悪戯は、過去を救い出す。
「...なんですか、急に呼び出して来て。」
「単刀直入に聞かせてもらおう結宮君......。」
「…釉暖ちゃんって彼女さん?」
「はぁっ!?え、は、いや、なんで釉暖の事…!?」
「論点はそこじゃなーい。どうなの、彼女さんなの?どっち!?」
「…別に、そんな関係じゃないです。ただの小中高同じなだけの腐れ縁ですよ。」
「…の、割にはあの子、君の話してる時目キラキラさせてたけど。」
「太陽が眩しかったのでは?」
「一日中雨だったんだけどその時。」
「…ん?何を話したんですか?」
「えっ?あ、あ〜…それはあれだよ、あの…」
「…女子の話。」
「…そですか。」
「おぉ〜い呆れんなそこの男〜!!!」
「…っ!」
がしっ
「あ、え、深涼さん…?どうしました…?」
「…何で、教えてくれなかったの。」
「え?何をですか。」
「…過去だよ。君の。」
「…釉暖から聞いたんですか。」
「…うん。」
「…何でって言われても、別にわざわざ人に話すような事じゃないし、自分の中でも区切り付けてたんで、もういいかなって思ってたんです。」
「…嘘はつかないで欲しいんだけど。」
「いや、本気ですけど…」
「…怒るよ、私。」
「…はぁ…別に、そこまで思い詰めてる訳じゃないです。深涼さんが思ってるよりは。ただ…ちょっと、不思議で。」
「…何が?」
「…あれだけ自分でも敬遠してたホルンに、何故か躊躇いなく触れて、吹いて、入部も検討して…そりゃ、時間がある程度解決したのかもですけど、完璧には無理だろうし、だから尚更おかしくて。」
「…その人のこと、好きだったの?」
「…どうですかね、もう今はそれを確かめる術は無いんですけど。」
「…確実に言えるのは、大切でした。世界中の誰よりも。あいつが。」
「…ありがとう。話してくれて。」
「…はい。」
「…あっ、あのさ…っ!」
「ん?どうしました?」
「…時間が解決してくれないなら…わ、私が……っ!」
「…………?」
「…救いたい。君の心の悲しみを。」
「…別に、そこまでしてもらわなくても」
「…。」
「…大丈夫ですよ。深涼さんとか、先輩たちと話してたらだんだん薄くなります。過去も。忘れることは無理ですけど、思い出すことが出来るぐらいには、留めておきます。」
「…ちゃんと、向き合うの?」
「…良いんですよ。昔の自分に一喝できた感じだし、満足です。もう。」
「…じゃ、吹奏楽部、入ろっか。」
「…え?いや何で」
「当たり前でしょ!?昔と向き合えたんならもう入らない理由ないでしょ!また名塩先輩泣かせるつもりなの!?」
「…考えとくから、一旦離れて…。」
辛い過去でも、箱に閉まって、鍵をかけずに置いておけば、開けられる。思い出せる。向き合える。過去の自分に。