がした。