悪戯は、立場を弁える。
「でも!!笑笑それは私じゃなくてみっすーが悪かったんだもん!!!笑笑笑」
「多分未橋先輩も同じこと思ってるでしょうね…」
しばらくこの目の前のイケメン君と話してわかったことがある。
まず…イケメンだ。長く真っ直ぐ伸びるまつ毛、目にかかろうかというほど伸びたサラサラな黒髪、つまめる所のなさそうな、しかしとてもきめ細やかな肌。少し膨らんだ唇。顔面が良い。今まではあまり意識したことがなかったが…かなり今までも特別な体験をさせてもらっていたのでは無いのだろうか。
あと少し失礼だが…思ったよりも社交的だった。どうせ良くて適当な相槌ぐらいしか打ってくれないと思っていたが…普通に気の利いた返答もしてくれる。こっちのまぁまぁ真剣な質問にも真剣な回答や解決策を提案してくれる。見た目が見た目なだけにやる気がなさそうで会話ものらりくらりと上手い具合に躱すとしか思っていなかったが…。私の偏見だった。ある意味社交的じゃないのは自分の方ではないか。
…でもだからこそ、分かってしまう。対応の差に。
深涼ちゃんと話す時は自主的に喋っているが、私と喋っている時は話題は出してくれない。私ももっとイケメン君のことを知りたいが…多分この調子だとあんまり話してくれなさそうだし、そもそも先輩後輩という関係上遠慮してしまうだろうし…でもそんなのは分かりきっていたはずだ。私は後輩に適度に絡みつつ、仲良しの同期と主に話そうと思っていたが…そうもいかなくなってしまった。
「やっぱり名塩先輩が悪いんじゃないですか?あんまりいい噂聞きませんけど未橋先輩から。」
でも知りたいものは知りたいし、仲良くなりたいんだから仕方がないではないか。普通に同期の男子と話すより楽しいし盛り上がるし…でも…
「名塩先輩?(トントン)」
「はぇ…?ひゃっ…」
「…っ…どうしました?ボケーッとしてましたけど。」
「ぇぐ、ぁぅ、ちゕ…ぃ…」
「…名塩先輩?」
「…あっ、こ、ここっぽいね深涼ちゃんのお家、じゃあその、えと、あの、あたし帰るから、その…ま…たね。」
「え、あ、はい…お疲れ様でした。」
何だあの人。人の顔をまじまじと見た瞬間逃げ出すなんて。
「…まいっか。(ピンポーン)」
ガチャ
「あ、深涼さん。こんにち…え?」
ドアを開けたその先には。
「………。」
目に大粒の雫を浮かばせた少女がいた。