リーリア視点
一部文章修正しました。
私はリーリア・レンブラン。
田舎の領主に仕える男爵家の長女として生まれたの。
お父様は人が良いけど貧乏で、田舎暮らしは私には退屈だったわ。
本当は王都の学校に通うのは難しい経済状況だったけど、領主のご好意で領主の娘と一緒に通わせてもらえることになった時は、ほんとラッキー!って感じだった!
そして学院入学が迫った15歳の頃、私は突如として前世の記憶を思い出した。
何と、私は前世でやり込んでいた乙女ゲーム『ユールタールの華』のヒロインとして転生していたのよ!!
『ユールタールの華』の攻略対象は5人。
いずれもイケメン、性格良い、金持ちの三拍子揃っていて選り取り見取りなの。
逆ハーエンドがないのが惜しいところだけど、正直この5人の中からだったら誰を選んでも将来は安泰だと思う。
『ユールタールの華』は平凡な乙女ゲームだったけど難易度がそんなに高くなくて全ルート攻略しやすいし、何より悪役令嬢が一人だけってのがヒロインに優しい仕様なの。
その悪役令嬢『ナターシャ・ドナレイル』って女がこれまた性悪でね。
ヒロインが攻略対象に決めた相手は必ず『ナターシャ・ドナレイル』の婚約者になるから、ヒロインの恋路をとにかく邪魔しまくるのよ。
でも、その妨害があるからこそヒロインと攻略対象の恋が逆に盛り上がるのよね。
ゲーム内ではナターシャ以外の人から虐められる描写はないし、ナターシャからの仕打ちに耐えさえすれば誰もが羨む玉の輿に乗れるなんて、私の人生イージーモードじゃない!?
前世で何度もやり込んだから好感度アップイベントの選択肢は全ルート完璧に頭に入ってるし、攻略対象の好感度を上げきれないバッドエンドになんてなりようがない。
そうして、私はルンルン気分で『ユールタールの華』の舞台であるユールタール高等学院への入学を迎えるのであった。
◇◇◇
迎えた入学式。
何度も見たゲームのオープニング。
ヒロインであるリーリアは入学式に遅れて行って、講堂の扉を開けるなり大声で謝るの!
田舎者だから、中にこんなにたくさんの人がいるだなんて考えもしなかったのよね。
そこで、講堂の中の全員から注目を浴びる。
リーリアが攻略対象者の目に初めて触れることになる、重要なシーン。
正直言って前世奥手な日本人だった私にとって、あんな大勢の前で声を張り上げるのはかなり勇気がいる。
だけど、これをやらないとゲームが始まらないのだから頑張るしかない。
私は腹を据えて講堂の扉を握りしめ、勢いよく開ける。
「すみませーん!遅れました!」
緊張で声が上擦ったが、人々の注目を集めるのには成功。
まずまずの出来だったんじゃない?
こんな風に冒頭の入学式イベントは恙無く終わったのに、何故かその後の学院内での出会いイベントは悉く空振った。
第二王子のウィリアム様と出会えるはずの中庭での昼寝イベント。
侯爵家の嫡男、エリック様と出会えるはずの花壇イベント。
騎士団長の息子、ガリバー様と出会えるはずの校舎裏のイジメイベント。
辺境伯家の嫡男、イルダース様と出会えるはずの路地裏の仔犬イベント。
どの現場にも行ったのに、お相手は現れなかった。
それどころか芸術科の先生に関しては、ナターシャの兄であるユークリッド様ですらないの!
一体、どういうことなの!?
◇
攻略対象者に近づこうと、同級生たちや先輩たちにいろいろ聞いたけれど、特に有益な情報もなく。
私が爪を噛みながら廊下を歩いていたら、前方にやたらとキラキラしている黒髪の令嬢が立っていることに気がついた。
そして彼女の顔を見て、戦慄したわ!
―――『ナターシャ・ドナレイル』!
あのツヤツヤの黒髪に青みがかった黒い瞳。
それからあの人が醸し出す傲慢な雰囲気!
間違いない、あれが『悪役令嬢』だわ!
………けれど、ナターシャの隣にいる男の人は誰かしら?
