表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

鬼に懐かしい面影を見た

気分転換にチャレンジしてみようかなって思いました。

よろしければお付き合いください!

暗闇に浮かぶ赤い光、闇を飲み込むように炎が広がっている。足下に転がる赤黒くなった変わり果てた人の姿。ツンとした臭いが非現実的なものを見せられて呆然となった。踏み場を探しながら炎の先を見ようと目を凝らしながら近づくと、自分に悪夢を見せた城の変わり果てた姿だった――


きっと、この場にいたのが自分のような人間ではなく、同じ年頃の貴族令嬢であれば泣き騒いでいたのだろう。だが、自分は違う。とっくの昔にその瞳は濁らせてしまっていたのだから。





かつては田舎貴族の子爵令嬢として生まれたエミリア・ハールトネン。

都会からは離れた田舎の領地であるがために、牧草に塗れながら大口を開けて笑う日々を送っていた。貧しいながらも幸せな日々を過ごしていた。優しい兄と幼馴染の少年と愛馬のハミル、厳しいけれど優しい母と蜂蜜のように甘いけど芯の通った賢い父。エミリアは貧しくても健やかに活発に育っていた。


「エミリアもいい加減、淑女らしくしないと嫁の貰い手がなくなるぞ」

「そんなことないもん! ルヴィもそう思わない?」


兄の揶揄うような言葉に負けず嫌いを発揮したエミリアは、幼馴染のルドヴィク・ガルデッラに同意を求めてみれば、顔を赤らめて、消え入るような小さな声で「うん」と頷いてから俯いてしまった。


「ルヴィはもっと堂々としないと! 素敵な王子様になれないよ!」

「王子様」


ルドヴィクはぽつりと零してからエミリアの顔をちらりと覗き見ていた。ルドヴィクは何かを言おうとしていたはずだが、なんだっただろうか。今となっては思い出せない。


何故なら、そんな幸せな日々は、突然崩れていったからだ。


それは嵐の日だった。落雷の音に怖がってベッドの中にこもっていると、何やら母が誰かと言い争いをしているかのような声が聞こえてきた。怖いな、と思いつつも、母が心配になり、恐る恐るその声の方向に近づいて行った。身を隠しながら近づいて行くと、母の近くに見知らぬ男が見えた。あの人は誰だろうか。

身を隠すことに意識を取られながら近づいて、床がミシッと音が鳴り、心の中で飛び上がってしまいそうなほどに動揺してしまった。その音に気付いたのか、エミリアは見知らぬ男と目が合ってしまった。


「なんだ、いるじゃないか」

「エミリア! 逃げなさい!」

「えっ?」


エミリアは突然逃げろ、と言われたことに訳が分からず、体が硬直してしまった。見知らぬ男が走って近づいてくると、エミリアも反射的に逃げようとしてしまった。しかし、子供の足で俊敏な動きをする男から逃げ切れるわけもなく、エミリアを掴もうとしたところで、エミリアの母が身を呈して男を抑え込んだ。


「クソ、どけ!」

「エミリア!」


母の行動に漸く理解した。この男の狙いはエミリアなのだ。何故エミリアに用があるのかはわからないが、母が身を呈すほどの相手であるならば、捕まってはいけない。少しでも離れようと動かない足を無理やり動かした。


「仕方ねぇ!」


男は腰からナイフを抜くと、母の腕に突き刺した。母の悲鳴があがると、エミリアは思わず足を止めてしまった。母は刺されても絶対離すものかと、男にしがみついた。


「邪魔すんじゃねぇ!」


母にしがみつかれるのが煩わしくなったのか、男は何度も何度も母を刺して、母の血が飛び散るのを見て、エミリアは恐怖で動けなくなってしまった。動かないと母が身を呈してくれた意味がなくなってしまうことは分かっていても、頭が真っ白で動いてくれない。

徐々に弱々しくなっていく母に、もう掴む力なんて残っていないだろうと思うのに、男は母を刺すのをやめてくれない。


「もうやめ……」


エミリアがか細い声で止めようとしたが、男は完全に頭が血が上ってしまったのか、母を殺すことに夢中になっていた。目の前で母が殺されていくのを見ていることしかできなくて、何かが壊れていくのを感じた。仕事の都合で今はいない父に無意識に助けを求めることしかできなかった。


「おとうさ……」

「残念だが、今こんなことになっているのはそのお父さんのせいだからな。やっとくたばったか」


男は母をモノのように蹴とばして、汚いものを触ったかのように手を拭った。エミリアは父のせいだと言われた言葉に放心していた。


「これは復讐だ。ルター公爵のご子息を奪った、お前の父ファウスト・ハールトネンへの復讐だ」

「そんな! 何かの間違いよ!」


エミリアは俵でも持ち上げるように抱えられると、おとなしく抱えられることしかできなかった。だって、父はいつも蜂蜜のように甘くて優しい人だった。そんな父がルター公爵の息子に何かするなんて、よっぽどの理由があったはずだ。でも、時折厳しいことを言う人でもあった。だから、すべてを否定することもできなかった。そうはいえども、この人は最初母を殺すつもりはなかったように思えた。だからこそ動くことができなかったのだった。


