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8:出生率と打算

 近年、龍王家では新たに生まれてくるαの数が激減していた。


 もともと、αが多い家系の者は、α同士で結婚する。

 そのほうが、今後もαが誕生する確率が高いからだ。


 エリートの血筋を途絶えさせまいと、力のある一族はα同士の結婚を繰り返している。

 それでも、αの生まれる確率は百パーセントではない。αの数は代を経るごとに減っていく一方だった。


 αの出生率の減少に歯止めを掛けるただ一つの方法、それは人口が極端に少ないΩとの結婚だ。αとΩの間にできた子供は百パーセントαになる。それも、力の強い先祖返りが生まれる確率が高い。


 だから、α性による権力を維持したい者たちは、喉から手が出るほど希少なΩを欲している。

 龍王家も例外ではない。

 権力者の中には、病院の受診記録や傘下の企業から得た個人情報を元にΩを探し出す者たちもいた。

 流石に凪はそこまで露骨な真似はしないが、Ωである花と出会ったからには、逃がすなど考えられなかった。


 その上、花は凪の「運命の番」だ。

 限りなく出会う確率の低い恩恵。普通のΩとも異なる奇跡のような存在。

 運命の番は古くから、「確実に先祖返りのαを産む上に、一族全体に繁栄をもたらす」と言われているのだ。

 もはや伝説のような扱いだが、今だその存在を信じている家も多い。


 飲んでいた抑制剤が効かなかったのに加え、衝動的にうなじに噛みついてしまったことから、花は凪にとっての「それ」だと思われる。

 御曹司という立場上、ハニートラップをしかけられた経験もあるが、凪が理性を失うなど、初めての経験だったからだ。


(いや、Ωのフェロモンに屈するなど言語道断。Ωが必要だから噛みついただけだ。断じて、惑わされてなどいない)


 正直、花が「運命の番」だという実感は湧かないが、一族の繁栄に繋がる彼女は手放せない。

 そろそろ結婚について考えなければならない時期だったから、凪にとって花との出会いは渡りに船だった。


(龍王グループの一員になれるのだから、向こうにも不満はないだろう)


 凪はそう信じて疑わない。

 今までだって、数多の女性から、数え切れないほどのアプローチを受け続けてきたのだから。


 しかし、最寄りの屋敷に連れ帰った花は、どうにも様子がおかしかった。

 目覚めたと報告を受けて会いに行ってみれば、始終何かに怯えている様子を見せ、仕事があるからと帰りたがろうとする。

 自分を前にした女性から、こんな反応を返されたのは初めてで、凪は困惑した。


 その上、花は筋金入りの世間知らずらしく、自身がΩであるにもかかわらず、発情について何一つ知らずにいた。

 聞けば学校の性教育でも教わっていないなどと言う。

 一体どんな生き方をすれば、こうまで自分の体に無知でいられるのだろうか。彼女の親は娘に何も伝えていないのだろうか。

 次々に疑問が湧いてくる。


(まあいい。結婚するに当たり、どのみち花の素性は調べる予定だし、実家を訪問しなければならない。そのうち真相がわかるだろう)


 凪はひとまず、今夜は泊まっていくよう花に伝えた。もう夜になっているからだ。

 花は渋々頷き、凪の要求を呑む。


(まあ、明日になっても帰す気はないが)


 仕事も辞めさせ、早々に婚姻を交わすべきだ。

 さっさと子供を作れば、結婚や子作りといった、煩わしい義務から解放される。


(この女にとっても、そのほうがいいはず)


 Ωは犯罪に巻き込まれやすいが、龍王家なら花を守ることができる。

 凪との婚姻は、彼女にとっても得しかないものだ。


 しかし翌日の早朝、花は感謝の意を記した手紙を残し、忽然と姿を消した。


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