悪戯は、先見を馳せる。
「...ねね」
「うん?どしたよ?」
「...あの子さ、入って来てくれると思う?」
「...結宮君のこと?」
「うん。」
「...どうだろうなぁ...3:7、いや...良くて2:8じゃないかな。」
「そ、そんなのもう入らないようなもんじゃん!!」
「そうだよ。釉暖ちゃんも言ってたでしょ。結宮君はもう吹奏楽には入らないだろうって。」
「で、でも...あんな上手い子をみすみす見逃すなんて...」
「...見逃した訳じゃないよ。ちゃんと勧誘はしといたから。まぁ結局、あっち次第なんだけどね...。」
「...てか正直、なっしーも結宮君のこと、気になってるんでしょ?」
「はぇっ!?!?なっ、そ、え、いや、そんな事ないけど...???」
「慌てすぎ。自らバラシに行ってるようなもんだよそれだと。」
「...すみすみだってちょっといい感じになってたじゃん。この間。」
「えっ?」
「2人きりでホルンのお話してたけど...だーいぶ距離近かったような気がするなぁ〜...」
「そ、そんな事ないけど...」
「い〜や、あれは近かったね。だってもうほぼ肩くっついてたじゃん。あれは確信犯だなぁ...。」
「ちっ、違うから!!」
「...結局、お互い様ってことか。」
「...でもさ、深涼ちゃんも好きなんでしょ?結宮君のこと。」
「そうっぽいね。凸凹コンビかなって最初思ったんだけど、案外相性良かったりして?」
「..............」
「え何、嫉妬してんの?」
「へ?いや、ち、違うし!!!!」
「はぁ〜あ...」
これほどに悩んだのはいつぶりだろうか。たかが部活、されど部活。この高校3年間という長く短い年月を共にする大事な存在だ。生半可な気持ちで決めていいものでは無い。
...決して、入りたくない訳では無い。一癖も二癖もあるが優しく面白い先輩たちだし、なんかよく分からないけど絡みに来るあの人もいるし。公立の高校の割にはだいぶ設備も整ってる様子だし、実際に部活するには申し分ない状況だろう。だが、肝心なのは...
「...俺が入ってもなぁ...」
そう、何故かこんな感じで入った後のことをイメージ出来ない。楽器問わず、未来のことをイメージするのはとても大事である。明日の自分。明後日の自分。来月の自分。来年の自分。...未来の自分。考えれば考えるほどその思考は曇り、濁り、微睡んだ脳の中へ落ちて行く。過去に囚われるのもあれで最後だと思っていたが...どうやら、現実はそう簡単には行かないらしい。
「...避けては通れない時が来たな。...ついに。」