攻略対象ではないけれど、かなりのイケメンだわ。
ライトブロンズの髪に青い瞳、一目で高貴な人なのだと分かる。
「あら、珍しい。ナターシャ様とザイード様だわ」
「お二人は婚約者同士なのに全く一緒にいらっしゃらないから仲がお悪いかと思っていたのだけど……」
周りのご令嬢の話が聞こえて来る。
『ナターシャ・ドナレイル』に婚約者がいるの!?
ゲームではヒロインがルート確定してからナターシャの婚約者が決まったはずなのに、どうして?
微妙なゲームとの違いに戸惑ったが、同時に、だから攻略対象とのイベントが発生しなかったのかと納得もした。
ナターシャが学院入学前に婚約をしていた―――。
ゲームと違うその事実に対してどのように対応したら良いか策を練る。
まずナターシャの婚約者について知ろうと思い、先ほど噂話をしていた令嬢に話しかける。
「あのー、ナターシャ様の婚約者のザイード様ってどんな方なんですか?」
「ザイード様?彼は侯爵家の嫡男で、成績優秀、剣技もお得意で性格も穏やか、そしてあの美麗なお顔。非の打ち所がない方ですわ。なぜあれほどのお方が、ナターシャ様みたいな地味なご令嬢の婚約者なのかしらね?」
ナターシャの婚約者は、どうやら超優良物件らしい。
それに先ほどの令嬢の話しぶりからして、ナターシャはゲーム同様、学院の嫌われ者みたい。
もしかして………これはナターシャの婚約者を攻略する特別ルートなのでは?
前世で私が死んで以降にアプデされた追加コンテンツなのかもしれないわ!
私の攻略対象は定まった。
私はザイード様を攻略して、誰もが羨む侯爵夫人になるのよ!
私は機会を窺って、ザイード様に話し掛けることにした。
でもただ話しかけたんじゃ警戒されるかもしれない。
あくまで話し掛けるのに不自然じゃない方法を取らなければ。
そこで私は、廊下の角で待ち伏せしてザイード様にぶつかることにした。
あくまでも余所見してぶつかってしまった体で。
ザイード様を観察し、行動パターンを把握する。
お一人で教室を移動される機会を狙って、廊下の角に隠れ、ザイード様の登場を待つ。
廊下の向こうから、だんだんとザイード様が近づいて来る。
―――今よ!
ドンッ!
「きゃっ!」
私は勢いよくザイード様にぶつかり後ろによろけたところを、ザイード様は私の肩を抱いて支えてくれる。
「おっと……大丈夫かい?」
ザイード様の美しい青い瞳が至近距離で私に向けられる。
ズッキューン!
これは惚れるわ!
この方、美しすぎる!
なぜ攻略対象じゃなかったのか、制作会社に小一時間問い詰めたいくらい。
「あ……すみません、私ったら……。廊下を走るなんて淑女らしくないことを」
私は恥じらっているふうに足をモジモジする。
先ほどザイード様のご尊顔に見惚れて、ちょうど良いくらいに顔も赤らんでいることだろう。
「いや、可愛らしいお嬢さんに怪我がなくて良かった」
ニッコリと微笑むザイード様。
ファーッ!目が潰れそうなほどイケメン!
「か、可愛らしいだなんて」
「ん?本心だよ。君はとても可愛らしい」
ザイード様は私の肩をしっかり抱いたまま、甘やかな視線を投げかけて来る。
これ、もはや出会った瞬間に攻略完了してない?
◇
それから私たちは時々会って会話をするようになり、次第にその頻度が増えて、最終学年にもなれば人目も気にせず堂々とイチャつくようになる。
そういえばナターシャは時々私に「婚約者がいる方に〜云々」と説教を垂れて来る以外は特に何もしてこないが、ザイード様の好感度が目に見えて上がっているためにあまり気にしていなかった。
ところが、ゲームのクライマックスである卒業パーティーが近づいてきた時、はたと気づく。
―――ナターシャが悪いことをしないと断罪できないじゃない!
もしナターシャが断罪されなかったら……ザイード様は婚約破棄してくれないかもしれない!
それはダメよ!
