47:居場所
久々の休日を、花は凪と共に過ごしていた。
和やかな雰囲気で、龍王家では数少ない洋風の家具が並ぶレトロなリビングには、見るからに高級そうなソファーがある。
そこへ凪と横並びに座ると、屋敷で働いている使用人が紅茶を持ってきた。
「花は我が家の紅茶が気に入っていると静香に聞いた。それで、同じメーカーの新作を買ってきたのだが……」
丁寧に淹れられた紅茶からは、ほのかに果物の香りがした。
「乾燥したフルーツが入っているらしい」
「……いい匂いです」
花は凪の気持ちを嬉しく思った。
「凪さん、ありがとうございます。いろいろなことがありましたが、私はここへ来られてよかった。あなたの傍にいると、とても安心できるんです」
それは「運命の番」とか、そんな理由ではなく、凪自身の人となりに惹かれたからだった。
「ずっと傍にいればいい。子供が生まれても、その子が巣立っても……。私はお前以外の妻を迎える気はない」
「……っ!」
完全な不意打ちだった。
花は勢いよく凪を見上げ、彼の目に偽りがないことを知る。
「……凪さん、私、ずっとここにいていいんですか? 子供を産んだあとも?」
「当たり前だろう。子供を産んだら出て行くつもりだったのか?」
花はふるふると首を横に振って否定した。
「いいえ。でも、私と凪さんでは家格的に不釣り合いですし……用が済んだら、龍王家はしかるべき家のαの奥さんを迎えるのではないかと考えていました」
そう答えると、凪は渋い顔になった。
「俺をなんだと思っているんだ。いや、そもそも契約結婚などと言い出し、花を不安にさせた私が至らなかったのだな」
改めて花を見つめた彼は、先ほどとは打って変わった優しい表情を浮かべる。
「お前が望む限りうちにいればいい。むしろ、出て行かれたら私が困る」
「……!!」
瞬間、花の目から大粒のしずくが零れ落ちた。
それはぽたりぽたりと、真新しいスカートの布地を濡らしていく。
「……っ、花!?」
凪が慌てふためきながら、花の顔をのぞき込んだ。花自身も焦っている。
彼を困らせるつもりはないのに、嬉しさと安堵から涙が止まらない。
「凪さん、あ、ありがとう、ございます」
ちゃんと、自分の感謝の気持ちを伝えたいのに、大事なときなのに、言葉が途切れ途切れで締まらない。それでも、凪は花の気持ちを察し、「大丈夫だ」と言って抱きしめた。
それだけで胸がいっぱいになる。
(この人と、一緒にいたい……ずっと)
勇気を振り絞り、花は凪の方へおずおずと手を伸ばす。
そうして、そっと彼の背に両腕を回した。
(温かい)
凪はまるで花を慰めようとしているかのように、優しく髪を撫で続けてくれた。




