悪戯は、刹那を謳歌する。
「あっ…本当に待っててくれたんだ…。」
「まぁ…うん。」
「じゃあ…行こっか。」
「…どこに?」
「…ひみつ。」
「はぁ…。」
気付けばバスに揺られていた。今は午後1時。窓の外から暖かい光が差し込み、春の訪れを感じる。久しぶりに乗ったバスだが、案外心地いい。なかなか田舎な地方なのか、乗っているのは数人のみ。
「…あ、あのさ。」
「どうかした?」
「…何でついてきてくれたの…?」
「そりゃ…特にやることもなかったし…遠野さんの頼みだから。」
「あわ、私の…頼み…?」
「うん。友達の頼みなんだから出来る限り聞いてあげたいでしょ。遠野さんとは部活でも長い関わりになるんだし。」
「…友達…」
「ん?なんか言った?」
「あ、ううん、何でもない…!あ、ここで降りるよ。」
「はーい…」
「……………///」
「ここは…?」
「弥江山展望台。私ここからの景色が大好きで…その…ここで結宮くんと…えっと…2人きりで話したくて…だめ…かな…?」
「確かに…めちゃくちゃ綺麗だね。いいよ、自分もお話しするの好きだから。」
「ほんと…!?ありがとう…!」
しばらく彼と話してみて…とても楽しかった。楽しすぎた。聞き上手なのはもちろん、私が振った話題を絶やすことなく自然に話を広げてくれて…こんなに人前で揚々と話したのは久しぶりかもしれない。しかも話していたのはフルートがどうとか、私の家がどうとか、私のクラスがどうとか…ほとんど彼が知る由もない、彼に関係ない話だったのに。一切嫌な顔をせずにずっと笑顔で…私の目を見ながら会話してくれた。
「あ、そうだ。ソフトクリーム食べてかない?」
「ソフトクリーム有名なんですか?」
「うん。弥江山ソフトクリームっていうのがあって、弥江山で育てた牛の牛乳とか使ってて濃厚で美味しいんだ…食べに行こ?」
「はい、行きましょう。」
「えっと…バニラ一つ!」
「じゃあ…抹茶とバニラミックス一つ。」
「かしこまりました。お会計840円なのですが…」
「…?」
「今、春のキャンペーンやってまして…」
「恋人さんは会計2割引なんです!」
「…はぇ?」
こんな間違い本当にあるのか…まぁ流石に嘘つくわけにも行かないし正直に…
ぎゅっ
「…?」
「………///」
これは何の手繋ぎなんだ…??
「あれ、お客様方もしかして恋人じゃ」
「恋人ですっ…!!(ぐいっ)」
「…!?」
「…ふふ。初心で可愛いですね、お二人とも。」
「あ、いや…あはは…。」
「…………/////」
「………(ぺろっ)」
「………………。」
なにも話せない。あの店員さんは決して悪くない。ご厚意で言って下さっただけなのだと思うが…遠野さんとの沈黙を作り出すには十分な威力であった。
「………ね、ねぇ…」
「あ、うん…?」
「…さ、さっきの…嫌だった…?」
「あ、その、嫌って訳じゃなくて…嘘つくのはアレかなと思って黙ってただけで…拒絶したわけじゃないから…。」
「…………じゃ、じゃあっ…!!!///」
「………わ、私……嘘じゃなくて…本当にしたい…。」
「…それは…どういう…?」
「…………うるさい。」
「えっ」
「私からは言わないもん…ばか。」
「…待ってるよ。私の王子様。」




