悪戯は、信頼を寄せる。
「.........。」
ある日の部活、何故か自分は来るや否や部長に呼び出され、椅子の上に座らされていた。
「...あの、これは...。」
「...今日、澄夏来てないよね。」
「...はい。」
「...心当たりは?」
「...風邪って聞きましたけど。」
「...単刀直入に聞こうか。」
「なんで澄夏に押し倒されてたの...?」
「...えっ?」
てっきり全員帰ってしまったものだと思ってたが...そうではなかったのか。どうやら部長は残って先生との打ち合わせをしていたようだ。
「...何でって聞いてるんだけど。」
「あれは...その...澄夏さんが...。」
「澄夏がどうしたの。」
「...僕...のことを...その...」
「好きなんでしょ。」
「えっ...?」
「なーにぽかーんってしてるのさ。気付いてないとでも思った?どっからどう見ても君のこと好きじゃん。あいつ。」
「は、はぁ...。」
「...私が怒ってるのはそこじゃないよ。」
「......。」
「...何で...拒否しなかったの...?」
「...未橋先輩を泣かせるのは、嫌です。」
「でも、その優しさが後々澄夏を苦しめるかもしれないんだよ。それでも?」
「...僕、知ってます。部長も副部長もとてつもない量の仕事があるって。」
「...何言って」
「コンクールのメンバー決めやら課題曲決めやら練習日程の擦り合わせやら...そんな大変な状態の未橋先輩に...心を抉るような真似、自分には出来ません。」
「......でも。」
「それに、ちゃんと未橋先輩からの好意に向き合いたいです。自分に好意を向けてくれた以上、中途半端に対応したくないんです。」
「............。」
「ごめんなさい。でも名塩先輩に見せ付けるつもりじゃなくて。てっきり帰ったのかと思ってて...配慮が足りませんでした、すみません。」
「.........楓。」
「...え?」
「私の名前、名塩じゃない。」
「...名塩楓さんじゃなかったでしたっけ...?」
「...ばか。」
「...下の名前で呼んでよ、夕透くん。」
「...えっと、それは...」
「...澄夏に押し倒されるのは平気なのに、私を下の名前で呼ぶのは出来ないんだ。」
「いや、そういう訳じゃなくて...!」
「じゃあ呼んでよ、楓って。」
「…あの、近いので一旦離れ」
「やだ。」
「……………。」
「…子供っぽいって思った…?」
「…そんなことは、ないですけど。」
「…部長だから…良くも悪くも後輩から余計に大人に見られること多いんだよね、中身は全然子供だし困っちゃうよほんと…」
「…えっと、それは」
「…好きな人の前だと、冷静じゃいられないぐらい…子供だよ、私。」
「ねぇ…呼んで?」
「…………………楓、先輩。」
「……先輩…要らない。」
「…呼び捨ては流石に…。」
「…言って。」
「…………楓。」
「……え、へへ、なんかにやけちゃう、ふへへ…」
「…何で急に呼び捨てさせたんですか。」
「…夕透くんさ、女の子の先輩呼び捨てにしたことないでしょ。澄夏も碧もさん付けしてたもんね。」
「…ですね。」
「…じゃあ、私が…はじめて…?」
「…まぁ…はい。」
「…へ、へへ…口緩んじゃう…」
「…じゃ、じゃあ僕練習行くんで…」
「あ、待って…!もう一個、もう一個だけ…」
「…何ですか。」
「…私、君のために頑張るから…いつか、いつか…」
「…好きになって…?」
「…あ、え…?」
「…他の人には内緒だよ、この気持ち。」
「あ、は、はい…。」
「うん、いい子だね。」
ガチャ
「はーい部活始めるよ〜!碧お弁当しまって〜」
ガチャ
「………はぁ。」
…同じ学年は似たもの同士が集まると聞いたことがあるが…そんなところで似て欲しくなかったと、切に願う放課後であった。