「本当にお父さんが悪かったんです――」


本当に父が悪かったのか、と聞こうとしたら、強い衝撃に意識がブツリと切れてしまった。



母が何者かに殺され、エミリアはルター公爵に連れ去られた。目的はエミリアの父への復讐。

エミリアは気が付けば、光も届かない地下室に連れてこられていた。地下牢のようではないが、地上へといく階段は施錠され、上ることはできなかった。


「気がついたか」


執事服のような燕尾服を着た男性が鍵を開けて中にはいってきた。男の目は氷のように冷めていて、恐怖で唾もうまく呑み込めなくなっていた。怖い人だ。本能的にそう思った。


「お前はここで一生働いてもらう。食事は1日1食用意する。働く内容は掃除と、地下工房での作業……武器加工や機織りなどやれるものはどんどん増やしてもらう。一生こき使うとのことだ」

「殺さないんですね」

「殺すわけないだろう。一生苦しめることが狙いなのだから」


男の宣言通り、少ない食事でほどよく死なない程度の労働を強いられた。女がやらないような仕事まで強いられていたが、味方のいない場所では助けは期待できなかった。きっと父や兄が気付いてくれるはずだ。二人を信じて、機会を探った方が利口だと察した。根っからの悪人に攫われていたらもっと足掻いただろう。だが、今回のことはそんな単純なものではないと子供ながらに感じていた。


ひたすら絶妙に死なない程度に酷使される日々。すぐに父は迎えに来るだろうと思っていたのに、迎えにくることはなかった。気付いていないのか、見捨てられたのか。


このまま、生きるか死ぬかの瀬戸際で苦しみ続けなくてはいけないのだろうか。生きる希望も見出せないまま連れ去られてから8年が経とうとしていた。

貴族令嬢であれば来年がデビュタントだったのだろうか。エミリアは8歳の時に攫われ、15歳になっていた。重労働で筋肉と骨ばったこの体は見窄らしいことだろう。ドレスなんて着られる訳がない。


「舞踏会で踊ってみたかったなぁ」


ポツリと溢してみても、虚しく思えてきて泣きたくなった。泣いてもどうにもならないから涙なんか溢れなかったが。



このまま変わり映えのない日々を送るんだと思っていたら、突然隣国の軍が攻めてきた。建物は壊され、エミリアのいた地下の扉も変形して、抜け穴ができた。

この混乱に乗じて地下室から出ると、城は原型を留めないほどに壊されていた。燃え広がる光景に、何の感情も湧き上がって来なかった。


どこに行くことも出来ずにいると、男に見つかってしまった。おそらく、この男はルター公爵であるはずだ。


「どこに行く気だ! 来い!」

「あっ」


エミリアはルター公爵に引き摺られるようにして、まだ燃えていない城の方へ連れて行かれた。


敗戦国として金、土地、糧、武器、あらゆるものを取り上げられ、王家や公爵家から娘を差し出すことも求められたようだ。

連れて行かれた場所には、縄で縛られ座ってることもままならない男達と、縄で縛られて蹲っている娘達がいた。


「我が娘を連れて参りました」


愛娘を差し出したくないルター公爵はエミリアを娘だと偽って差し出した。なるほど、ルター公爵の娘も同じ年頃の娘だ。エミリアを差し出しても誤魔化せることだろう。


エミリアは盗み見るようにちらりと顔をあげると、どこか懐かしい面影を感じさせる、精悍な男性がいた。きっと、彼が敵国のトップなのだろう。


「この娘達を離宮に連れて行け」

「は!」


エミリアも同様に縄で縛ろうとしたら、敵国のトップの男がエミリアを担ぎ上げた。縄で縛られることなく、担ぎ上げられたことで、エミリアも動揺してしまった。まさか直々に担ぎ上げられるとは思わなかったのだ。


「さぁ、行くぞ」


俵のように担ぎ上げられてはいるが、強く掴むこともなく、心ばかりの配慮を感じた。エミリアはおとなしく担ぎ上げられていると、他の娘達とは違う部屋へ連れて行かれた。

部屋の扉を乱暴に閉めると、男はエミリアをそっと降ろした。そして、男はエミリアの頭、頬、体をペタペタと触った。


「こんな軽くなるなんて……。まさかお前が差し出されるとは夢にも思わなかった」

「え?」


まるで知り合いのように話す男に、エミリアは違和感を覚えた。もしかして、見覚えがあると思ったのは、気のせいではなかったのか。


「エミリア、俺はルドヴィク・ガルデッラだ。ルヴィだ。分からないか?」


エミリアの目の前にいるのは、幼馴染の少年の面影を残した青年ルドヴィク・ガルデッラだった。エミリアは現実味がなくて呆けていると、ぎゅっと抱きしめられた。


「ずっと会いたかった。ミリャ」


へにゃと笑った顔は確かにルドヴィクの顔で、エミリアはプツンと何かが切れた音がして、ルヴィの腕の中で声を上げて泣いてしまった。声を上げて泣くなんて8年ぶりだったかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