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悪戯は、歩みを進める。

「はぁ…。」

かつてこんなに重い気持ちで登校したことがあっただろうか。結局日曜日もずるずると土曜日のことを引きずってしまい、何も手につかなかった。何故あんなことを言ってしまったのか。してしまったのか。いつまでも悩んでいても仕方ない。きちんと自分の行いを反省して、その意を伝えよう。そう決めた。




…結論、あいつは登校してこなかった。やはり私のあの行動が自分の想像したより彼の心を深く、強く傷つけてしまった。惰性で午前の授業を過ごし、昼食の時間。

「そういえば今日結宮君休みだよね。」

「ね〜…正直さ、うちのクラスの中で1番…良くない?」

「え、分かる。他と違ってすらーってしてるよね!顔立ちも整ってるしスタイルも良いし、何よりホルンめちゃくちゃ上手いらしいよ!」

「え!楽器も出来るの!?超優良物件じゃん…ほかの男子なんかみーんな面白くないギャグばっか言ってるのにね。」

「私こないだ話したよ!近くで見たけどまつ毛長くてめちゃ綺麗だったなぁ…」

「えずるい!!次学校来たら私も話しかけようかなぁ〜…」

…今になって気付いたが、あいつは普通にモテている。しかも今話しているのはこのクラス、いや、学校中でも指折りの可愛い子達だ。そんな人達が彼に興味を持っている。もしほんとに彼女たちがあいつに話しかけたら…きっと、私の事なんか意識の外に置かれ、彼女たちがあいつの脳を埋め尽くすだろう。本当は今すぐ彼女たちに威嚇したい。だが…悪いのはどこまで行っても私だ。彼女たちをあいつが好いた所で私にはどうする事も出来ない。それは分かっている。でも…


気付いたら、あいつの家に来てしまった。謝るなら、直接謝りたい。それで拒否されたら…もう、諦めるしかない。

震える指で、インターホンを押す。足音が聞こえる。あいつの足音なのだろうか。

ガチャ

「はいはい…………え?」

「あ、えっと、久し、ぶり…」

「あぁはい…お久しぶりです。」

「…あ、あのさ!!!」

「はい…?」

「えっと、その、あの…ごめんなさい!!!私、夕透くんのこと何にも知らないのに、勝手にあんな事して、その、ほんとにごめ」

「…深涼さん。」

「ふぇっ、あ、やっ…やっぱりそうだよね!もう私となんか会いたくないよね!ごめんね理解なくて、ごめんね、でもね、わたし、まだきみと、まだ、まだ…」

「深涼さん。」

やっぱり、仲直りできるだなんてただの妄想だったのだろうか。何を言われるのかと目を瞑り待ち構えた。

「あの…別に、自分怒ってないです。」

「…えっ…?」

「…ていうか、あーいう事をしたのも何か理由があってなんですよね?多分、僕がした何かに苛立った…んですよね?」

「あ、ぇと、それは…」

「だったら謝るのは自分の方です。すみませんでした。でも…怒られた理由が分からないままなのもすっきりしないので…良かったら教えてほしいんですけど…良いですか?」

「…夕透くんが…その…」

「はい。」

「…楓先輩と一緒に来てるの、見ちゃって。」

「…あっ。」

「それで…ちょっと…もやもやしちゃって…。」

「…それは…」

「私が私のために誘った夕透くんだったから…そんな事ないはずなのに、楓先輩に誘われた側なはずなのに、何か…その時だけ、許せなくて。」

「…完全に自分が悪いです。すみません。」

「いや、別にそんな事…!!勝手に自分があれこれ考えちゃってたから…」

「…えっと、一応誤解ないように言っとくと、楓先輩は深涼さんの家が見たかったらしくて。」

「…はぇ?」

「優等生のお家ってどんなんなのか気になったらしいです。見たらすぐ帰っちゃいましたけど。」

「…なるほど。」

「だからその…そんなに気にしないでください。自分が深涼さんの立場でも怒ってますよきっと。」

「そっか…ありがとう。」

「はい。」

「…あ、あのさ!こ、これ…。」

「袋…?………!!」


『無限ビーフジャーキー ¥430』

『極薄ポテチ うす塩味 ¥240』

『きゅうりの浅漬け ¥160』

『計 ¥830』


「これで、あの…おあいこって事で良い…かな?」

「…ぶふっ。」

「えっ!なんで笑うの!?しょっぱいもの好きって言ってたじゃん!!」

「いや、めちゃくちゃ嬉しいですよ!…ありがとうございます。深涼さん。」

思いやりに満ちていて、少し不器用だが本当の気持ちを伝えてくれる。これほどに嬉しいことは無い。それと…







…しょっぱい物の3品目に浅漬けを持ってくるセンスは見習いたいものだ。

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