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悪戯は、追憶を顧みる。

小さい頃から、楽器が好きだった。人と会話するのが苦手な自分を、唯一表現出来たのが楽器だった。自分は一言も発していないのに、大勢の聴衆の心を動かせる。そんな楽器に憧れた。血の滲むような努力をして、才能が開花し、あるコンクールで1位を取った時のことだった。

───あいつに出会ったのは。


「ねぇ、君!」

「...誰?」

「私、コンクールで準優勝だった瀬名透架(せなとうか)って言うんだ!君は?」

「...結宮夕透。」

「かっこいい名前だね!夕透くんの演奏、すっごい綺麗だった!同じ楽器吹いてるとは思えないぐらい、繊細で、静かで、でも温かくて...ほんとに感動した!」

「...あ、ありがとう。」

「うん!今回は負けちゃったけど、次は私が優勝するからね!またいつか会おうね!ばいばい!」

「あっ...ばいばい。」


彼女もまた、天才的なセンスを誇るホルニストだった。幼くして数々の賞を受賞し、10歳にも関わらず外国で有名な管弦楽団に所属していた。自分は人と関わるのがめっぽう苦手だったため、そういった団体には所属せず、ひたすら自分自身を磨き続けた。結果として、彼女にコンクールで敗れたことは一度もなかった。...いや、あの時を除けば。


それは透架と出会って2年、お互いに小学6年生、小学生以下部門に出られるラストチャンスの事だった。

「えっ?」

「うん、私...このコンクールで優勝出来なかったら、辞めるの。ホルン。」

「な、何でだよ!そんなに才能があって、努力もできる奴なんてほとんど居な」

「それがダメなの。」

「...は?」

「...才能があっても、努力が出来ても、実績がなきゃダメなんだ。大人はそこしか見てない。...お父さんもそう。きっと。」


考えた。手加減。すべきでないことは自分でも分かっている。でも...理論≠最善でないことも分かっていた。


「はぁ...。」

結局、わざとミスをした。大したミスでは無い。♭が高めだったり、息の勢いを少しだけ不安定にしたり、少しだけテンポを上げたり。誰かに気付かれるほどでは無い。...はずだった。


「...ねぇ。」

「ん?」

「...やだよ私、そんな事されるの。」

「は?何言ってるんだ?」

「...手加減されて勝っても...嬉しくないよ...。」

「してねぇよ手加減なんか。紛れもないお前の実力だ。少しぐらい自分を信じたらどうだ。」

「...私が、あんな事言ったから...?」

「...は?」

「演奏前にあんな事言われても困らせるだけだったよね、ごめん、ちゃんと勝ってやろうと思ってたのに結局出し抜かれちゃった。」

「おい!!!早く来い!!!」

「...あはは、お父さんが呼んでる。」

「待てって、おい、まだ俺は...!!!」

「…私、やっぱ君には勝てないや。今までありがとう。じゃあ…ばいばい...っ。」

「おい!!何で、なんで...お前は...何も...。」

翌日、ホルンを辞めた。親には問い詰められた。だが意気阻喪した自分の姿を見てか、何も言わなかった。彼女のいないこの舞台に立つ意味などもう無い。気付くべきだった。彼女の憂いに。悲嘆に。哀哭に。...何より...自分の恋心に。

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