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悪戯は、卑しくも幼馴染みで。

「あ、そうそう!そこからこれを引けば答えが出るんじゃないかな!」

「なるほど…お姉ちゃんおしえるのじょうず!」

「えへへ、ありがとう。」

私、矢掛釉暖は地元の小学生に勉強を教えていた。

近所のボランティアというもので、隔週土曜日に児童保育の子達を対象にしたものだ。もちろん20人程を相手に自分1人で教えられる訳もないので、彼も一緒に。

「おぉ〜…あ、そこ反対だね。そうそう、やれば出来るじゃ〜ん!」

結宮夕透。保育園からの幼馴染みでいわば腐れ縁と言うやつだ。高校は離れ離れになってしまったが家自体は歩いて3分ぐらいなのでそんなに隔絶感はない。

今日だって彼は本当はボランティアに行くつもりはなかったが私がどうしてもと頼むと何だかんだ毎回付き合ってくれる。そんな所が優しくて憎い男なのだ。私の気持ちは報われることはないだろうけど…


…そう、私は中学生の頃に彼に告白した。彼とは1番仲がいい自信があったし、周りからもそう言われていた。それが好きに繋がると言う訳では無いが、心のどこかでは彼が受け止めてくれる…そんな気持ちだった。私のどんなお願い(命令)でも受け入れてくれたから…そう思っていた。


「…ごめん。釉暖とは…付き合えない。」


何日間学校を休んだだろうか。何日間泣き続けただろうか。何日間…何年間…彼を思い続けていただろうか。

今でこそ笑って話せる間柄になったが、フラれた直後は彼のことを分かりやすく避けていた。次第に話さなくなり、関わりは完全に途絶えようとしていた。そんな時、彼が家に来た。


「なぁ釉暖…もう1回、俺と仲良くして欲しい。」

「…えっ…?」

「フったのは…ごめん、釉暖も気まずいだろうし俺も気まずいよ。でも釉暖と話せなくなるのは…寂しいよ。」

私は彼のこういう所が大嫌いで…大好きなのだ。

「…で、でも…もう前みたいには話せないかも…だよ…?」

「全然気にしないでくれ。少しでもいいから話したいんだ。」

「…でも…。」

「…じゃあ分かった。」


「これは俺からのお願い(命令)だ。」


「っ……もう、ばか…。」

まだ彼への恋心は消えていない。消えるはずがない。

当の本人はどこ吹く風。再び話せるようになってから彼に想いは伝えていないから当たり前ではあるのだが…全く意識もされていないみたいで少ししょぼくれてしまう。我ながらお顔立ちは整っている方だと思うし…オシャレも頑張っている。その…割と、大きい方だし…彼が女の子をそういう目で見ることは絶対ないとは分かっているが…どうにか意識させたいまま3年間が過ぎた。

「じゃあ今日はここまで!2人ともありがとうねいつも…!」

「いえいえ。またよろしくお願いしますね。」


「ふぁ〜…今日もご飯食べて帰るか?」

「え、あ、うん、食べて帰ろうかな。」

「うい。どこにする?」

「ん〜…あ、駅前の定食屋さん行こうよ!気になってたんだあそこ!」

「よし、じゃあそこにしよう。」

「うん!」


「えっと…唐揚げ定食のAセットで。」

「私は…う〜ん…生姜焼き定食のBセットで!」

「了解しました。」

「唐揚げと迷ったんだよね〜…ねぇねぇ、1個ちょうだい?」

「ん。いいよ。」

「えへへ…ありがとう。」


「いただきます!あむっ…あ、はふっ…!!!」

「焦って食べるからだろ…はい水。」

「んっ…ぷはぁっ…ありがとう…。」

「あ、はい唐揚げ。」

「ありがと〜う…!!ふ〜…ふ〜…かぷっ。」

「美味しい?」

「うん!中までジューシーで幸せ…。」

「なら良かったよ。あむっ。」


「ごくっ…ごくっ…ぷはぁっ…!そろそろ行く?」

「お前…口元にタレ付いてる。」

「えっ!?ちょ、そういうのは早く言っ」

ふきふき

「よし。んじゃ行くか。」

「あっ、う、ん…。」

「美味かったなぁ〜…俺の唐揚げと比べても遜色ない…」

「そういうこと言わないの。(ぽかっ)」

「いたっ、すぐに手を出す女はモテないぞ〜…」

「…う、うるさいもん…。」

「てか高校いい人居ないのか?」

「…いない。」

「いや、イケメンの1人や2人ぐらい居るだろ…。」

「…けじゃないもん…。」

「ん?なんて?」

「…い、イケメンなら…誰でもいい訳じゃ…ないもん。」

「……珍しいな、釉暖がそんなこと言うなんて。いっつもイケメンに飢えてるのに。」

「…そんなことないもん。」

「…どした?何かあったか?」

「……べつに。なんでもない。」

「はぁ〜…昔からさ、もうちょっとお前は正直に」

「じゃ、じゃあっ……!」


「…正直に言ったら…私の気持ちに…応えてくれるの…?」


「…っていうのは…どういう?」

「…ほんとばか、ばか、夕透のばか…ばか。」

「…分からないもんは分かんないよ。俺は全知全能じゃないんだ。」

「…分かんないんだ、ほんとに。」

「そんな圧かけたって…。」

「…こんなこと言わせんな、ばか…。」

「……ごめん。」

「…何が悪いのか分かってるの…?」

「…釉暖の気持ちが分からないこと…。」

「…ちっとも分かってないじゃん。ばか。」

「…じゃあ何なんだよ。」

「…ずっと前から思ってたけど…。」


「…フるなら…もう…優しくしないでよ。」

「……え?」

「…あんたにフラれた時、もう二度と話さなくなる、話せなくなるって思った。だって…そうでしょ?普通。」

「……それは…まだお前と友達のままが良くて」

「夕透がそうでもっ…!!…私は…違うもん…。」

「…………。」

「…あんな対応されて…ちゃんとフレてる訳…ないじゃん。期待するに決まっちゃうじゃん。フった後にまだ仲良くしないなんて言われたら…。」

「………ごめん。」

「…もう、正直に言ってよ。私の事、嫌いなんでしょ…?」

「お前、何言って」

「腐れ縁で合わせてくれてるだけなんか…優しさじゃないよ。私にとっては…脅迫も同然だよ。」

「………。」

「…私だって、ずっと、あんたと…。」

「……………。」

「…中途半端はやめてよ。もうこれ以上…私の心…めちゃくちゃにしないでよ…ばか…ばかぁ…!!!!」

「……こんなこと言うつもりなかったのに…ずっと隠すつもりだったのに…………ばか。」

「………ごめん。」

「………好き、なの…?…あの子のこと。」

「…?…あの子っていうのは…?」

「…君の近くにいた綺麗な黒髪の子!…悔しいけど、すごい可愛かったし…どうせ、惚れてるんでしょあの子に。」

「惚れてないよ。」

「…信じないもん。」

「…それは任せるけどさ。」

「…じゃあ信じない。」

「…そ。まぁいいけど…」


「…後悔するぞ、俺と付き合ったら。」

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