私はどうにかナターシャに悪行を働いてもらえないか、試行錯誤する。
嘘をついたり明からさまな自演をするのはダメよ。
バレた時の報復が怖いから。
だから、嘘をつかない範囲で自然と疑念を持たせれば良いのよ。
「はぁ〜」
「そんなに溜息をついてどうしたんだい?リーリア」
私が憂鬱そうに俯いていると、ザイード様が心配そうに顔を覗き込む。
はぁん!顔が良過ぎる!
「最近、ナターシャ様によく睨まれる気がするんですぅ」
「ナターシャが?」
ザイード様が怪訝そうに眉を寄せている。
「ええ。……私の勘違いかもしれないのですが」
「うーん。今まで黙っていたのに、急にどうしたんだろう?」
ザイード様は私が言うことを微塵も疑っていないみたい。
「あはは。すみません、こんな話!落ち込むなんて私らしくないですよねっ!」
無理して笑ってます風に笑って見せると、ザイード様は少し心配そうに眉尻を下げている。
「明るく前向きなところは君の良いところだが……。辛いことがあれば、いつでも私を頼ってほしい」
キラキラな顔面から繰り出される甘い言葉にすっかり脳が溶けてしまったわ!
こんなイケメンにベタ惚れられて守られて、私の人生って最高じゃない!?
こんな感じで、私は少しずつ少しずつ、ザイード様にナターシャに対する疑念の苗を植え付けていったの。
「今日もナターシャ様に態度を注意されてしまったの。……いえ、私が淑女として未熟だから悪いのよ!」
「今日たまたまナターシャ様と廊下ですれ違った時、わざとぶつかられたような気がするの。……ううん、たまたまよね!ナターシャ様がそんなことするはずがないわ!」
「今日、本を抱えて廊下を歩いていたら一冊落としてしまって、それをナターシャ様に踏みつけられたの……。違うの、ナターシャ様の目の前に本を落としてしまった私が悪いのよ!」
そんな話をするたび、ザイード様の眉間のシワはどんどん深くなっていった。
これは断罪待ったなし、ね!
もうすぐ卒業、クライマックスシーンを迎えるけど、この調子なら全て上手くいきそうで私は一安心したのだった。
◇◇◇
そして迎えた卒業パーティーの日。
私はもちろんザイード様に贈られた独占欲丸出しのドレスにアクセサリーを身につけ、最高に着飾ってザイード様のパートナーとして堂々と隣に立つ。
一方で忘れられた哀れな婚約者のナターシャは、自分で誂えた青のドレスでエスコートもなく一人で入場してくるのよね。
あの高慢ちきなナターシャが屈辱で震える顔を早く見たいものだわ!
早くゲームで見たあのスカッと爽快な断罪シーンが見たいと胸を躍らせて待っていると、ザイード様が馬車で迎えに来てくれた。
「ああ、私のリーリア!なんて愛らしいんだ」
そう言ってザイード様は私を抱きしめてくれたわ!
これは確実に好感度MAX!
万に一つもバッドエンドはあり得ない!
……そうね。
これはゲームではなく現実の世界。
婚約破棄して悪役令嬢を断罪した後も、私の人生は続くんだもの!
今のうちに次の目標を立てておきましょう。
………うん、私、決めた!
私は誰もが憧れる侯爵夫人になって社交界の華となるわ!
パーティー会場に着き、ザイード様の腕を取って堂々と入場する。
……そうそう、ゲームでもこんな感じで嫉妬の目線で見られるのよね。
嫉妬されるってことは、裏を返せば憧れられてるってことだもの。
みんな私のようなシンデレラガールになりたいわよね。
上機嫌で会場を歩いていると、前方に一人佇むナターシャ発見!
自分で誂えたザイード様の瞳の色のドレスなんか着ちゃって……プッ、惨めだこと。
私はナターシャに向かって、ザイード様に贈られたドレスを見せつけるように胸を張ってやったわ。
さあ、ハンカチを噛んで悔しがりなさい!
………そう思ったのだけど。
なぜかナターシャは私を見てニコリと笑ったの。
え?……どうしてこの状況で笑っていられるの?
