悪戯は、諦めざるを得ず。
「…んぐぅ…。」
それからというもの、あいつと関わる機会はめっきり減ってしまった。私は吹奏楽部に入部したが、あいつはどうやら入っていないようだ。名塩先輩たちもガッカリしていた。でも仕方ない。頭が混乱していたとはいえ、バックハグをしてしまったのだから。避けられるに決まっている。部活はとても楽しい。が…やっぱり何がが足りない。目処は立っている、が…気付くのが怖い。私だってよく知りもしない人にこんな事されたら、引くに決まっている。でも…
「…はぁ…。」
「みすみすー…元気ないじゃん、だいじょぶ?」
「澄夏せんぱぁぁぁぁい…」
「どうしたの、嫌なことあった?」
「酷いことしました、私、そんなつもり無くて、傷付けようなんて思ってなくて、なのに、私、私…」
「よしよし。辛かったね。…それってさ、あの子との事…だよね?」
「…私、あいつをもっと虜にするために、いっぱい話しかけて、メイク勉強して、トークスキルとか、面白い話とか、いっぱい、がんばって、それで、髪型とかも変えて、気付いて欲しくて、でも、あいつ、何も気付かなくて、辛くて、ずっとあいつが正しくて、そんな自分が嫌いで、もう、どうすれば…ううっ…!!!」
「罪な男だねぇ結宮クンも…」
「…でも、もう諦めます。」
「…え?」
「もう、私には…無理なんです、きっと。虜にする相手に怒ったりしてるようじゃ、引かれる一方だし。それに…もう、あいつは…ぐすっ…」
「……。」
「はぁ…。」
結局、体験入部期間が終わり、吹奏楽部への入部はしていない。碧先輩によると深涼さんは入ったらしい。名塩部長に電話越しで怒られた。理不尽極まりない。
「…ホルン…か。」
別に、興味が無い訳では無い。なんだかんだいい人そうな人ばかりだし、ホルンなら自分でも少しは役に立てる。だが…
『…私、やっぱ君には勝てないや。今までありがとう。じゃあ…ばいばい...っ。』
「………もう6年か。」
傷は時間が癒してくれるとはよく言ったものだが、穴を埋める物が何も無ければ、埋められないに決まっている。…今の自分がそうだ。過去に囚われ、また何も出来なかった。あの時の自分と同じだ。だから…大切な、とても大切な人を…失ったんだ。