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41:企み2

 帰宅してしばらくののち、千秋たちは全員揃って凪の仕事部屋に呼び出された。

 覚悟していたが、千秋は酷く緊張している。


(大丈夫。きちん全員で話し合って、口裏も合わせてきたもの)


 想定外のことで計画は狂ってしまったが、監督不行き届きを叱られるくらいで済むはずだ。それに、ここで花のイメージを落としておけば、後々自分が妻になるのに有利にことを運べる。

 俯いた千秋は、凪に見えない角度でほくそ笑んだ。


「――それで、護衛たちは花の発情が始まった瞬間に、花を襲うまいと建物の中へ駆け込み避難。世話係は花に薬を渡そうとするも花が受け取りを拒否したと?」

「そうです。花様に群がる男性たちをかき分け、必死に手を伸ばしたのですが、発情状態の花様はその、行為に夢中で……私の手を振り払われて」

「ほう」


 凪は内心の読めない表情で千秋たちを眺めている。


「それでは、花が逃げ出した際、お前はあとを追わなかったのか。こちらで保護できたから良かったものを」


 あのあと、花は龍王家の者によって保護されたと、千秋は人づてに聞いた。

 どこからか薬も入手して、発情状態も収まっていたらしい。運のいい女だ。


「もちろん、一人で走り出した花様を追いかけました。でも、花様の足が速くて見失ってしまい」

「なるほど」

「あの、差し出がましいようですが、花様に龍王家次期当主の花嫁は難しいかと思います。発情していたとはいえ、今日のように無差別に男性と戯れるなんて。凪様の妻にふさわしくありません」


 凪は先ほどから相づちを打つばかりだ。


(やっぱりね。凪様が、ドブネズミに本気になるわけがないのよ)


 これは上手くいくかもしれないと、千秋はやや調子に乗る。


「本当に獣のようで、おぞましいです。走り去ったのだってきっと、新たな男性を探しに行ったのだわ」


 だからあんないやらしい貧乏人はやめて、社長令嬢の千秋を選んで妻にしてほしい。

 次に凪が言葉を発するまでの僅かな時間が、酷く長く感じられた。

 表情を変えないまま、凪は護衛たちの方を見る。


「お前たちも、彼女と同じ意見か?」


 問われた護衛たちは、揃って大きく頷いた。


(ふっ、こいつらは既に私の味方なの。いくら問いかけたって、私と予め打ち合わせた内容しか言わないわ)


 千秋は勝利を確信した。

 だが次の瞬間、無表情だった凪の顔が怒りに歪む。


「ふざけるな」


 彼の怒りは、夫を裏切った花に対してではなく、千秋や護衛たちに向けられたものだった。


(きっとあのドブネズミの仕業だわ。保護されたあとで、凪様に私たちのことを口走ったのね。いいわ、そっちがその気なら、徹底的に追い詰めてやる!)


 凪は今、千秋たちを疑っている。

 だが、それも織り込み済みだ。

 大きく息を吸い込み、千秋は花が嘘をついていると凪に伝える。


「お話ししにくいですが、花様は私たちについて悪く言っておられるかもしれません。あのような現場を見られて、気まずいでしょうから。ですが、彼女の状況は、ここにいる全員が目にしておりますから」

「つまり、花が私に語った話は嘘だと?」

「そ、そうです。ああ、やはり花様は凪様に真実をお話にならなかったのですね」


 思った通り、あの女は自分たちの所業を凪に告げ口していたのだ。対策しておいて正解だった。ドブネズミの分際で厚かましい。


「私たちの言葉は間違っておりません。ああ、でも、花様を叱らないで差し上げてくださいね? 今回のこと以外でも、常日頃から彼女にいい感情を向けられていないのは知っていましたが」


 ついでに、あることないこと話を盛っておく。


「ここを追い出されて彼女の行き場がなくなるのは少し可哀想ですし……」

「何か勘違いをしているようだな」


 突然の冷たい声に、千秋は思わず言葉を切った。

 声の主である凪を見ると、彼は眉を顰めて千秋たちを睨んでいる。


「行き場がなくなるのは花ではない。お前たちの方だ」

「なんですって!?」

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