私は一抹の不安を感じたけれど、すぐに思い直した。
きっとプライドがエベレスト並みに高いナターシャのことだから、意地を張って笑って見せたのよね。
だって、ナターシャが婚約破棄されない可能性は万に一つもない。
ザイード様は私に夢中だもの。
そして音楽が鳴り出し、私はザイード様とファーストダンスを踊る。
学園ではザイード様との仲を深めるのに必死で全然勉強できなかったけど、今日この瞬間のためにダンスの授業は真面目に受けたのよ。
ああ、ザイード様もやっぱりダンスがお上手ね。
今フロアで踊っている私たちはきっと、物語の王子様とお姫様のように美しいはずだわ!
夢のようなダンスを終え、ザイード様と存分にパーティーを楽しんだ後は、いよいよお待ちかねの断罪タイムよ!!
◇
確か婚約破棄は国王陛下の御前で言い渡すのよね。
ゲームの通りだと、まず攻略対象がナターシャに婚約破棄を言い渡す。
『私、(攻略対象)は本日をもって、ナターシャ・ドナレイル嬢との婚約を破棄する!私が真に愛するのはここにいる、リーリア・レンブラン男爵令嬢ただ一人だ!』
そうすると、それに納得いかないナターシャは婚約破棄をみっともなく拒否する。
『(攻略対象)様!納得いきません!あなたの婚約者に相応しいのはこの私ですわ!』
そんな醜いナターシャを見て、攻略対象は不快そうに顔を歪める。
『ナターシャ!我が愛しきリーリアにした数々の悪行、知らぬとは言わせないぞ!』
そしてナターシャがリーリアにした嫌がらせが全て暴露される。
『ち、違いますわ!私はその女に自分の立場を分からせようとして……!』
『うるさい!お前のような性悪が私の婚約者に相応しいだと?笑わせるな!お前の存在は他人を不幸にする!リーリアを謀って陥れた罪により、お前を(ルートによって違う罰)に処する!』
ルートによって、ナターシャは死罪か修道院行きか地下牢幽閉の罰を受けるのよね。
ちょっと可哀想かな?という気がしないでもないけど、ゲームのシナリオなんだもの。
恨むなら、ナターシャとして生まれた自分を恨んでね!
いよいよザイード様のアッシャー侯爵家が国王のもとに向かう番が来て、私も当然のようにザイード様と一緒に階段を登る。
婚約者のナターシャではなく私がザイード様と一緒にいることに、ザイード様のお父様とお母様は一切文句を言われない。
つまり、もう私を新しい婚約者として認めているということよね?
ご挨拶もまだなのに義父母に受け入れてもらってるなんて、人生イージーモードすぎない?
乙女ゲームのヒロイン最高だな!
国王の御前で敬礼をし、国王の言葉を賜る。
「ありがたき御言葉にございます。この度、国王の御前でお許しいただきたいことがこざいますゆえ、この場をお借りしてもよろしいでしょうか」
ザイード様が国王に発言を求める。
来た来た!ここからよーっ!!
「……ナターシャ・ドナレイル侯爵令嬢!前へ!」
「何のご用でございましょうか」
突然名前を呼ばれたナターシャは、さすが悪役令嬢といった傲慢さで白々しく答える。
「私、ザイード・アッシャーは本日をもって、ナターシャ・ドナレイル嬢との婚約を破棄する!私が真に愛するのはここにいる、リーリア・レンブラン男爵令嬢ただ一人だ!」
きゃーっ!!
言ったー!!
ザイード様カッコいい〜♡
さあ、ナターシャ!
そのいけ好かない顔を醜く歪めなさい!!
「婚約破棄、承りました!こちらに書類を持参しておりますので、直ちに国王陛下に認可をいただきたく存じます!」
………は?
……………え?
なんか、ゲームと展開が違う……?
私が呆気に取られている間に、ナターシャの父親が書類を持ってきてザイード様のお父様がサインし、それを国王に提出している。
まるでイメトレして来たかのようにスムーズに。
「うむ、分かった。此度のアッシャー侯爵家とドナレイル侯爵家の婚約解消を認めよう」
国王があっさりと婚約解消を認めてしまった。
ナターシャの断罪は?
