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7:先祖返り

 その女――春川花を見たとき、いつもは冷静な凪の仮面が完全に崩れた。

 彼女と出会ったのは、とある駅前にある新築ビルの前で、完成の記念式典が行われていた最中のこと。

 ふと視線を感じで顔を上げたところ、通りすがりの花と目が合い……そして、直後に自身の体に異変を感じた。そして、気づいた。


(くそっ! あいつはΩか……街中で発情するとは傍迷惑な)


 抑制剤を服用しても尚反応してしまう、理性を根こそぎ持って行かれそうな甘い香り。

 過去にΩのフェロモンを嗅いだ経験はあったが、それとは明らかに違う。こんなことは初めてだ。

 むせ返るような香りの中、凪は特別な気配を感じ取っていた。

 本能があれを手に入れろと訴えてきて、あらがえないほど強く惹かれてしまう。


(普通では起こりえないことだ、もしかしすると。運命の番……なのか?)


 フェロモンに当てられた周囲にいた男たちが軒並み理性を失い、我を忘れて花を追いかけ回し始める。当然の結果だ。

 彼女は必死に人気のない方へと逃げていた。


「チッ……手のかかる」


 不本意に思いながらも、凪の足は勝手に花を追いかけて動く。

 そうして、路地裏で理性を失った男共に襲われている花を発見し……気づけば水の妖術を放っていた。


 凪は日本有数の巨大企業グループの跡取りだ。

 α性の例に漏れず、幼少期から優れた実績を残し、周囲から期待されて育ってきた。

(騒ぎを大きくしたくないが……)

 対処はできる。自分でも自分の実力を疑ってはいない。

 もともと物覚えも早く、努力も怠らず、将来を見据えて生きてきたからだ。

 その上、凪はαの中でも希にしか現れない「先祖返り」だった。


 先祖返りとは、先祖である妖の血が強く表れたαのことで、妖術を使える者を指す。

 妖術は妖固有の力であり、普通の人間は使えない。

 凪の力は龍王家の祖先である水龍のが持つ力、「水の妖術」だった。


 普段からαと接する機会の多い凪だが、自分以外で妖術を使える者は数人しか知らない。

 それくらい珍しいのが先祖返りである。

 だが、妖術を使うことはめったにない。


 水の妖術で理性をなくした輩を一掃したあと、凪は迷わず花に近づいた。

 もし彼女が、凪の運命の番であるならば、なんとしても手に入れておきたかったからだ。

 たとえ、それが打算にまみれた身勝手な理由であろうとも。


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