悪戯は、永遠を願う。
「お前...ラーメン大行くのか...?」
「当たり前だろ!滅多に来る機会ないんだから!」
色々あった部活の後、奏翔と地元でも有名なラーメン屋の長海屋に来ていた。ラーメンのサイズ、種類、トッピングからセットに至るまで充実しており、平日休日問わず大盛況のお店である。
「まぁな〜...俺は並でいいや、チャーシューともやしトッピングするしな。」
「うわ、それもありだな...」
地元とは言えども、なかなか気軽に寄れるような近さでは無いので、慎重に決めなければ...
「俺はとんこつ。奏翔は?」
「俺は醤油だな...頼んでいいか?」
「おう、よろしく。」
ピンポーン
「ご注文お伺いします...!」
「...あれ、遠野さん?」
「...ゆ、結宮くん...?」
「何だ、お知り合いか?」
「あぁ、遠野さんも吹奏楽部なんだよ。」
「へぇ〜...」
「遠野さんここで働いてるの?」
「あ、うん。お家近くにあるから...!」
「なるほどね...ここら辺住んでるんだ。」
「あ、ていうか注文!ごめんね遮っちゃって!」
「あいやいや、大丈夫!えっと、豚骨ラーメンの並のバリカタで餃子5個セット、んでもやしとチャーシュートッピングで。」
「こっちは醤油ラーメンの大で。んで...俺も麺バリカタで。」
「かしこまりました、メニュー失礼します。じゃ、持ってくるから待っててね!」
「うん、ありがとう。」
「...中々愛想のいい子だな、なんて子?」
「遠野千春さんだ。めちゃくちゃフルート上手いらしいぞ。」
「へぇ〜...お嬢様系って感じか?」
「そうかもな...俺黒髪ロング好きだからなぁ...刺さるな、遠野さん。」
「お前昔から好み変わんないよな〜...」
「はわ、わ、や、やばい...」
なんと同じ部活の仲良しの男の子が...バイト先に来てしまった。しかも...
「まつ毛めちゃくちゃ長いんだぜ、良いよなぁあぁいう子。」
...めちゃくちゃ...褒めてくれてる...。
悪い気はしないし彼から褒めてもらえるのは素直に...とても嬉しい...のだが!
「髪もさらさらでケア頑張ってるんだろうなぁ〜...肌も白いし姿勢もいいしまじいい人すぎるんだよな...」
「あ、う...ぅ...///」
ほ、褒めすぎでは無いだろうか...しかも、普通に厨房にいる私に聞こえる程の声量で言ってくるので...心臓に悪い、バイト中なのに。しかも私はあの卓の担当なのだ。これは困った。
「お、お待たせしました、餃子セットの方...?」
「あ、自分です。ありがとう遠野さん。」
「...///...うん...。こ、こちら醤油ラーメンです。ご注文は以上でよろしかったですか?」
「うん、ありがとう。」
「失礼します...。」
「あ、遠野さん!」
「う、うん...?」
「練習、頑張ろうね。」
「...!?...あ、うん、頑張ろう...?///」
「うん。また来週。」
「っっっ……!!!!///」
我ながら男子を前にするとすぐあたふたしてしまうほど異性への耐性がないので…あんなに優しい笑顔で優しい言葉をかけられてしまうと…どきっとしてしまうではないか。
しかし、彼は人気者だ。いつもホルンパートの女の子たちに先輩・後輩関係なく囲まれているし、フルートパートにも彼のことを想っている人は一定数いる。そんな彼なのに気さくに私なんかにも話しかけてくれる…それが彼のモテる所以なのだろう。
…そう考え始めた瞬間、胸の熱りが冷めてきた。こんなこと分かっていたはずなのに、何で…
「お会計お願いしまーす!」
「あ、はい…!」
「えっと…合計2960円です。」
「ごめん、会計別にできるかな…?」
「あうん、大丈夫…じゃあ醤油ラーメンのお客様。」
「QRで。」
「読み取りお願いします…はい、オッケーです。」
「先外出とくな。」
「おう。」
「お支払いは…?」
「僕もQR…あ、やっぱ現金で。」
「分かった。1560円です。」
「えっと…大きくてごめん、5000円で。」
「…ん。」
「…?」
「…手渡し。」
「…あ、うん…。」
ぴとっ
「っ…まずお札から、1、2、3000円と…440円のお返しです。」
「ありがとう…レシートもらってもいい?」
「あ、うん。もちろん。」
「ありがとう。」
「………。」
ぐいっ
「……あ、あの…遠野さん…?」
「…なに。」
「いやあの…レシート…離して?」
「…………。」
「…遠野さ〜ん…?」
「…………たい。」
「え?」
「…もうちょっと…一緒にいたい、です…。」
「…あの、それは…。」
「…もう私シフト上がるから…おねがい…。」
「…えっと…何か用があったり…?」
「…やだ。」
「………。」
「…と、とにかく…!裏口で待ってて…。」
「お前会計遅くねえか?」
「あーわりわり、小銭落としちまって。」
「ふーん…この後どうする?服でも見にいくか?」
「あー…いや、俺寄らなきゃいけないところ出来たからごめんな。また行こうぜ。」
「あいよ、んじゃまたな。」
「おう。」
心の中で良くも悪くも純粋な親友に謝り、シフト終わりを待つのだった。