悪戯は、今後を鑑みる。
「…や、やっちゃった…!!!」
結宮くんと別れてから私は自分の行いを反芻した。
…普通にやらかした。私みたいな人が彼のような人に告白なんか…烏滸がましいにも程がある。しかし彼を前にしてしまうと…どうにも…恋心というものが活性化してしまって…抑えられなかった。その場のノリなんかで言うべきでないことは分かっていたのに…。
「あ、うぅ…」
今でも思い返すだけで顔から火が出そうだ。あまつさえ、去り際にあんな台詞…
…しかし、今思えば私がなにを言っても彼は否定しなかった。元はと言えば私が強引に彼といたい欲求を満たすために連れ去ったようなものなのに…彼は受け入れてくれた。私は『友達』だから。彼の事だから、きっと友達なんてごまんといるだろう。私はあくまでそのうちの1人。彼は遠い存在な訳で…
…時は遡り入学式、緊張して震えていた私を彼だけが気に掛けてくれた。彼は式で私の前に座っていた。何枚かプリントが配られていく中で彼が振り向いてプリントを渡してくれる度に…心がきゅんとした。緊張や焦りではない、また別の驚き。アイスブレイクでも気さくに話しかけてきてくれて、とても優しい人だと感じた。そんな彼は式が終わっても一向に席を立たない。寝ていると気付くまでにそう時間は掛からなかった。今彼と一番仲がいいのは私だ。そう自信を持っていた私は彼に近付いて…離れた。それはそれはめちゃくちゃに可愛い子が彼に近付いているのが見えてしまった。きっと彼女のような子は誰にでも話しかけられて、すぐに仲良くなってしまうのだろう。彼がその子に起こされるのを見届けないうちに、私は教室へ向かった。
…何と、クラスが同じだった。彼が教室に入ってくるのを見て間違いなく自分の胸が波打つのを感じた。さりとて、彼と話す機会は巡っては来なかったが。
彼と同じ部活に所属していると言う事実も友人伝手に聞いた。ここでも彼と関わる機会はやってこなかった。
…なのに、まさかバイト先で会うなんて考えもしていなかった。気が付けば思いが昂り、彼を誘ってしまっていた。あんなの柄じゃないと今でも思っているが…恋というのは不思議なものだ。せっかく彼と仲良くなり始めるチャンスだったのに、自分からその機会を無下にしてしまった。
しかし…あんな形とはいえ、その…告白したのだから、少しぐらいは私に…周りにいる女の子を差し置いて、私に…興味を持って欲しい。告白をOKしろだなんて言えないし、言うつもりもない。ただ、ただ…少しぐらい、私にドキドキしてほしい。
もちろん私が入学式の女の子より可愛いだなんて思っていない。でも…私だって頑張っているのだ。少しぐらい報われても良いではないか。無意識にぷんぷんしながら帰路を辿った。
「ただいまぁ〜…」
「遅かったわね千春。おかえり。ご飯できてるから手洗って食べましょ。」
「うん。」
顔を洗って鏡を見た。あの事を思い出すと自然と口角が上がって胸がきゅんきゅんしてしまう。高校生活に支障をきたすかもしれない。浮ついた気持ちをもう一度水で洗い流し食卓へと向かった。
「はぁ……」
自分の部屋に戻って布団に倒れ込んでからも、朝のことを思い出してしまって仕方がない。きっと私は彼の虜になってしまっているのだろう。結宮夕透くん。私の誰よりも大切な人。誰にも渡したくない人。たとえ叶わない恋でも…諦めるのは嫌だ。月曜日から話しかけてみよう。そう決意した土曜の夜だった。