そう思っているうちにザイード様に引っ張られ、あれよあれよと階段を降りていた。
階段の下で国王に拝謁する貴族たちを見ながら、私は今の状況についてずっと考えている。
極悪ナターシャの断罪が見られなかったのは残念だったけど、婚約破棄は成功したから、結局は私が勝ったということで良いのよね?
私はこのままザイード様と結婚できるのだものね?
頭の中で答えの出ない問いかけを繰り返していると、突然周りの貴族達がワッと沸き立つ。
階段の上を見ると、ナターシャの前に超絶イケメンが跪いている。
―――あれは……第二王子のウィリアム!?
「ナターシャ・ドナレイル嬢。私、第二王子ウィリアムは幼い頃から貴女だけを愛している。どうか私と結婚してくれないか?」
私はウィリアムの口から飛び出したセリフの意味がなかなか飲み込めなかった。
えっ?
ウィリアムがナターシャに求婚?
ナターシャは婚約破棄されたばかりなのに?
どういうこと?
「……私で宜しければ。よろしくお願いいたします」
ナターシャが淑やかに返事をすると、ウィリアムはナターシャの手にキスを落として嬉しそうにナターシャを抱き上げている。
私は開きっぱなしの口にも気が付かないまま、ただただ階段の上の光景を眺めていた。
……いや、やっぱり何かおかしいわ?
『ナターシャ・ドナレイル』は悪役令嬢なのよ?
そんな性悪に王子妃が務まるわけないわ!
私がウィリアムに助言してあげようと声を出そうとした、その時。
「……リーリア。私たちの用は済んだし、早く私たちの愛の巣へ行かないか?……もう待ちきれないんだ」
ザイード様が私の耳元で色気たっぷりの声で囁くもんだから……私は頷いて、ザイード様について静かに会場を後にした。
◇◇◇
―――あの卒業パーティーから半年。
私はアッシャー侯爵家の別邸に、一日中閉じ込められている。
卒業パーティーの後、ザイード様は私をここに連れて来た。
初めてこの部屋に入った時、私は戦慄したわ。
部屋は薄暗くて窓には目張りと鉄格子、ベッドには鎖に繋がれた腕輪と足輪が転がっている。
まるで監獄のような部屋。
あ、分かった!
ザイード様なりのジョークかしら?
あまり笑えないけど、一応笑っておこう。
そう思ってザイード様を笑顔で見つめると、ザイード様は今まで見せたことのない仄暗い笑顔を浮かべている。
「リーリア。ああ、早く君を無茶苦茶にしたいよ……」
………ああ、これは失敗した。
私は瞬時にそう悟った。
それから、私は一日中裸のままベッドに繋がれている。
ここに来た日から、外に出たことは一度もない。
ザイード様は気が向いたらここに来て、いろんな道具を使って私を痛めつける。
行為が終わった直後だけは学院の頃の優しいザイード様に戻るのだけど、それも一時だけで、すぐに本邸へと戻っていく。
私は独りぼっちで過ごす間、どこで間違えてしまったのかを必死で考える。
攻略対象外の人を選んでしまったこと?
ザイード様の本質を見誤ったこと?
婚約者のいる人に手を出してしまったこと?
◇
ある日、この部屋に戻ってきたザイード様が正装を着ていた。
「今日は夜会だったのですか?」
「ああ。今日は第二王子殿下の結婚を祝うパーティーだったんだ」
ザイード様は素っ気なく答える。
「えっ……まさかお相手はナターシャ様!?」
「当たり前だろう。婚約者なんだから」
ウィリアムは本当にあの極悪ナターシャと結婚してしまったの!?
私が夜会に参加していたら目を覚ましてあげたのに!!
「どうして私を連れて行ってくれなかったの!?」
私がザイード様を詰ると、ザイード様は面倒くさそうに私を見下ろした。
「なぜ君を連れて行かないといけないんだ?婚約者でもないのに」
私はその言葉に唖然とした。
確かにザイード様はナターシャに婚約破棄を言い渡したけれど、私と婚約するとは言わなかった。
ふと卒業パーティーでの幸せそうなナターシャの顔を思い出し、涙が一筋頰を伝い落ちた。
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