45:調査と企み
ギラギラと陽光を反射するビルを出て、颯爽とリムジンに乗り込む。
高くて細いヒールを履いた足を組み、絵里香は窓の外を睨んだ。
(ドブネズミ、小汚いドブネズミが!)
絵里香は許せなかった。
知らないうちに、自分の伴侶となる予定だった相手に近づいてきた矮小な女が。
(あの場所は私のものよ。Ωだという理由だけで、庶民が奪っていい立場じゃないの!)
若い男性の運転手がゆっくりと車を動かし始める。
絵里香は真っ赤なネイルに視線を移し、彼に行き先の変更を命じた。
「ねえ、寄ってほしいところがあるんだけど」
運転手は「はい」と簡潔に返事をし、行き先を変更する。
指示した行き先は、龍王……いや、春川花の古巣。奴の実家だ。
あいつが龍王家の者なんてぜったいに認めない。
あの女については事前に全て調べさせてもらった。
女の家族全員がβ。
両親は家の近所でラーメンチェーンを営んでおり、業績は下り坂。
当人たちが現場に出ることはほぼないという。
子供は二人とも、さほど偏差値の高くない私立の学校に通っているようだ。
長男の方は将来的に家業を継ぐ予定らしい。彼が大人になるまで、その家業がもてばの話だが。
(嫌だわ。そんなド庶民の家に足を運ばなければならないなんて。考えただけで寒気がするわ)
春川花の家の前まで来ると、次女である茜の後ろ姿が見えた。ちょうど、学校から帰ってきたところのようだ。
車から降りた絵里香は、つかつかと茜の方へ歩み寄った。
調査によると、春川家全員が長女の花と不仲だという。事実、花の結婚式で春川家は騒ぎを起こし、会場を追い出されたらしい。
(親も子も品がない一族ね)
未だ春川家は花のことをよく思っていない。
だからこそ、絵里香は彼らを利用できると考えた。




