悪戯は、隔絶を望む。
「てなわけで、近々オープンスクールがあるからウチは今やってる課題曲を何曲か演奏しようと思うので練習よろしくね!あと体育館で演奏した後に部活動体験があるから…そうだな…2年生と各パートの経験者の一年生は中学生達に指導、その他の一年生は顧問の先生方と誘導や受付、勧誘をお願いしまーす…えーっと、ホルンは…結宮君だけかな、トランペットは木浦ちゃんと永山ちゃん、クラリネットは楠戸ちゃんと中川君、フルートは遠野ちゃん、パーカッションとトロンボーンとオーボエその他諸々は経験者いないから2年生にやり方は一任しまーす、一年生のいるパートはどういうふうに進めていくかきちんと共有よろしくね、それじゃ解散!」
「んじゃホルンパートは息の吹き方から始めてレバーとベルのやり方教えていく感じで行こうかな、軽ーく名称説明もよろしくね。」
「名塩先輩、経験者が来た場合はどうすればいいですか?」
「あー確かに…その場合はちょこちょこ様子見つつ他の人の指導に当たってくれたらいいよ。」
「了解です。」
「吹奏楽部見学はこちらでーす!!!」
深凉さんも割と大声で頑張っている。普段の立ち居振る舞いからは考えられないワイルドさだ。
「あ、あの…楽器体験してもいいですか…?」
「もちろん!えーっと…どの楽器がいいとかある?」
「えっと…あの男の子の楽器が…」
「ホルンね!夕透君、今手空いてる?」
「あはい、いけますよ。」
「じゃああの男の子の所行ってね!」
「こんにちは、1年2組の結宮って言います、よろしくね。」
「よ、よろしくお願いします、佐月凛音です。」
「凛音ちゃんね、よろしく。凛音ちゃんは経験者?」
「い、一応トランペットを…」
「あ、そうなんだ!でもトランペット今空いてるよ?トランペットにする?」
「だっ、大丈夫です!」
「そ、そう?なら良いけど…じゃ、早速教えていくね。まずここがレバー、ここがベルで主にここの二つを使って…」
「うん、なかなか良い音出てるね、やっぱ金管やってるだけあるね!」
「あ、ありがとうございます…」
「凛音ちゃん、緊張してる?」
「…めちゃくちゃしてますよ、そりゃ…」
「あ、そうなの…?別にリラックスしてくれたら良いんだけど…」
「む、無理ですよ…憧れの人が前にいるのに…」
「あ、憧れ…って、俺に…?」
「…去年の瀧宮杯、見に行きました。…凄かったです、とても。」
「あ、ありがとう…?嬉しいよ。」
「…正直、ここのオープンスクール来たのも…結宮さんがここに入学したって聞いて…一目見ようと…」
「そうなんだ…?ありがとう。」
「…私、もっと結宮さんと仲良くなりたいです…」
「あー…なら、連絡先交換する?」
「えっ、良いんですか…!?」
「まぁ、俺のなんかでよかったらもちろん…はい。」
「あ、ありがとうございます…!!」
「返せる時間は限られてるかもしれないけど、見た時は返信するからさ。」
「…ありがとうございます…っ!」
「あとまぁ…」
「…?」
「この高校入れば…いや、うちの部入れば…もっと仲良くなれるかも…ね?」
「…!…は、はい…。」
「じゃあ指導は一応ここまでかな、なんか質問とかある?部活以外のことでも良いよ。」
「…お願いがあります…。」
「ん?何?」
「私、佐月凛音です。」
「…うん、さっき聞いたけど…?」
「…覚えてて下さい、来年まで…私が、ここに入部するまで…。」
「…もちろん。凛音ちゃんの入部、待ってるよ。」
「どうだった?初指導は。」
「未橋先輩、お疲れ様です。そうですね…まぁ、言っても知り合いだったので気は楽でした。」
「あ、あの子知り合いだったの?」
「いや、こっちが勝手に認識してるだけかもしれないですけど…小学生の頃に、一個下の代で同じ地区で割と良い音出してたトランペットの子がいたんですよ。それが確か佐月とか言う名字だった気もするんですけど…ま、真相は闇の中ってやつですね。でもやっぱ人に教えるのって難しいですね、やってみて初めて痛感しました。」
「別楽器にまで精通してるんだね夕透くんは…すごいなぁほんと。」
「いやいや、あくまで音を聞いてるだけなんで…」
「でーも!…連絡先交換はちょっと見過ごせないなぁ〜…?」
「あ、校則とか的にダメでした…?」
「…そう言うわけじゃなくてさ。」
「あんなに才色兼備な子が、夕透くんと連絡先交換してもっと親密になるって考えたら…ちょっと、やだ。」
「別に、それ以上もそれ以下もないですけど…」
「…ん〜…!!関係な〜い!連絡先交換がダメなの!…やだ…。」
「別に、未橋先輩とも交換してますけど…」
「…私は、夕透くんのことが好きだもん。あの女の子はどうかもわかんないのに…受け入れちゃうの?あの子のこと…。」
「…受け入れるも何も…まだほぼ会話してませんし…杞憂だと思いますけど…。」
「…夕透くんさ、自分が人気な自覚ないでしょ。」
「人気って…未橋先輩の方が高いと思いますよ…?」
「いや、慕われてるとかそう言う人気じゃなくて…あ〜もう…!何でわかんないかなぁ…。」
「…ダメだよ、誰にでもそんなに優しくしたら。…勘違いしちゃうじゃん。」
「…それは、どういう…。」
「…優しくされたら惚れやすいんだから女の子は。…夕透くんを前にしたりしたら尚更だよ。一回気があるのかもって思ったら…すぐ話しかけてくるよ。」
「…なんかすみません。」
「ごめん、私も付き合ってすらないのに彼女面しちゃった。」
「いや、多分未橋先輩の方が正論なんで…」
「…じゃあさ、教えてあげた代わりに言うこと聞いてくれる?」
「まぁ、僕にできるものなら。」
「…私の下の名前、知ってる?」
「澄夏…ですよね?」
「…///…うん、合ってる。」
「…それがどうしたんですか?」
「…未橋先輩って呼ばれるの、ちょっとモヤってする…からさ、」
「澄夏先輩…って、呼んで?」
「それはちょっと…なんと言いますか…」
「…………呼んで…?」
「…でも、急にどうして…?」
「深凉ちゃんもさっきの体験の子も下の名前で呼ぶのに、私だけ名字じゃん。…なんかヤダな。」
「…………澄夏先輩。」
「…!?……え、えへへ…嬉しいな…。」
「夕透くーん、今行けそう?」
「あ、はい!じゃあ未h...澄夏先輩、また後で。」
「…うんっ。」