悪戯は、羞恥に耐えかねる。
「はわ、わ、な、なんで…?」
「晩御飯の材料切らしててさ。食材買うついでに服も買おうかなと思ってこの店来たら遠野さんがいたから。」
「…そ、そっか…。」
「ていうかその服めちゃくちゃ似合ってるじゃん!」
「えっ…?」
「いい意味で遠野さんらしくない服で結構新鮮だな、それ何用に買うつもりなの?」
「……ひ、秘密…。」
「え、秘密…?」
「秘密なの…!い、行くよ茜音!!」
「えぁ、ちょっ…!!」
「…えぇ…?」
「ちょ、ちょっと千春…!なんでそんな急に…」
「…や、やっちゃったぁ…!!!」
「…はぁ。」
「ねぇねぇどうしよう茜音ぇぇ…!!!」
「いやどうするも何も…今のは100千春が悪いでしょ…」
「だ、だって…『君とデートに行く時用!』なんて口が裂けても言えないもん…!!」
「別にお出かけの時に着るとか言えばよかったじゃんか…まったく。」
「うぅ…絶対嫌われちゃったよぉ…はぁ…。」
「なんかやっちゃったかなぁ…。」
何故か大慌てで逃げられてしまった。そんなに印象悪く映ってしまっただろうか。でもこの間一緒に遊びに行ったのに。一瞬の贋だとでもいうのか…まぁ、様子見するしかないか。
パッパと服選びを終わらせ帰途を辿った。
「はぁ…っ。」
彼からのお誘いを断って家に帰ってからも、心は曇ったままだった。別に未橋先輩の隣は嫌だとかそういうわけではない。本当にいい先輩だし、毎日部活に休まず来ているし、副部長の仕事もきちんとやっているし、部では彼に続いて2番目にホルンが上手いと言われている。
…正直、お似合いだと思ってしまった。たった一年先に生まれただけの人が、どうにも大人っぽく見えて仕方がない。それは名塩先輩も途月先輩も然りだが、多分一番彼と仲がいいのは…未橋先輩だろう。あの二人でさえ未橋先輩には負けるのに、私には何が…。
「…うぅ〜……。」
布団の上で抱き枕に抱き付いてうじうじしていた。お似合いだと思ったとは言え、嫌なものは嫌なのだ。でも態度には出したくない。彼に嫌われたくなんかない。
…やっぱり、私は嫉妬しやすいし重い女だと思う。俗にいうメンヘラというやつだろう。そこまで拗らせているわけではないが、彼に依存しているのは間違いない。彼が好きなものは好きになりたいし、彼が興味を持っているものは私ももっと知りたい。最近、そう思ってしまうようになった。いつの間にか、彼が私の中でとても大きな存在になっていた。心にぽかんと空いた穴。開けたのも彼だが…埋められるのも彼しかいない。彼に似た熱を帯びた抱き枕に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
━━━━━━これが彼だったら…そう考えてしまったが最後、心の中の嫉妬と妙な胸騒ぎは止めることができなかった。
「…はぁ……。」
今すぐにでも、彼を私だけの彼にしたい。彼のいろんな表情を、私だけが独占したい。いつもの顔、澄まして考え事をしている顔、距離を詰められて少し驚いている顔、くしゃっと笑う顔…......いつもは見せない、少し寂しそうな窶れ顔。
「......。」
...前から、1つ自分に対しての疑問があった。