悪戯は、真相を知る。
「先輩、ここってどうやって吹くんですか?」
「あーこれね、指動かすの大変じゃん?だからここを…」
ガラガラガラ
「み、深涼ちゃん!!」
「は、はい…?」
「何か、深涼ちゃんと話したいって人が…」
「えっ?」
「えっと…どちら様で?」
「急にすみません、夕透の幼なじみの矢掛釉暖です。」
「…えっ、結宮くんの…?」
「…あの子の幼なじみ…。」
「はい。今日は…余計なお世話かもしれませんが、伝えたい事があって。」
「ほう…それは?」
「…単刀直入に言いますね。夕透は…」
「───もう、吹奏楽部には入りません。」
「…えっ?」
「…なぁ母さん、これで良かったのかな、俺。」
俺だって、入れるのなら入りたい。だが…気持ちがそうさせない。結局いつだって悪いのは自分だ。深涼さんだって先輩たちだって、ずっと答える機会をくれていたのに。いつもの癖でまた、のらりくらりと躱してしまった。
「…そ、そんなことが…」
「…何で結宮くんはそんな辛い過去を隠して、あんな飄々と…?」
「…もう、思い出したくないんじゃないかと思ってたんですけど…」
「けど…?」
「…ほんとに思い出したくないなら、吹奏楽部の見学なんか来ないと思うんですよね。いくらかわいいそちらの方のお誘いとはいえ。」
「えっ?あ、あぁ…」
「…もしかしたら、夕透の中で気持ちの変化が出てき始めたのかもですね。私がわかるような事じゃないですけど。」
「……。」
「結宮くん、あんな過去を隠してまで…。」
「でも、話してる感じ全然わかんなかったよね、ぽーかーふぇいす、ってやつ?」
「…私、全然知らなかった。夕透くんのこと。」
「いや、それは深涼ちゃんが気に病むことじゃ…結宮くんだって、隠そうと思って隠してたんだし…」
「…ごめんなさい、正確には知ろうとしてなかったです、彼のこと。」
「…深涼ちゃん…。」
「今日のこと、彼には内緒ね。」
自分でも不思議だった。あんなに忌み嫌ったはずのホルンを、気づけば抱え、吹いていた。先輩に急かされていたとはいえ、今までの自分じゃ有り得なかったはずだ。なら、なんで俺は…?
けじめは付けたはずだった。忘れて生きていく、思い出さずに生きていく。それが最適解で、そう信じて、そう生きてきた。なのに、立ち止まってしまったのは…自分でも気付いてしまったのかもしれない…。
…この方法は間違っていることに。