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悪戯は、紛うこと無く。

「こんにちは、今日はよろし…え…?」

「…えへへ、お久しぶりです。先輩。」

「…いや、なんで千歳がここに…?」

「さっき凛音って子来たでしょ?あの子転校生でさ、あの子も吹奏入ってるから付いてきちゃった。えへ。」

「…まぁ良いけどさ、ここはトランペットの体験場所じゃないぞ。」

「そんなん知ってますよ…もう、先輩のそういうところほんと変わんないんだから。」

「…ねぇ先輩、一個聞きたい事があるんですけど…いいです?」

「…何?」


「…私のこと…嫌ってますか?」


「…別に、そんな事はないけどさ。」

「嘘だ、目が泳いでるもん。」

「なんか今日コンタクトの調子悪いなぁ〜…。」

「…はぐらかさないでください、先輩。」

「…さっき答えたろ、そんな事ないって。それ以上もそれ以下も無いよ。」

「…なんで…何で…私を恨まないんですか…?」

「……逆に聞くけどさ、何で千歳は誰にも頼んないの?」

「………。」

「…お前も気付いてたんだろ、あれはお前のミスじゃ無いって。ただ、言い出せなかっただけだ。知ってるよ、そんくらい。」

「でも、大半は私のせいで」

「ここはさ、楽器を演奏する場所なわけ。雑談ならいつでも乗ってやるから。吹く?吹かない?」

「…凛音と合流します。」

「…はいよ……あのさ。」

「…なんですか。」

「…もう気に病まなくて良いから。お前が謝る必要なんてない。わざわざ謝りに来なくていい。」


「…お前が一番辛かったのは、分かってるから…俺は。」

「…先輩のばか、そういうこと言うからみんな…先輩のことが…」

「鬱陶しいとでも言いたいのか?」

「…ふふっ、先輩が先輩のままで安心しました。」

「…あっそう。…ドアの向こうで暇そうにしてっからそろそろ行ってあげな。」

「はい。…あの、先輩。」

「ん?」

「…私、また先輩とオーケストラ…やりたいです。」

「…ベンディング、綺麗にできるようになったらな。」

「!?…望むところです。」

「ん。それでこそお前だよ。」

「…覚えてるんですね、私がベンディング下手くそなの。」

「そりゃ〜…お前のことは、割と嫌いじゃなかったからな。」

「…ふぇっ…?」


「…あ、千歳、おかえ…え、どしたの…?」

「………///………なんでもない。」

「…そう?じゃあ帰ろっか。」

「…うん。」


…まさか、こんな所で千歳と再開するなんて思ってなかった。

瀬良千歳(せらちとせ)。小学生の時、同じ管弦楽団に所属していた一個下の後輩。俺と同じ中学校に進学してきてくれたが…あの一件以来、俺はホルンを辞めてしまっていたので関わりはなくなる…はずだったのだが。

「先輩!自主練付き合って下さい!」

「…お前なぁ、俺が隣で座ってるだけの自主練、何が面白いんだよ?」

「良いじゃないですかぁ〜…先輩が隣にいると頑張れるんです!だから…ね?」

と何回も押しかけてきては同伴をせがまれたものだ。


…話は遡り、小学6年生の頃。

金賞を取れば全国大会に進めるというコンクールで…事件が起きた。

「お、お前…!その指どうしたんだよ!」

「ドアで挟んじゃって…ごめんなさい。」

千歳の指は真っ赤に腫れ上がり、一部は紫色に変色していた。

「…な、何があったんだよ。」

「ど、ドアに挟んじゃって…ごめんなさい、私…!!!」

「…あ〜もう、泣かなくて良いから、とりあえず運営さんに連絡だ。」

…しかし、その時自分はある違和感を覚えていた。


「…ごめんなさい、私のせいで…。」

「ったく…自分の体ぐらい自分で管理しろとあれほど…!」

「…先生、ちょっと良いですか。」

「…あぁ、結宮…どうした?」

「その瀬良の怪我、瀬良のせいじゃないです。」

「…ん?どういうことだ?」

「…おかしいと思ったんです。瀬良が指を挟むなんてらしくない。そう思いません?」

「…まぁ、珍しいとは思うが、現に怪我してるんだし…」

「…なぁ、瀬良。」

「…?」

「正直に答えてくれ。…お前、誰かにわざと指を挟まれただろ?」

「…!?そ、そんな事ない!これは本当に私が…!」

「…本当だな?瀬良。」

「………………。」

「…はぁ、何でこんなになるまで助けを求めないんだか…先生、瀬良の指を挟んだのは多分同パートの木下達です。話聞いてきてくれませんか?」

「わ、分かった。」

「…なぁ、瀬良。」

「………。」

「…お前の脳内にはさ、『頼る』の2文字はないわけ?」

「…ごめんなさい。」

「お前が謝る必要なんて一切ない。謝るな。」

結果、同パート内で千歳の才能に嫉妬したメンバーがわざと千歳の指をドアに挟むように閉じたらしい。

その件以来、なぜか千歳は俺に執着するようになった。

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