50:報告
綺麗に整頓されたオフィスの机で、凪は花の到着を待っていた。
静香から連絡を受け、先ほど受付からも花の到着を知らせる電話を受けた。
しかし、いつまで経っても彼女は現れない。
(さすがに遅いな。様子を見に行くか……)
立ち上がった凪の元に、書類を持った部下がやってくる。彼は龍王家直属の者で、凪の仕事の補佐をしている側近だった。
「凪様、エレベーターの前に、これが落ちていたのですが」
それは、凪が持ってくるように頼んでいた書類だった。
部下は社内で書類を発見し、内密に運んできたようだ。
「花は?」
「それが、書類があったただけで、花様はどこにも……」
「誰も、花を見ていないのか?」
「受付が確認したあとは、一人も目撃していないようです。エレベーターに乗ってすぐ、ここへは着けますし、花様が来られるのはいつものことなので……特に確認をしていなかったと」
凪は嫌な予感に苛まれた。
「他に不審な者は見ていないか?」
「それらしき人物は見当たりませんでした。警備の者が今、カメラを確認しています」
話していると、別の部下がやって来た。凪直属の部下ではなく、社内に勤務している社員の一人だ。
「凪様、来客が……。向こうの待合室でお待ちです」
花かもしれないと淡い期待を抱き、オフィスを飛び出した凪は現場へ向かう。
しかし、そこにいたのは花ではなかった。
「絵里香……?」
「ふふ、凪様ったら。そんな顔をして、一体誰だと思ったの?」
消えた花、ばらまかれた書類、そして……。
目の前の人物を見て、凪の嫌な予感が益々深まる。
「そこのあなた、珈琲をお願い。凪様のぶんもね」
絵里香は凪についてきた社員に、当たり前のように命令する。社員は慌てて珈琲を用意しに行ってしまった。
「なんの用だ。お前に構っている暇はない」
焦りから、凪は剣呑な口調になる。
「相変わらず、つれない人。大事な情報を持ってきてあげたのに」
凪の眉間の皺が深まる。
そこへ、社員がわたわたと珈琲を運んできて、テーブルの上に並べた。
「まあまあ、凪様。座ってお話ししましょ?」
苦々しい気持ちを抱きながら、凪はテーブルを挟んだ絵里香の向かいに腰掛ける。
(絵里香は、消えた花と関わりがあるかもしれない。情報を聞き出さねば)
番がいなくなってしまった不安で喉が乾く。凪は目の前に置かれた珈琲を口に含んだ。




