悪戯は、意を自覚する。
...今まで、かっこいいなとか、イケメンだなとか。
そう思う男子は普通に居た。小学生の時も、中学生の時も。でも話した時に、心臓が跳ねる経験は無かった。どれだけ親しくなろうと、そこに「恋」は感じなかった。
...でも、あいつだけは違う。気が付けばあいつを求め、探して、会おうとしている。話し掛けられたらドギマギしてしまうし、視界に入ると無意識に前髪を直してしまう。少しでも可愛く見られようとしてしまう。
昔から、容姿を褒められる事が多々あった。可愛いだとか、美人だとか。素直に嬉しいし、自分でも少し思うところはあった。でもだからこそ、全員自分の外面しか見ていない気がしてどうにも深く関わることが出来なかった。でもあいつは私の心の中まで気にしてくれる。内面も考慮した上で、いつでも配慮を欠かさず接してくれる。
「...ばかっ、別にそんなわけじゃ...。」
あいつの事を好きかと聞かれて、そう答えた事があった。
...本当に、そうなのだろうか。あれだけドキドキして、ドキドキさせられて、一緒にいると楽しくて。少し意地悪な所でさえ、無気力な所でさえ、愛おしくて。そんな彼を私は...私は...
「...............。」
......認めたくない。万が一そうだとして、それから私はどうあいつと接したらいいのか。気持ちに気付いて、認めてしまえば...前みたいには接することは出来ない。そうなれば今までの彼は変わってしまうのではないか。彼から見た私ももちろん変わる。今の関係が壊れるのは...嫌だ。
...でも、未橋先輩と一緒にいるのを見て、私は嫉妬した。独占欲が湧いた。先輩に対して黒い感情も抱いた。そんなの、もう...
...恋と言わずして、何と言うのか。
「...私、好きなんだ...あいつの事。」
掴み所のなく、飄々としていて、物事をすぐ煙に巻こうとする。本心に迫らせようとせず、いつもはぐらかし、どれだけ揶揄っても見向きもしないあいつの事が...好きだ。好きだ。大好きだ。今までなぜ認めなかったのか。認めてしまえば良かったのだ。私は夕透君の事が好きだと、言えば良かったのだ。
「...好き...。」
改めて口に出し、その言葉を噛み締める。
私、水都深涼は、結宮夕透の事が、好き。
「...............///」
分かってはいたが、改めて意識するともの恥ずかしい。でも...
「...えへへ...。」
長い間心の中にあった大きな塊が無くなり、スッキリした。ただ、問題はここからだ。
きっとあいつの事を好きな人は沢山いる。
未橋先輩を初め、名塩先輩、途月先輩は...どうなのだろう。あと...碧羽と依澄は...多分、惚れている。
敵はかなり多いようだ。でも...誰にもあいつを渡すつもりはない。
私は...誰よりも...あいつの事が好きなのだから。